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2014年度 私の視点

統合報告に取り組む

経済研究所
上席主任研究員 生田 孝史

企業の情報開示の考え方として、統合報告が注目されています。従来の財務情報に加えて、企業の戦略や方針、ガバナンス、知的財産、さらには環境や社会問題への対応などを含む非財務情報を、包括的に「統合」して報告しようというものです。

東洋経済新報社のCSR企業総覧2014年版によれば、国内の大手・先進企業1,210社の約12%(148社)が統合報告書を発行しています。作成予定と検討中の企業を合わせると全体の約2割(245社)に達していて、関心が拡大しています。

統合報告の動きは欧米で先行しました。米国S&P500企業の時価総額に占める物的・財務的資産の割合は、1985年の68%から2009年には19%にまで減少しています。投資家は、財務諸表だけでは企業の価値やリスクを十分に把握できないという危機意識を強めています。欧州では、2003年のEU会計法現代化指令によって、EU上場企業に非財務情報の開示が求められました。2014年2月からは、従業員500人以上のEU企業にまで、開示義務が拡大されています。

統合報告の標準化も進んでいます。英国の国際統合報告評議会(IIRC)は、2013年12月に国際的な統合報告のフレームワークを公開しました。米国でも、2012年に設立されたサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が、2015年までに業種別の非財務情報の開示基準作成を目指しています。

これまで統合報告と言っても、企業によって内容はまちまちで、財務報告にCSRに関する記述を加えただけで「統合報告」とした企業もありました。IIRCのフレームワークやSASBの開示基準には強制力はありませんが、事実上の国際標準となるでしょう。

事業活動のグローバル化が進むなか、海外事業を行っていなくても、海外の投資家や取引先などから、非財務情報の開示を要請される機会は増えるでしょう。多くの企業にとって、非財務価値と財務価値の双方のバランスに留意した企業経営を図りながら、統合報告に取り組むことが重要になります。