あらゆるデジタル機器製品において、信号伝送の高速化やノイズレス化は永遠のテーマである。そのためのカギのひとつがデジタル回路基板設計における信号波形品質の検証だ。回路設計上流から下流まで全プロセスにおいて電気回路系のシミュレーションを行うことで、試作回数を極力減らしながら設計品質を向上するとともに、設計リードタイムの大幅短縮やコストダウンを図れる。ヤマハでは、富士通のSignalAdviserを導入、これらの課題解決に大きな効果を上げた。
工藤 政樹 様
ヤマハ株式会社
PA・DMI事業部
企画管理部
企画グループ
担当課長
柿本 哲也 様
ヤマハ株式会社
PA・DMI事業部
商品開発部
ハードウエアグループ
主任
ヤマハは世界的な楽器、音響製品の総合メーカー。そうした同社のPA・DMI事業部は、エレクトーンを始めとする電子楽器や、シグナルプロセッサーやデジタルミキサーといったプロ用音響製品などを手掛け、デジタル化には積極的に取り組んでいる。また、米国カリフォルニア州ブエナパークに、新たに設備音響機器の販売現地法人「ヤマハ・コマーシャル・オーディオ・システムズ・インク」を設立するなど国際戦略もさらに加速させている。
「近年、デジタルオーディオやデジタル楽器の世界では、多機能化、高速化やノイズレスの要求がますます高まっています。特にプロ用の音響製品などでは最大数百チャネルといった膨大な信号の処理を高速・ノイズレスで行わなければなりません。そこで重要なテーマが、中核部品である回路基板の伝送品質を検証するプロセスの最適化、効率化です」と語るのは、PA・DMI事業部企画管理部企画グループ担当課長の工藤政樹様だ。
ヤマハ製品のデジタルミキサーM7CL(上)とエレクトーンSTAGEA
デジタル信号回路の高品質化や高速化はあらゆる電子・電気製品の開発・設計者が抱える最重要テーマだ。 回路基板はまず仕様を検討し、回路設計を行い、基板を設計、試作品を作ってテストを行い狙った特性が安定して出るか検証する。経験や知識が生かされるのはもちろんだが、トライアル&エラーで進められる場合も多い。その結果、どうしても何回かは実際に基板を試作する必要があった。
「この回路基板の試作回数を低減し、高速化する信号伝送・ノイズレスニーズに対応基板試作にかかる期間・コストを最大50%削減あらゆるデジタル機器製品において、信号伝送の高速化やノイズレス化は永遠のテーマである。そのためのカギのひとつがデジタル回路基板設計における信号波形品質の検証だ。回路設計上流から下流まで全プロセスにおいて電気回路系のシミュレーションを行うことで、試作回数を極力減らしながら設計品質を向上するとともに、設計リードタイムの大幅短縮やコストダウンを図れる。ヤマハでは、富士通のSignalAdviserを導入、これらの課題解決に大きな効果を上げた。
開発・設計のリードタイム短縮につなげるとともに、より高性能な回路基板を作るにはどうしたらよいか。この課題を解決する手段として行き着いたのが、デジタル回路の性能を試作の前段階においてシミュレーションするツールの活用でした」とPA・DMI事業部商品開発部ハードウエアグループ主任の柿本哲也様は語る。
設計初期の概略設計において伝送経路のシグナル検証ができ、配線条件も容易に変更できる
こうした電気系のシミュレーションツールは比較的欧米の製品が進んでいると言われている。しかし柿本様は、使い勝手やサポート体制の充実度などを考え、国内製のツールを候補とした。そこで富士通が開発・提供するSignalAdviserに出会う。この製品は富士通が培ったデジタル技術を結集した先進的なデジタル回路シミュレーターだ。
「試用してみてまず驚いたのは、操作が非常に簡単なことです。例えばLSIからLSIへの伝送路を検証する場合、線路のパラメーター、線長や配線の形態を入力すれば画面上に伝送波形が表示されます。この波形を見て回路が適正であるかどうか、配線形態、パラメーターを変更しながら確認すればいいのです。波形の乱れは誤動作などのトラブルにつながります。できるだけ最適な波形になるよう、目で見ながら短時間で調整していくことがSignalAdviserでは可能です」(柿本様)。
開発・設計を自動アドバイスする機能もSignalAdviserのメリット。経験の浅い技術者でも、配線条件を容易に設定できるようシステムがサポートする。例えば、回路中のある抵抗は何Ωなら適切かなど具体的な設計条件もアドバイスする。
対策前の波形(右)と検証後に対策を施した後の波形(左)。対策後は波形がきれいに整っている
これらの機能を評価して2000年に導入。社内に定着するにつれ、回路基板設計のワークフローは大幅に変わった。試作を行わなくても自由に検証が行え、また波形を目視することで設計変更の効果を実感できるようになったことは、技術者の理解や経験を深めるのに大きく役立った。
「さらに2003年にはバージョンアップが行われ、機能がさらに追加されました。例えばシミュレーションファイルだけでシミュレーションが可能になったため、他人とやり取りができるようになり、シミュレーション自体が行いやすくなりました。またレイアウトCADとの連携により基板レイアウト設計部門でも使えるようになり、設計上流から下流までの検証業務をカバーできるようになりました」(柿本様)。
検証工数の削減、試作回数の低減により、設計期間の短縮とコストダウン効果が生まれた。大きな基板なら試作に1ヵ月、費用も100万円超に達する。これが不要になる効果は絶大だ。
SignalAdviserの導入でこれまで2回以上必要だった試作も1回で済むケースが出てきている。
「技術者にはSignalAdviserを電卓のような身近な道具として気軽に使ってもらいたい。今後バージョンアップも予定され、GHzオーダーの信号伝送の検証にも対応します。これを活用して、今後さらに高速化する信号伝送ニーズに応え、対策も一段と強化したいですね」(柿本様)。