富士通モバイルフォン事業本部は、デザインから機構設計、回路・実装設計、製造に至る携帯電話機のほぼすべての開発業務を、VPS(Virtual Product Simulator)を中心とした仮想プロセスで融合。設計者間による開発上流での検証力強化や他部門の意見の早期取り込みなどにより、後工程からの手戻りを極力削減した。システム運用に着手後、まだ1年しか経過していないが、製造部門で大幅な図面レスを実現したのをはじめ、製造準備工数の低減、開発部門とのデザインレビューの質の向上、などで大きな効果をもたらしている。
導入事例キーワード | |
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設計品: | 富士通の携帯電話機 |
ソリューション: |
PLMソリューション
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製品: |
VPS
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三次元モデル
小型軽量化、高密度実装、開発期間の一層の短縮。携帯電話機の開発要求は厳しさを増している。こうしたなか、富士通のモバイルフォン事業本部では2005年12月からVPSを中心とした仮想プロセスによるものづくりに本格的に取り組んでいる。開発上流における技術者間の意識合わせや、開発と製造のシームレスな連携などが主な狙いだ。
まず、CADデータからVPSデータを自動生成し、組立手順のアニメーションを作成。これをPDM(Product Data Management)に登録し、セキュリティをかけた上で関係部門に配信する。動画による情報は、機構以外のプリント板や実装構造などの情報も含まれる。CAD図面とは異なり、分かりやすい動画なので、遠隔地にいる開発技術者同士のすり合わせがしやすく、製造など他部門の意見も早期に取り込めるという。
川道武継
富士通株式会社
モバイルフォン事業本部 モバイルフォン事業部 第五技術部
システム運用に着手してから、まだ1年しか経過していないが、早くも成果は現れている。「最も顕著なのは、製造部門でのペーパーレス。トータルで7~8割は削減できています」と、VPSの普及促進に努めたモバイルフォン事業部第五技術部の川道武継氏は語る。
従来、製造や組立工程では様々な図面やドキュメント類が用いられていた。例えば製造工程での作業指導書。通常、1機種に対して30~50頁ほどのペーパーを作成する。 「我々特有のことかもしれませんが、組立てを始めるギリギリの段階まで変更が発生します。それにより部品が変われば組み立て方も変わるので、指導書の枚数もどんどん増えるのです」(川道氏)。その指導書の7割相当の紙がVPSの動画を導入することで削減できた。しかも従来、作成に2~3週間かかったものが、3~4日あれば可能という。
また従来、設計部門から組立部門への情報伝達には通常、図面が用いられていた。枚数は、18~20枚。その大半が動画に置き換えられ、現在ではわずか2枚程度にまで減った。また、従来8~10日かかった修理手順書も、2日あれば作成が可能だ。修理工程に至っては、120ページ以上にわたっていた指導書がわずか10数ページにまで削減できたという。
「現在では、開発と製造の区切りを感じさせないほど、皆がVPSをよく使うようになりました」と川道氏。しかし、川道氏らが最初にVPSを使う話を持ち込んだ時、製造部門では抵抗感を示す人もいなくはなかった。
そのため、製造部門の幹部社員を対象に説明会を開催し、その中で何名かに実際に触って貰いました。「教育でもないですが、口頭で操作手順を伝えるだけで、あとは黙って様子を見ていましたが、期待通り『意外に簡単なんだねえ』と口々に言ってくれたのです」(川道氏)。こうして部門を越えたVPSの活用はスタートした。2006年4月には早くもテスト運用を実施。その後、図面の削減量や情報伝達にかける時間などの目標を定め、同年6月以降は全ての機種開発に適用され今日に至っている。
組立てアニメーション
一方、機構開発のスピードアップだけでは、製品開発全体の効率アップにはつながらない。特に顧客の要求に迅速に応えるには、「人間でいえば脳の部分に相当する回路とプリント板の開発をいかに速く行うかが重要」(川道氏)なのである。そこで必要となるのがエレ・メカ開発の同期化である。これに対しても、同事業本部では積極的に取り組んだ。
現在、富士通グループでは全社を挙げて統合設計環境によるものづくり革新を進めている。その環境下でサポートされているのが、社内のプリント板設計CADシステムだ。このシステムは、構想設計から製造データ、製造図面の作成までの全設計工程をサポートするツール。部品ライブラリを構築するライブラリシステム、回路図編集・実装の配線設計が行える回路実装設計システム、製造データの生成およびPDMシステムとインターフェイスする製造インターフェイスシステムの3つのサブシステムがある。中でも回路実装設計システムは、設計プロセスで各種解析ツールを駆使した検証が行える機能がある。そこで、この実装設計システムをエレキ・メカ協調設計に適用。3D-CAD情報を自動的にVPS情報に変換し、PDMに蓄積できるようにした。
従来、プリント板の設計者は、2次元の平面図しか描いていなかったが、VPSと連携することにより設計者自身が3次元の立体モデルとして見ることができる。例えば「基板の中にこの部品を入れると高さでショートする可能性があるので、背丈の低い部品に変えよう」といったやりとりが設計者間で簡単にできるのだ。
VPSによる組立・各種手順の検討などにも実装設計システムからのデータが自動的に使われ、プリント板設計と装置・機構設計の全体最適化を図っている。