2023年02月20日更新

デジタル時代のアーキテクチャへ描き直すことによる自治体の内部事務のデジタル完結

自治体においては、予算・決算・契約・支出等の内部事務のデジタル化が課題とされており、これを解決するためには、業務プロセスの開始から終了まで、一貫性をもってデジタル完結を実現することが重要です。本稿では、内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方について、筆者の経験を踏まえ、ご紹介します。

1. 自治体の内部事務の見直しが必要な背景

経済産業省が2018年9月に公開したDXレポート、総務省が2020年12月に公開した自治体DX推進計画、社会問題である新型コロナウイルス感染症への対応等を背景に、行政・民間ともに、DXに向けた取組を大きく加速させています。

行政は公共サービスモデルの変革や住民サービスの向上、民間はビジネスモデルの変革や顧客体験の向上を目指すにあたり、職員・従業員が新しいことにチャレンジできるようにするためには、目の前の業務を効率化し余力を生み出すことが必要です。

そのためには、データ・デジタル技術を活用し、職員・従業員の業務効率化や働き方改革を推進することにより、さらなる生産性向上を実現することが重要となります。しかしながら、この実現は、行政・民間ともに、道半ばであると推察します。

生産性向上の実現に向けた課題は数多くありますが、その中でも、業務が紙運用に依存しており煩雑な事務処理から脱却できていない現場は少なくありません。契約・請求・証憑・稟議・印刷という紙運用が残存する限り、在宅勤務制度やテレワーク環境を整備したとしても、登庁・出社を余儀なくされてしまいます。

例えば、自治体における申請・承認が必要な内部事務として、予算執行・物品購入・出張申請等がありますが、紙・アナログ作業が残存しています。また、契約締結・補助金申請・業者登録申請等では民間に紙提出を求めるなど、自治体のルールが民間の働き方改革を阻害しているおそれがあります。

この問題を解決する方策は、契約・請求・証憑・稟議・印刷という内部事務における紙運用を原則デジタル化することです。但し、単にデジタル化するだけでは不十分です。行政と民間、業務と業務、システムとシステムについて、データ・デジタル技術を活用し横断的につなげる設計思想(アーキテクチャ)が重要となります。また、内部事務について、行政だけではなく民間も含めて、エンドツーエンドのデジタル対応(デジタル完結)を実現することも重要となります。

更に、内部事務のデジタル完結に向けて、多くの業務・システムが影響することから、首長、CDO、CDO補佐官、情報部門、行革部門、法務部門、人事部門、財政部門、及び業務部門をステークホルダーとした全庁横断的な取組が必要です。影響範囲が大きい分、全体推進の難易度が高くなります。

そこで、本稿では、自治体の内部事務のデジタル完結に向けた基本的な考え方と、自治体における全庁横断的なDXプロジェクト推進の観点について、筆者の経験を踏まえ、ご紹介します。なお、本稿の意見に関する部分は、筆者独自の見解であり、筆者の所属する法人や組織を代表する見解ではないことを申し添えます。

2. 自治体の内部事務のデジタル完結に向けた基本的な考え方

自治体の内部事務の対象範囲は、財務会計・文書管理・人事給与・人事評価・庶務事務等、多岐に渡ります。その中でも、近年、予算・決算・契約・支出業務のデジタル化に取り組んでいる自治体が多く見られます。

例えば、「予算編成~予算執行~決算統計~行政評価」という一連のプロセスでは、アナログ作業が残り、データが紐づいていないので、執行額/執行見込の把握が困難であり、意思決定スピードの阻害要因となっています。また、「予算執行」を細分化すると、「発注~契約~請求~支出」という一連のプロセスがありますが、こちらも、アナログ作業が残り、データが紐づいていないので、起案/決裁/進行状況の把握が困難であり、煩雑な事務作業に職員の貴重な時間が多大に割かれています。

そこで、残存するアナログ作業をデジタル化し、業務プロセスの開始から終了まで、アナログ作業を介さずに、デジタル処理で完結させることにより、予算・決算・契約・支出業務のデジタル完結を実現します。これにより、職員の生産性/意思決定スピードの向上、支払遅延の防止、事業者の利便性向上につながります。

例えば、残存するアナログ作業としては、紙の契約書・完了届・請求書や、各種書類(検査調書や支出命令書等)の授受・回付等、二重入力や目視照合等が挙げられます。事業者のポータルや、システム上のワークフロー、データ連携が不十分なため、入力業務の重複や目検等が発生し、マンパワーの有効活用に支障が生じています。これらのアナログ作業をデジタル化により解消し、生み出した余力の有効活用を目指します。

しかしながら、残存するアナログ作業を単にシステム化するだけでは不十分です。財務会計システムはA社、電子入札システムはB社、予算編成システムはC社というように、マルチベンダーのソリューションを採用している場合、個別業務で見るとデジタル化されていたとしても、業務横断で見るとシステムとシステムとの隙間にどうしてもアナログ作業が生まれてしまう可能性があります。この隙間を埋めるためには、業務横断でデジタル処理を実行するためのプラットフォーム(デジタルワークフロー)が重要となります。

デジタルワークフローとは、業務横断でデジタル処理を実行するためのプラットフォームであり、主に、作業の発生源(トリガー)・実行(アクション)・情報(データ)を構成要素としています。個別業務であればシステムのなかでトリガー・アクション・データを管理できますが、業務横断となるとシステムを越えてトリガー・アクション・データを管理するプラットフォームが必要です。デジタルワークフローの実装にあたり、業務フローを作成し、トリガー・アクション・データを明らかにすることが重要となります。

内部事務のデジタル完結に取り組むにあたり、業務を見直すことは必要不可欠です。現行業務を見える化し、デジタルデータを前提とした業務フローに見直します。そして、業務フローを基に、必要な機能を整理し、システムに実装します。但し、業務単位のシステムを入れるだけでは、システムとシステムとの隙間にアナログ作業が生まれてしまうので、デジタルワークフローを入れてデジタルデータで清流化することで隙間を解消します。

なお、デジタルワークフローを導入するにあたり、費用対効果の観点も外すことはできません。業務・システムの目指したい姿を描いた上で、業務の見直しにより、職員や事業者の業務量削減や利便性向上等の想定効果を試算し、システム導入・改修費用を踏まえ、直近で実現する業務・システムの落としどころを検討することが大切です。

3. 自治体における全庁横断的なDXプロジェクト推進の観点

内部事務のデジタル完結に向けては、予算・決算・契約・支出をはじめとして、多くの業務・システムに関連する事業について、現行事業と並行して、新たに全庁横断的な見直し事業に携わらなければならないので、全庁横断的な推進体制が必要です。

全庁横断的なDXプロジェクトとして、内部事務のデジタル完結に向けた業務の見直し・BPRを推進するためには、主に3つの観点が重要です。弊社がこれまでにご支援した自治体様においても、これらの観点を重視し、プロジェクトを推進しています。

【1】全体調整(マネジメント)

意思決定方法の明確化、トップダウン・ボトムアップによる事前調整、段階的な実装スケジュール、各部門との予算・役割分担の明確化等

【2】業務分析(サービスデザイン)

書面だけではなく現場を観察することでのユーザー像の理解、ゼロベースによるプロセス検討、デジタルデータを前提とした業務フローの検討等

【3】システム企画(ITアーキテクチャ)

疎結合を前提としたシステム群の組合せ、既存システムの改修影響度調査、クラウドサービスの活用による不要な自前開発からの脱却等

特に、各部門との調整が不十分ですと、各部門の反発が生じるおそれがありますし、適用できるソリューションが市場にないと、自前開発となり費用対効果が生まれないおそれがあります。以上を参考に、DXプロジェクトを適切に舵取りすることが大切です。

以上のとおり、自治体の内部事務のデジタル完結に向けた基本的な考え方と、全庁横断的なDXプロジェクト推進の観点について、ご紹介しました。本稿が、自治体の内部事務の見直しに取り組まれる方々にとって、その検討の一助になりましたら幸いです。

著者プロフィール

株式会社富士通総研
公共デジタル戦略グループ シニアコンサルタント
(兼)公共政策研究センター 上級研究員
西山 直輝

主に中央官庁や地方公共団体のデジタル化・BPR・調達支援・PMOを対象としたコンサルティング業務に従事。これまでに、マイナンバー制度、オンライン資格確認、AI・RPAの概念実証、官民データ活用、自治体DX、内部事務デジタル化、スマートシティ・デジタル田園都市国家構想等の推進をご支援。

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