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Japan

2014年度 私の視点

市民との共創によるイノベーション

経済研究所
主任研究員 西尾 好司

企業は、新しいサービスや製品の開発に向け、ユーザや顧客との間で様々なイノベーションに取り組んできました。ユーザの主体的な役割の重要性は益々高まっており、ユーザ自らが製品を設計開発できるツールを提供する企業も登場しています。今後はさらに、ユーザの範囲を潜在ユーザとしての市民にまで広げ、市民のイノベーションの参画、市民との共創によるサービスの開発が一層重要になっていくと考えています。

欧州では、EUや各国が支援しているLiving Labという取り組みがあります。これは、市民がイノベーションに参加する活動です。このLiving Labの特徴は、(1)参加者にプロトタイプや製品化前のテストサンプルなどを実際の利用環境で使ってもらいその行動を理解・洞察すること、(2)その参加者が企業などと新しい製品やサービスを企業とに直接提案し共創すること、(3)市民、地方自治体、大学など多様な関係者がサービスの創出に参加することです。欧州では、これまで200以上のプロジェクトが進められ、欧州以外の地域に拡大した国際的な取り組みとしても進められるようになっています。

また、現在、ビックデータを活用して様々なサービスの開発が進められています。社会の情報は個人の情報の束とも考えられるので、鍵となるのは個人の取扱です。個人情報の保護は当然ですが、情報を適切に活用することで社会的な価値を生み出すことに目を向けなければなりません。これには、情報の活用に対する市民の理解が不可欠であると同時に、市民が企業や行政と一緒にサービスを開発していく組みも必要になります。

このように、Living Labやビックデータの活用は、市民や行政、企業、大学など、様々なステークホルダーとの共創であり、地域・社会でのサービス開発の実践という新しい取り組みです。そこには、様々なステークホルダーを同じ目標に向かわせることや市民とコミュニケーションを取ることなど、新しい能力が必要となります。これまでユーザや市民は、マーケティングや社会実験などでは、被験者という立場であって、一緒に創出するパートナーという位置づけではありませんでした。今後は、パーソナル化されたサービスの開発が益々重要になる中で、市民との共創は新しいイノベーションの手法の一つであり、こうした共創する活動や共創する能力は、企業や行政に求められる活動であり、能力となると考えています。