2019年02月08日更新

稼働率を上げる介護事業所のつくり方 第02回 全員営業体制の構築

株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役 経営コンサルタント 糠谷 和弘 氏

「高収益事業」とは言えない介護ビジネスにおいては、稼働率を高水準に維持することはとても大事です。しかし、前回のポイントを踏まえて「ターゲット(対象者)」を明確にし、「武器」と呼べるサービスを確立できたとしても、なかなか成果(稼働率アップ)につながらない場合があります。

サービスが優れているのに、利用者様が集まらないのですから、“営業・販促がうまくいっていない”と考えるのが常識的でしょう。「居宅ケアマネが不足している」、「営業ツールが魅力的でない」、「ホームページがうまく機能していない」といった原因は、皆さんもすぐに思いつくと思います。
しかし私が、数多くの低稼働率施設を立て直した経験から言えば、もっと根本的なところに原因が見つかることもあります。

1.スタッフがブレーキをかけている!?

そもそも、現場スタッフは「稼働率を上げたい」と、心から思っているでしょうか?本音では「NO」という場合が少なくありません。それどころか、稼働率アップを妨げていることさえあるのです。
先日も、ある有料老人ホーム事業者から「稼働率が低迷している」と相談がありました。スタッフに個別にヒアリングしてみると、見学対応の担当者が、利用者様からの入居希望を片っ端からお断りしていたことがわかりました。「ギリギリのスタッフで運営しているため、これ以上、入居者が増えたら、既存入居者に迷惑がかかる」というのが理由でした。
「灯台下暗し」とは、このことです。これでは、利用者様が増えるわけはありません。
彼らの気持ちも、わからなくはありません。稼働率が上がれば、現場は忙しくなります。ゆったりと使っていたフロアも、利用者様が増えた分、窮屈になります。
また、稼働率向上に比例してスタッフを増やすことができれば良いのですが、現場スタッフが期待するほど、余裕を持った配置にはできません。さらに、稼働率が上がればそれだけ一人ひとりの利用者様にかける時間は短くなります。スタッフが“やりたいケア”ができなくなってしまうのです。

このように考えると、稼働率アップは、現場スタッフにすれば、デメリットにしか感じない可能性もあるのです。異業種からこの業界に参入した企業には「利用者様を増やしたくない」という心理は理解できないかもしれませんが、これが介護業界の現実なのです。

2.全員一丸営業

①メリットを伝える

現場スタッフに、集客を指示する際、経営者や施設長によっては“稼働率が上がらなかったときのリスク”を前面に出して伝える方がいます。「このまま稼働率が上がらなかったら、ボーナスが減るよ」という具合です。しかし、女性が中心の介護業界では、危機感を煽るやり方はうまくいきません。
逆に、利用者様が増えたときのメリットを徹底して伝えるのです。例えば、次のような言い方に置き換えます。

        
「リスク」を伝える方法
稼働率が上がらなかったら
「メリット」を伝える方法
稼働率が上がったら
社員のボーナスが減る(払えない)
社員のボーナスが増える(払える)
スタッフは増やせない スタッフが増えて余裕ある配置にできる
館内がひっそりとしてさびしい 館内がにぎやかで楽しい
利用者様がさびしがる 利用者様の仲間が増える

②小さな成功を喜ぶ

また、稼働率が上がることが、スタッフにとって嬉しいことだと認識できるよう、社内で演出するのも大事です。 例えば、入居者が増えたら、その度に朝礼や会議で発表して拍手する。または、目標稼働率に到達したら飲み会を実施したり、少額でも「金一封」を支給するなど、“小さな成功”を皆で喜びあえるような環境をつくりましょう。

3.見学対応の強化

スタッフの“心”の準備ができたら、いよいよ集客活動です。
稼働率が低迷している施設の経営診断をすると、最も多い課題が、見学者の「契約率の低さ」です。裏を返せば、見学対応方法を改善するだけで、飛躍的に稼働率が向上するケースもあります。さて、皆さんの施設ではどれくらいでしょうか。直近の1年くらいだけでも調べてみてください。
もし30%に達していないなら改善が必要です。見直すべきポイントは、例えば次のようなことです。

         
テーマ 内容
顧客情報の取得(基本) 来館時に、スムーズに利用者様の「氏名」、「住所」、「連絡先」などを書いていただけるよう、記入フォームや記入するタイミング、声掛け方法を工夫する。
ドリンクメニューの設置 飲み物を選べるようにする。(それだけで、見学に来た利用者様は「おもてなしができる施設だ」という印象を与えられる)
応接室の演出 壁にイベントなどの写真を掲示したり、テーブルにアルバムを設置するなどして演出
アプローチブックの活用 パンフレットではなく、見学者に施設の特徴を説明するための資料(アプローチブック)を作成して活用する
トークスクリプト(台本)の活用 突然の見学者で、担当者が不在のときでも対応できるように「台本」を準備し、対応方法を職員間で研修しておく
顧客情報の取得 「利用目的」「身体の状況」「予算(高齢者住宅の場合)」「比較している(競合)施設」など、ほしい情報をヒアリングする

また、館内を見学する手順(まわる順番)も「契約率」に影響します。

もう何年も前のことですが、ある10階建ての高級有料老人ホームRでは、上階から下階に降りていきながら見学者を案内していました。
しかし、高層の建物だと、下階に行けば行くほど、眺めが悪くなり、同時に印象も落ちていきます。見学していて、第一印象は良いのですが、だんだんとテンションが落ちていくことになります。

また、有料老人ホーム事業では、「応接」や「相談室」がそれほど重要でないため、あまり装飾がされていない施設も少なくありません。
この施設もその例外ではありませんでした。壁には排煙窓しかなく、クロスが真っ白で特別な装飾はありません。とても圧迫感を感じる部屋でした。こんな部屋に通されたら「押し売りされる」と利用者様が感じても、仕方がありません。

そこで、まったく逆の順番で、1階から10階に向かって上がりながら案内することにしました。さらに、見学後の質疑応答も、狭くて窮屈な応接ではなく、眺めの良い展望レストランで行うことにしました。
すると、なんと改善後の契約率は、改善前の6倍以上となりました。

【before】
1階(応接で概要説明)10階(展望レストラン)9階(リハ室)3階(居室)1階(ロビー、デイサービス)1階(応接にて質疑応答)


【after】契約率が6倍に!
1階(応接で概要説明)1階(ロビー、デイサービス)3階(居室)9階(リハ室)10階(展望レストラン)そのままレストランで質疑応答

もし、皆さんの施設で、稼働率の低迷が課題となっていたら、まずは、現場スタッフが稼働率向上に前向きかを確かめてみましょう。介護事業においては、いくら経営者や営業担当スタッフが一生懸命になっても、現場が協力してくれなかったら、稼働率など上がろうはずもありません。
その点に問題がなければ、次に確認すべきは、見学者の契約率です。それぞれの事業の契約率の目安は、以下のようになります。

通所事業 80%
グループホーム事業 50~80%
高齢者住宅や有料老人ホーム事業 30%
特養・老健 80~90%

この水準に達成していなければ、まずは見学対応方法の改善に着手しましょう。

著者プロフィール

株式会社スターコンサルティンググループ
代表取締役 経営コンサルタント

糠谷 和弘 氏

プロフィール
1971年東京生まれ。明治大学政治経済学部卒業。ディズニーでの4年間のキャスト経験を経て、株式会社ジェイティビーに入社。企業の海外視察を担当し、39カ国を訪問。当時の専門は、農業、原子力発電、高齢者福祉。コンサルティング大手の株式会社船井総合研究所に入社後は、介護保険施行当初から介護サービスに特化したチームを自ら立ち上げ、統括責任者として幅広くコンサルティング活動を行ってきた。
現在では、介護サービスに特化したコンサルティング会社を自ら設立し、「地域一番企業をつくる」をモットーに、年に50回以上の講演をこなすほかは、年間250日以上はクライアントを訪問し、経営者や経営幹部と一緒に様々な経営課題の解決にあたっている。コンサルティング実績450社以上。
コンサルティングテーマ
  • 異業種からの新規参入支援
  • 新規事業開設(有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、デイサービス、グループホームなど)
  • 中・長期事業計画の策定
  • 集客支援(デイサービス、デイケア、有料老人ホーム、高専賃、ショートステイ)
  • プロポーザル支援(特養、老健、特定施設)
  • キャリアパス制度、評価制度構築
  • ホームページ構築
コンサルティング実績
社会福祉法人、医療法人、民間企業などのべ450法人
連絡先
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糠谷 和弘 氏

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