設計対象物の形状・構造が手に取るようにわかる3次元CAD。その見やすさ、分かりやすさにより設計部門の業務効率化を進めるメーカーが増える一方で、販売促進の強力なツールとして活用するケースが注目を集めている。日本のものづくりの一大集積地・東京都大田区で、事業者向け減災製品を開発製造する株式会社テー・シー・アイは、3次元CAD「iCAD MX」を機能解説ツールとして活用。営業力を備えたメーカーを目指す。
[ 2014年2月10日掲載 ]
業種: | 製造業 |
---|---|
設計品: | 半導体製造・検査設備、メモリーテスター、免震・転倒防止装置など |
製品: | FUJITSU Manufacturing Industry Solution iCAD MX |
株式会社テー・シー・アイは1971年の設立から、半導体製造・検査装置の製造を手がけ、近年では企業向け減災関連機器の開発・販売の新事業分野に力を入れている。5年前、同事業分野の第1号商品となったのが、サーバラックの底部に組み込み、地震時の激しい揺れをボールベアリング機構でゆるやかな揺れに変換し、搭載物に衝撃を伝えない免震装置。大手ベンダーのデータセンターに数千台の納入実績を持つ。開発後しばらくはサーバラックメーカーにOEM供給をしていた同社だが、国内企業のBCP対策本格化を追い風に、5年前から自社販売も始めた。
企業向け減災関連機器
そして免震装置に次ぐ商品として一から独自開発、2013年より製造を開始したのが、震災時にオフィス内のキャビネットの転倒を防止し、人身への直接被害や避難路遮断を防止する転倒防止装置だ。同製品も大手事務機メーカー製のキャビネット用にOEM供給し、同社自身も販売を手がける。
同社は12年前から、3次元設計用CADとしてiCAD MXを使用している。同社代表取締役の竹下学氏はこう語る。「iCAD MXを導入したのは先代経営者で、私が代を引き継ぐまではサブ的利用にとどまっていました。しかしいざ1週間ほどいじってみると、コマンドが分かりやすく、ヒストリー系、ノンヒストリー系設計のどちらにも対応するなど、前勤務先で操作していたハイエンドの3次元CADと比べ、格段に柔軟であると分かり、設計担当者全員に利用を呼びかけました」。
竹下 学氏
株式会社テー・シー・アイ
代表取締役
同社が従来から手がける半導体関連製品は、お客様の要望に沿って設計・製造される単品生産がほとんどを占める。iCAD MXの導入効果は、その設計工程の効率化をもたらしたほか、顧客との意思疎通の円滑化にも大きな役割を果たしている。「お客様の要求や要件をしっかり満たしているか、2次元図面を介してでは確認が難しい箇所が少なくないのです。その点、3次元CADであれば、お客様の要望が設計で具現化されているか、手に取るように分かるのです。短時間で正確に説明でき、設計変更も的確にでき、手戻りが大幅に減りました」(竹下氏)。
その後、同社におけるiCAD MXの利用は、サーバラック用免震装置の販売を機に設計部門以外へと広がった。用途は、文章や静止画、口頭では難しい「地震時の激しい揺れをボールベアリング機構でゆるやかな揺れに変換し、搭載物に衝撃を伝えない免震装置」のお客様への明快な説明。活用のきっかけは、当時新人スタッフとして入社し、設計部門に就いた同社統括部技術課の内田久子氏の発想だった。
内田 久子氏
株式会社テー・シー・アイ
統括部技術課 主任
3次元イラスト
「免震装置に関する知識を持たない新人の私にとって、その製品パンフレットは難解そのものだったのです。製品写真は黒っぽい1枚の板にしか見えませんでしたし、文章による説明からも免震の仕組みを理解することは難しいと感じました。もっぱらOEM生産を手がけてきて、設計や製造に関わる人を相手に、専門用語で形状、寸法、仕組みを説明してきた当社の歴史からいって、一般の方々への説明力が十分でないのは致し方なかったといえるでしょう」。
内田氏はその後iCAD MXの操作法を習得。免震装置の3次元データをグラフィックデザイン用のソフトウェアに読み込ませ、構造や機能を直観的に理解できる3次元イラストを作成。設計製造関係者、一般を問わず理解してもらえる製品カタログを制作。営業活動における効果的な販促ツールとしている。
1/3スケールダウンモデルの活用
同社は免震装置の顧客に対する訴求力をさらに向上させるため、iCAD MXと光造形装置により製作したスケールダウンモデルを使ったプレゼンテーションを行っている。実際の免震装置は900ミリ四方のフレームの4隅に、ベアリング機構のマウントユニットが据え付けられている。その3分の1スケールの樹脂モデルであれば客先に持参し、地震発生時の動きをその目で確かめてもらうことができるのである。
「小型モーターで作動する起震台をつくり、その上に免震装置のスケールダウンモデル、さらにその上に液体を入れたコップを置いて揺らすと、まさに百聞は一見にしかず。ほとんどのお客様が身を乗り出してご覧になり、その効果に納得します」(内田氏)。
スケールダウンモデルは、iCAD
MXから出力した3次元データを、光造形装置に取り込んで製作された。同装置は、大田区が中小企業支援策として貸し出す機器を利用することにより、削り出しで作製する方法に比べ、きわめて安価に済んだ。
iCAD MXと光造形を連携し、安価にモデルをつくる試みは、同社のもう一つの減災製品であるキャビネット転倒防止装置の開発においても役立った。同装置はキャビネット底部とフロアとの間に取り付けられ、一定以上の揺れを受けるとキャビネット底部がわずかに前方へとせり出し、上部がわずかに後方へ倒れることで転倒および収納物の飛び出しを防ぐ仕組みになっている。試作をくり返したのが、心臓部にあたる、キャビネット底部のせり出し動作をガイドするスライド部分の微妙な曲面カーブと、カーブ部分を支える構造部だ。
キャビネット転倒防止装置の
初期検討
竹下氏は開発設計、試作のプロセスを振り返り、こう語っている。「従来、構想設計のスタート段階は手書きでポンチ絵を描きながら、これはと思えるアイデアが浮かんだところで2次元図面を書き始めていました。そのアイデアを具体化できるか否かの見極めは、もう少し図面を書き進めていくうちに分かるものなのです。その点、iCAD MXは2次元データをすぐに3次元化できるので、アイデアが果たして実現可能の方向に向いているか、早い段階で直観的に分かるのです」。
光造形モデル
さらにキャビネット転倒防止装置開発では、iCAD MXと光造形装置との連携が設計スピードの向上と、開発コストの低減を同時に実現した。竹下氏の開発過程を見守っていた内田氏はこう述べている。「光造形は、装置に3次元CADデータを入力すればスピーディーにモデルができ上がるので、1個、2個と試作した光造形モデルを検討、再び試作と繰り返しながら、早い段階で生産方法を変更。具体的には、心臓部を機械加工による製造ではなく、加工コストのかからない板金で製造する方法へ変えたのです」。
そして竹下氏は経営者兼設計者の視点からこう語っている。「型を削り出して試作を重ねていったとしたら、概算で1試作に約80万円はかかったはずですから、試作は2、3回が限度。おそらく板金製造でいける目途さえついていない時点で開発を断念せざるを得なかったでしょう。1回の試作を数万円に抑え、納得がいくまで試行錯誤をくり返すことができたのは、3次元CADと光造形装置の組み合わせで開発できたからです」(竹下氏)。
同社は今後も順次、免震装置、キャビネット転倒防止装置のラインナップを増やし、企業の減災対策ニーズに応えていく。
所在地 | 〒144-0044 東京都大田区本羽田1-19-1 |
---|---|
代表取締役 | 竹下 学 |
設立 | 1971年5月 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 11名(2013年11月現在) |
事業内容 | 半導体製造・検査設備、メモリーテスター、免震・転倒防止装置の製造販売
|
ホームページ | 株式会社テー・シー・アイ ホームページ |
本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。