設計・生産両現場で3Dデータを活用し、手戻りや設計変更の押さえ込みに取り組むメーカーは多い。その中でも自動車用ベルトCVTメーカーのトップ企業ジヤトコ株式会社は、卓越したICT活用能力を発揮し、生産準備期間の短縮を代表とするプロセス改革に取り組んでいる。カギとなったのはVPSの組立アニメーション機能だ。同機能はまた、ライン構築前の製造現場の作業習熟にも活用され、海外生産拠点の垂直立ち上げに不可欠の手法となっている。
導入事例キーワード | |
---|---|
設計品: | 変速機及び自動車部品 |
ソリューション: |
PLMソリューション
|
製品: |
VPS
|
浜中 洋一 様
ジヤトコ株式会社
生産部門 生産戦略部
主管
川村 良次 様
ジヤトコ株式会社
生産部門 生産戦略部 業務革新課
チーフ
鹿内 建志 様
ジヤトコ株式会社
生産部門 生産戦略部 業務革新課
ジヤトコ株式会社は、エンジンと並ぶ自動車の基幹部品であるオートマチックトランスミッションの開発・製造を手がける。とりわけ滑らかな走りと燃費性能に優れたベルトCVTではパイオニア的存在であり、高い開発・生産力を持つ。2010年に生産されたCVTに占める同社のシェアは世界トップの48%。世界の主要マーケットの需要に応えるため、米国、フランス、メキシコ、韓国、中国、タイなどに生産・開発拠点を置き、グローバル展開を推進している。
CVT内部構造
同社は高度化、複雑化する技術ニーズとさらなる短納期化に対応するため、設計から製造に至る全社レベルで業務プロセスの改革に取り組んできた。7年前から始まったこの改革は、日産グループとしての取り組みでもある。その狙いは、次工程で発生する仕事のやり直し、いわゆる手戻りの徹底的な削減により開発から量産に至るまでの圧倒的なリードタイムの削減と、大幅な品質向上だ。同社生産部門 生産戦略部 主管の浜中洋一氏はこう述べる。「目標達成には、開発部門の設計を待って試作に取りかかり、試作の完成を待って生産性の確認、生産ラインの設計、量産準備、そして量産という連続的な流れではとても対応できません。各工程を並行的に進め、解決するべき問題をバーチャル上で事前検証可能な3Dデータの活用が不可欠だったのです」。
アニメーション活用による量産性課題の見える化
以前から同社の開発工程では、設計担当者、生産技術担当者が試作現品を前にして、部品同士の干渉やすき間の確認、設備治工具と部品の干渉、組み立て性や加工性の確認を行う、いわゆる同席設計業務の手法が導入されていた。これに対し、3Dデータによる同席設計をフィジカル試作の前に行い、徹底的に課題を顕在化させ、設計ステップの上流で潰し込むことで、正規手配以降の設計変更ゼロ化、フィジカル試作の一発良品化を実現しようと取り組んできていた。同社生産部門 生産戦略部 業務革新課 チーフの川村良次氏はこう述べる。「アナログ時代の同席設計業務では、同席者同士が『ここは組み付け上、問題ですね。改善が必要です』と確認し問題点をリスト化していくのですが、そこからなかなか解決の方向性が決まらず、決着へ向けたフォロー工数とリードタイムが非常に多く掛かっていました。その原因の一つは、開発現場と生産現場の言語表現(課題認識)のズレです。設計本部にいる機構部品の開発設計担当者は『この部品の組み付けは量産ラインではこの順番で行う。その際、品質確保のためにはこの治工具をこのタイミングで使用し、手をここまで挿入しないと関連する部品を支えられない。だから部品形状をここまで変更する必要がある』といった具合に具体的な表現で指摘されないと問題点や解決に向けた方策案、要求精度が正しく伝わりません。この問題を解決するには、単に3Dデータを表示させた同席設計だけでは不十分で、組み付け・分解手順をアニメーションにより時間軸に沿って表し、作業の急所や量産性課題を見える化できるDMUデザインレビューのツールが有効だと判断しました」。
同社は海外ベンダーのDMUツールと比較評価し、最終的に富士通のDMUツール、「VPS(バーチャル・プロダクト・シミュレータ)」を採用した。とくに重視したのは生産技術部門の要求だったという。生産部門 生産戦略部 業務革新課の鹿内建志氏はこう述べる。「生産技術部門のエンジニアは、設計担当者のようにハイエンドの3次元CADを日常的に使いこなしているわけではありません。したがって、コマンドを3つも4つも叩かなければ動かないDMUツールでは困ります。と同時に、たとえノートPC上であっても見たい画面の表示に3秒も5秒もかかっていては、問題点をどんどん指摘する活きの良いレビューになりません。生産準備の現場が重視したこの2つの要求に応えたのがVPSだったのです」。
開発~生産技術部門の同席設計改革の成果を踏まえ、同社は3Dデータ活用による製造部門の業務効率向上に取り組んだ。川村氏は「当社全体で見ると開発や生産技術部門の人数比率はわずかです。やはり3Dデータを活用するからには、より人数の多い、かつ生産ノウハウのギッシリ詰まった製造現場に根付かせてこそ、より効率的なプロセス改革を成し遂げることができるのです」と述べる。その方策の一つとして同社は、製造現場のニーズが高かった3Dデータ活用による量産開始リードタイムの短縮に取り組んだのである。
設計完了から量産開始までのリードタイムを短縮するには、正確な作業手順の作り込みとその習熟タイミングをいかに前倒しするかがポイントである。しかし現実的には量産ラインを新規に設置し、そのラインに適合した作業習熟のバイブルとなる作業手順書が作成されるまでには一定の時間を必要としている。そこで同社は、ラインや作業書ができる前でも作業習熟に着手可能な環境づくりの一つとして、3Dデータを活用することにした。つまりバーチャル上で製品の機能、部品特性や名称、担当する組み付け部品の前後工程との関係、安全上の注意点を学習できる3Dデータ活用環境の構築に取り組んだのである。「とくに正確で精密な組み付けを求められるトランスミッションの場合、組み付け工程の流れや、急所と呼ばれる工程を時系列で確認し、反復して習熟する必要があります。やはりカギとなるのは時間軸で部品の組み付け順序を確認でき、かつ、グローバルでも言語の変換が不要なアニメーション機能でした」(川村氏)。
機構習熟用アニメーション
急所作業習熟用アニメーション
組立ラインでのタブレット端末の活用