Skip to main content

Fujitsu

Japan

アーカイブ コンテンツ

注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

研究開発最前線


雑誌FUJITSU 2018-9

2018-9月号 (Vol.69, No.5)

富士通研究所は,研究者が自由な環境の中で世界最高峰の技術開発を行うために,富士通から独立した組織として1968年に創設され,本年11月に創立50周年を迎えます。これまで,革新的な研究開発成果を次々と生み出し,人,社会,ビジネスに新たな価値を提供することで世界をリードしてきました。
本特集号では,富士通研究所が世界をリードする8つの先端テクノロジー領域の最新成果とDigital Co-creationの取り組みについて紹介します。

論文

巻頭言

高い目標,深い思索,大きな飛躍 (514 KB)
株式会社富士通研究所 代表取締役社長 富士通株式会社 CTO 佐々木 繁, p.1

特別寄稿

総括

Digital Co-creationを実現する先端テクノロジーへの挑戦 (945 KB)
河野 誠, p.8-13
富士通はテクノロジーカンパニーとして,ICTによって常に変革に挑戦し続け,豊かで夢のある未来を世界中の人々に提供することを目指している。その中で,富士通研究所は先端テクノロジーによって,こうした富士通の企業理念の達成と持続的な成長を牽引する役割を担っている。今や,デジタル技術は社会の変革のみならず,企業の発展に不可欠となり,デジタル革新による新たな成長モデルが求められている。その実現のためには,先端テクノロジーとこれを活かしたビジネスモデルが必要となる。また,デジタル技術を扱う高度な専門性と,それをお客様のコアビジネスで使いこなす幅広いスキルの融合が必要である。富士通研究所は,高度な専門人材による技術とビジネスモデルの提供によって,お客様とともに新たな価値を生み出すDigital Co-creationを推進している。
本稿では,Digital Co-creationに向けたR&D戦略と,中長期的に取り組む先端テクノロジー領域の研究内容,および最新の研究成果について述べる。

先端基礎研究

社会課題を解決する革新的コンピューティング (852 KB)
井上 淳樹, 三吉 貴史, 石原 輝雄, 本田 育史, p.14-21
1940年代後半に実用的なプログラム蓄積方式の計算機が開発されて以来,電子計算機は70年の間に約1012倍という驚異的な性能向上を実現してきた。しかし,半導体の微細化技術が限界を迎え,ムーアの法則の終焉(えん)が近づいていると認識されている。このような技術的な背景にもかかわらず,IoT時代に生み出されるデータ量の爆発的な増加は今後も続くと予想され,そのデータを使った新たな価値創造やサービスへの期待が高い。この期待に応えるには,ムーアの法則に頼らない性能向上が必要になっている。本稿では,新しいコンピューティングパラダイムとしてドメイン指向コンピューティングを提案する。ドメイン指向コンピューティングでは,知識処理のような厳密な数値処理結果を得ることを目的としない分野において,必要な処理に特化したアーキテクチャーを採用することによってムーアの法則の限界を突破することを目指す。例として,ディープラーニング学習エンジン,高速画像検索エンジン,組み合わせ最適化問題専用マシンへの取り組みについて述べ,従来比50 ~ 12,000倍という高い性能となることを実証した。
本稿では,新しいコンピューティングパラダイムとしてのドメイン指向コンピューティングの方向性と,具体的な取り組み事例について述べる。
人に信頼され社会を発展させる人工知能 (995 KB)
毛利 隆夫, 湯上 伸弘, 岡本 青史, p.22-29
AI(人工知能)は,企業や社会のあらゆる場面をデジタル化し,変革するためのキーテクノロジーである。企業や社会は人が支えている部分が大きいことから,その変革を推進し,大きな価値を提供するためには,人とAIの長所を活かした最適な組み合わせを実現する必要がある。富士通研究所では,Human Centricの考え方に基づいてAI技術の研究開発を行っている。その中で,専門家と同等以上の性能を発揮するAI技術だけではなく,人とAIが深く連携するために必要となる,AIの出力結果を説明する技術の開発も行っている。
本稿では,FUJITSU Human Centric AI Zinraiの全体像を紹介した上で,Deep Tensorなどの学習技術とナレッジグラフなどの知識処理技術,およびそれらの技術を組み合わせた「説明可能なAI」などの先端技術を,医療やセキュリティ分野などへの実践例とともに紹介する。
価値創出のサイクルを回すデータマネジメント (835 KB)
松原 正純, 中村 実, 佐藤 充, 吉田 英司, 松岡 直樹, p.30-36
官民データ活用推進基本法や改正個人情報保護法などに代表される法整備の後押しや,産官学連携によるデータ流通推進協議会の発足など,データ流通・利活用の準備が整いつつある。今後,企業のビジネスがデジタル化され流通するようになると,異業種の間でDigital Co-creation(共創)が今まで以上に加速され,新しいイノベーションが生まれる。富士通研究所では,異業種間のDigital Co-creationを実現可能とするConnected Digital Placeを掲げ,その中核としてデータをつながる形式に変更して管理する,データドリブンプラットフォームの研究開発を進めている。
本稿では,データドリブンプラットフォームを実現する最新の研究と,本プラットフォームを用いて価値創出のサイクルを回す実践への取り組みについて紹介する。
Cyber-Physicalをつなぐ5G時代の情報通信マネジメント (1.06 MB )
山田 亜紀子, 齋藤 美寿, 角田 潤, 松本 達郎, 堀尾 健一, 引地 謙治, p.37-45
5G(第5世代移動通信システム)時代を間近に控え,実世界の人・モノとサイバー世界が融合するCyber-Physicalシステム(CPS)の実現に向けた様々な取り組みが行われている。富士通研究所でも,多様なCPSサービスを容易に社会実装し,今までにない体験を次々と可能とするための鍵となる以下の三つの技術を研究開発している。一つ目の「フィールドエリア管理基盤」は,実世界の多様なデバイスの制御実現に当たってデバイスごとの開発を不要とする技術である。二つ目の「実世界サービス基盤」は,実世界をサイバー空間に実世界オブジェクトとして写像し,実世界の状況に応じて大量のデータを扱うサービスの組み立て・組み替えを効率的に実施可能とする技術である。三つ目の「環境適応型仮想ネットワーキング技術」は,使う人や目的に応じて安全なネットワーク環境の構築と制御を可能とする技術である。
本稿では,Cyber-Physicalをつなぐに当たり重要となる上述の二つの基盤技術,および実世界とサービスをタイムリーかつセキュアにつなげるネットワーキング技術について述べる。
デジタル共創を支えるシステムエンジニアリング (988 KB)
上原 忠弘, 松尾 昭彦, p.46-54
あらゆるものがデジタル化され,それらを組み合わせて新たなビジネスを生み出すデジタル共創の世界が広がりつつある。企業がこの世界で生き残りビジネスを拡大していくためには,自社の強みとなる業務をAPI(Application Programming Interface)として外部に公開しながら,他社の強みであるAPIを活用して価値を生み出していかなければならない。そのためには,APIを中心とした迅速かつ高信頼なシステム開発・運用を行うエンジニアリング技術が必要となる。富士通研究所では,これを実現するための技術領域をAPI-Publish & Composeと名付け,複雑化した既存システムから自社の強みとなる機能をAPIとして提供するためのシステム分析技術と,他社から提供されるAPIを活用して素早く安全に新しいサービスをシステム化するための開発・運用技術を研究開発している。
本稿では,API提供者とAPI利用者の双方の立場で必要となる技術に関する富士通研究所の取り組みと,適用事例について述べる。
安全な社会をデジタルでストレスなく守るセキュリティ (701 KB)
山岡 裕司, p.55-60
近年,データ活用がもたらす価値が注目されている。世界のビッグデータ市場は2桁成長が続き,2020年までに約20兆円の規模に達すると言われている。それに合わせて,適正なデータの流通・活用を推進するための法整備が世界的に進み,その法律に対応するための技術も実用化され始めている。しかし,個人がリスクの高さに気付かずにデータの流通に同意してしまったり,事業者が匿名性の低いデータを流通させた場合にプライバシー問題を起こし,損害賠償などの大きな損失を被ってしまったりするなど,パーソナルデータの流通におけるリスクが判断できないことによる不安の声もある。これに対して,富士通研究所ではパーソナルデータが暴露するプライバシーのリスクを定量化・金額化する技術を開発した。また,従来不足していた匿名加工後のデータの特定性(匿名性の低さ)を算定するモデルを開発し,実際のデータに適用できることを確認した。更に,特定性を高速に算定する技術を開発し,一般的な性能のパソコンを使用した場合,100万人規模のデータセットを約1時間で算定できる十分な実用性を確認した。
本稿では,パーソナルデータのリスク評価を可能とする技術と,それによってデータの価値をより引き出せる社会を実現する構想について述べる。
人を理解し協働するセンスコンピューティング (981 KB)
林田 尚子, p.61-68
日本の生産年齢人口は,2060年に全人口の約半分にまで落ち込むと予測されている。このような社会の変化とともに,テレワークやロボットを活用する新たなワークスタイルが身近になりつつある。職場において,他者とのつながりが生み出す力は人々を大いに助ける。一方で,現状のロボットや情報システムではこれらの力をうまく活かせていない。富士通研究所では,こういった人の心理的な要素を含めて,人を理解し支援する情報システムの実現を目指したセンスコンピューティングの研究に取り組んでいる。その一環として,VR(Virtual Reality)空間を活用したユーザー同士のつながりを支援する将来のテレワークシステムを想定し,そのデザインフェーズとしてVR空間における遠隔のユーザー同士の対人関係構築に関する行動の観察を行った。その結果,ユーザーの身体パーツの位置や上半身の向きなどが,対人関係構築に重要であるとの新たな知見を得た。
本稿では,本研究の理論的背景,ユーザー観察の概要,およびその結果について述べる。
既存のパラダイムを革新する新材料・デバイス (798 KB)
宮島 豊生, 谷田 義明, 松浦 東, 大島 弘敬, p.69-75
これまで新材料の開発は,一般的に研究者の経験と知識に基づいて膨大な実験を繰り返して行われてきた。近年,計算機の処理能力の向上と情報科学技術の進展により,コンピュータ上で材料設計の指針を見出すマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注目されている。富士通研究所では,新材料・デバイスや新薬の創出を目指してMI技術の研究に取り組んでいる。MIにおいて基礎となるのはデータであり,いかに質の高いデータを網羅的に収集し活用するかが課題である。富士通研究所では,蓄積してきた膨大な材料やデバイスのデータをデータベース化し,AI(人工知能)技術で解析するというアプローチを進めている。一方で,得意とするシミュレーション技術を活用して,コンピュータ上で実験と同程度の精度でデータを生成し,そのデータとAIを活用したインフォマティクス型設計にも取り組んでいる。
本稿では,物理・化学に基づく分子シミュレーション技術を活用したIT創薬技術と,磁気シミュレーションとAI技術を融合した磁気デバイスの最適設計の実現や,新規材料開発を目指したインフォマティクス型設計技術について紹介する。また,材料探索だけでなく,プロセスまで含めたMI手法として,実験・分析・シミュレーションを活用したMIの取り組みおよび今後の展望について述べる。