新製品の開発において欠かせない試作品の作成。試作数と試作期間の削減・短縮という大きな課題解決に応えるのが3次元CADである。飲料・薬品容器用キャップの開発・製造のリーディングメーカーである日本クロージャーは、2次元・3次元混在設計が可能なiCAD MXを導入。設計上流工程の解析に力を入れることで試作工程の効率化を実現。3次元プリンターとの連携により、組立工程、ユーザーとの意思疎通のより一層の円滑化に成功している。
[ 2014年5月制作 ]
業種: | 製造業 |
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設計品: | 各種金属・樹脂キャップ・樹脂製品 |
製品: | FUJITSU Manufacturing Industry Solution iCAD MX |
日本クロージャーは1941年の創業以来、飲料・食品・薬品用ガラスびん、樹脂製ボトルなどのキャップ(クロージャー)製造を手がけている。近年におけるキャップには、密閉構造により内容物の品質を本体である容器とともに保証する性能はもちろん、高齢化にともなう開栓性や利便性の向上、環境対応としてはリサイクル性の一層の向上が求められている。同社は、いずれにおいても高い性能レベルを誇るが、機能的にも多様な製品を開発している。例えば、開栓後ボトルとキャップがバンドでつながることでキャップの落下を防ぐ清涼飲料用キャップや、上蓋の開閉に連動して小蓋が自動的に開閉する調味料用キャップなど。新しいコンセプトの製品を開発し、飲料メーカーに提案するなど、積極的な製品開発体制が同社の特色でもある。
ストラップバンドキャップ
フリップアップキャップ
同社は1984年に米国製の3次元CADを初めてのCADとして導入し、2000年頃まで使用していた。同社ではそのCADを3次元空間上にワイヤーフレームを使って図面作成するなどドラフター的に使用することが多かった。しかしその後、システム更新にともなう周辺機器のサポート中止、同社の設計環境をとりまく状況が変化したことにより、新たな3次元CAD導入を検討することとなった。同社開発本部技術開発部
部長の熊田光雄氏はこう語る。「以前のCAD本来の機能である3次元設計を行う機会が次第に増えてきたのです。その背景には、キャップのコストダウンのための軽量化を進め、なおかつ開けやすく安全性を向上させる設計が求められるようになったことがあります」。より一層の開けやすさが求められる理由の一つは、高齢者でも無理なく開けられるキャップが求められていること。また安全性は、万一、内容物が発酵・腐敗するなどで内圧が上昇した場合に、確実にキャップが変形して排気がなされる必要からだという。「こうした機能性向上と軽量化のための設計は、キャップ本来の機能である内容物と容器の品質を保証するために剛性を確保する設計と、トレードオフの関係にあります。そこで2次元・3次元を混在させ、より精緻な設計を行う機会が増えたのです」(同氏)。
また、開発本部 技術開発部
第一技術開発室室長の松谷仁臣氏はこう述べる。「軽量化にともなって製造用の金型も複雑になってきているので、設計者と金型製作者とがしっかりと構造を確かめ合っておく機会も増えました。以前の3次元CADは2次元と3次元の切り替え操作が煩雑だったので、複雑な設計が増えるにつれ、切り替えの操作性が課題になっていきました」。
熊田 光雄 氏
日本クロージャー株式会社
開発本部 技術開発部 部長
松谷 仁臣 氏
日本クロージャー株式会社
開発本部 技術開発部 第一技術開発室 室長
金型の構造設計
新たに導入する3次元CADに求められた要件は二つ。一つは、以前のCADと同様に2次元設計、3次元設計のいずれにも対応。2次元設計中、思い立ったときにすぐに3次元設計が可能で、設計者の思考を妨げないこと。そして二つ目が、以前のCADの図面を利用できることだった。熊田氏は選定の過程を振り返り、こう語る。「最終的にiCAD MX、米国製の汎用CADとしてよく知られた3次元CADとの比較になりました。米国製の3次元CADは多くの機能がありすぎると感じました。ベンダーの説明によれば、『カスタマイズしていけば、どんどん使いやすくなる』とのことでしたが、煩雑で取っつきにくい印象を受けました。iCAD MXを選んだ理由は、ショールームで半日じっくりデモを見た結果、『うまく使えそうだ』と確信できたこと。そしてカスタマイズにより、以前のCADで作成した複数の図面を容易に変換できるとわかったことでした」。
大岡 新治 氏
日本クロージャー株式会社
開発本部 技術開発部 第二技術開発室 係長
マスプロパティ計算
iCAD MXを導入した結果、以前の設計工程は大きく変化。具体的には、それまで経験と勘をもとに数多くの試作を行いトライ&エラーを繰り返していたやり方が、設計段階で剛性や機能性を検証し、要求したものに最も近い結果に対して最小限の試作をするという工程に変わった。熊田氏はこう説明する。「設計の段階、つまり上流工程で十分な精度の解析が可能になったからです。そのおかげで設計精度が向上し、試作回数を最小限に絞り込むことが可能となりました」。同社開発本部 技術開発部 第二技術開発室 係長の大岡新治氏は、より具体的に説明する。「例えば質量計算がたいへん楽になりました。iCAD MXには体積計算機能があるので、密度をかければ正確な質量がわかります。あと0.1グラム軽量化する必要があるという場合、3次元図面から形状変更可能な箇所の見当を付け、その箇所を削ることでどれくらい軽くできるかを容易に確かめることができるのです」。
同社はiCAD MXを導入後、全ての搭載PCに専用のソフトウェアをインストールし、容易に3次元プリンターを利用できる環境を整えた。「3次元図面であれば、お客様に初めて新製品を説明する場合、一見して形状や機能を理解いただけるので、意思の疎通が格段に円滑になりました。さらに3次元プリンターにより、原寸大モデルをつくり、ボトルに装着した状態で確認いただけるようになったのです。その結果、お客様が具体的な箇所を示し、どういう形状にして欲しいなど意見を出しやすくなり、それらをスピーディーに設計に活かせるようになりました。じつはこの導入効果を目の当たりにして、本格的に3次元設計を始めた設計者が多かったのです」(熊田氏)。また3次元プリンターとのスムーズな連携とその活用は、試作品評価の短縮化を実現している。「従来、当社製のキャップの性能・機能を評価するために、お客様の製造ラインに設備されている打栓や巻締め機械の部品と同等の治具を用いていました。それらの治具は協力工場に依頼して作成していました。その工程を内製することで治具作成期間、ひいては試作品評価期間が大幅に短縮されました」(大岡氏)。 さらに同社では、3次元プリンターにより実物大の5倍モデルを作成し、軽量化前と軽量化後の重量変化を125倍に増幅し実感しやすいように工夫。各種展示会において同社製品の軽量化効果を積極的にアピールしている。
実物と5倍スケールモデル
新コンセプトの製品開発を担当する同社開発本部 研究開発部 研究開発室の島田知氏は、iCAD MXへの期待をこう述べる。「今後、3次元CAD上で手軽に使える多様な解析手法が登場してくるだろうといわれています。質量計算だけでなく、締め付け抵抗などを解析する手法が加われば、試作工程を省いた製品設計も可能になるのではと期待しています。リードタイムの大幅短縮はもちろん開発コストの削減につながってくるものと確信しています」。iCAD MXは今後も、クロージャー分野において新コンセプトを形にし、リーディングメーカーとして走り続ける同社を力強く支えていく。
島田 知 氏
日本クロージャー株式会社
開発本部 研究開発部 研究開発室
所在地 | 〒141-0022
東京都品川区東五反田2丁目18番1号 大崎フォレストビルディング18F |
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代表取締役社長 | 辻広 康雄 |
設立 | 1941年1月 |
資本金 | 5億円 |
従業員数 | 806名(2013年3月末現在) |
事業内容 | 各種金属・樹脂キャップ・樹脂製品の製造販売、各種金型事業
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ホームページ | 日本クロージャー株式会社 ホームページ |
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