部門の情報も含めたデータの一元管理により業務効率が向上し、外部監査にも確実に対応
岐阜市民病院は、2010年にカルテを電子化しましたが、紙カルテ時代の運用から脱却できず、さまざまな課題を抱えていました。それを解決すべく実施したシステム更新では、富士通の電子カルテシステムHOPE EGMAIN-GXの導入が決定。ベンダー変更は大きな試練でしたが、目的を明確にした運用検討や、旧電子カルテ端末への仮想化技術による新システムの相乗り、チューターによる操作教育などの工夫で円滑な移行を実現しました。
病院の特徴と旧システムの課題 | システム更新の経緯 | 更新後の効果
高度急性期医療の提供をめざす市民病院
Q:貴院の特徴をお聞かせください。
左から加藤晴光主任、村川眞司局長、長屋崇主査
村川氏:6市3町からなる岐阜医療圏には、500床以上の急性期病院が3施設あります。その中の一つである当院は、特定病院群の指定を受けており、手術支援ロボットを導入するなど、高度急性期をめざして診療体制の強化を図っています。同時に「市民病院」として、地域密着型の医療も提供しています。
Q:ICT化の沿革を教えてください。
村川氏:1975年に医事会計システムを導入後、オーダリングシステムを経て、2010年にカルテを電子化しました。最初の医事会計からずっと同じベンダーの製品を採用してきましたが、2017年のシステム更新で、富士通製品に変更することになりました。
最初の電子カルテ導入では、導入自体が目的になってしまい、カルテの電子化で業務をどう改善すると良いかが明確ではありませんでした。そのため、紙カルテ時代の運用の多くがそのまま残ってしまいました。
長屋氏:オーダリングシステムからの移行だったこともあり、ほとんどのスタッフは、「これまでのやり方に記事が追加されるだけでしょ」という認識だったと思います。
Q:システム更新前には、どのような課題があったのでしょうか。
村川氏:最大の問題は、部門の情報が電子カルテの中にデータとして残らず、分散していたことでした。特に、ドキュメントシステムが連携していないことは非常に不便で、記事をすぐに探すこともできませんでした。
また、電子カルテ導入後に部門システムのICT化も進みましたが、連携が十分でなく、大きな問題となっていました。ほかにも一元管理されていないマスタや、紙ベースのまま運用されているクリニカルパスなども課題でした。当院のような規模の病院では、外部監査をクリアしていく必要がありますから、その意味でもこれらの課題の解消は必須でした。
長屋氏:旧電子カルテはカスタマイズが多く、バージョンアップが難しいシステムであったため、時流に応じて変化する医療現場に追いつかなくなりつつありました。
目的に沿った運用決めと仮想化システムの活用
Q:システム更新はどのように進められたのでしょうか。
長屋氏:導入ベンダー選定は外部委員中心のプロポーザル方式で行われ、最終的に、富士通のHOPE EGMAIN-GXに決まりました。
村川氏:プロポーザル方式のためベンダー変更の可能性も考えられることから、ベンダーを変更した経験のある病院など、複数の施設を見学しました。また、院長の指示により、病院全体の基本コンセプトとして、1)医療安全と業務の効率化、2)情報の中央集約と連携の強化、3)システムの安定稼働と進化の両立、という「骨太の方針」を策定し、この方針に沿って運用決めなどを進めていきました。
Q:別ベンダーのシステムへの移行で、苦労した点はありますか。
村川氏:大変なのはわかっていましたが、これまでの課題を一気に解決するチャンスでもあると考えました。運用の決定では、これまでの習慣を引きずらないために、全体を俯瞰するコアメンバー(5人)が、部門からの意見の取捨選択を行うようにしました。
また操作教育では、各診療科の医師5人に1人くらいの割合でチューターを選び、集中的に教育を受けてもらいました。異なるベンダーのシステムでは操作性がかなり違うため、現行システムで行っていることを新しいシステムではどうやるのか、という細かい教育が必要です。チューターにはその役割を担ってもらいました。
Q:操作習熟にあたり、特に工夫されたことはありますか。
長屋氏:医師や看護師は多忙であるため、業務時間外に操作訓練会場に足を運び、自己研修することは難しいと考えていました。
加藤氏:そこで仮想化技術を用いて、旧電子カルテの端末上でHOPE EGMAIN-GXが動くようにし、移行後の患者データが新しい電子カルテでどう見えるのかを確認しながら、操作練習をできるようにしました。また、アクセスログからHOPE EGMAIN-GXでの閲覧回数などを集計し、使用頻度の少ない医師に働きかけを行いました。仮想化システムへのニーズは高く、要望に応じて追加し、最終的には142台の端末に設定しました。これはスタッフの操作の習熟につながったと感じています。また、サーバ側で高速処理が可能なゼロクライアントに期待し、本導入した1252台の端末のうち247台をゼロクライアントにしました。
長屋氏:仮想化は旧電子カルテの端末上で動作するので、新システムへの事前入力にも有用でした。また、仮想化でゼロクライアントを導入したことでシステム設定の作業負担も軽く、ゼロクライアントの端末は小型のためスペースの有効活用が可能です。
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ゼロクライアント(↓)を採用し、診察室の省スペース化を実現しています。
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旧システムでの課題が解消し、さらなる機能強化をめざす
Q:HOPE EGMAIN-GXの導入後、課題は解消されたのでしょうか。
村川氏:最も重視していた記録の一元化は、かなり達成されました。監査対策など目的を明確にした運用の検討により、入院治療計画や退院サマリなどが書かれているかチェックする体制が構築できました。また、同意書のスキャン漏れを防ぐために、その場でスキャンすると同時に最寄りのプリンタから患者に渡す同意書の複写が印刷される仕組みづくりを行いました。これらの改善により、システム更新後の病院機能評価、特定共同指導でも満足のいく結果が得られました。
長屋氏:HOPE EGMAIN-GXの導入に合わせて部門システムも大幅に刷新したことで、シングルサインオンを実現し、セキュリティポリシーを統一することもできました。
Q:今後の展望をお聞かせください。
村川氏:DWHによりいろいろなデータが出るようになりましたが、活用はこれからです。活用している他施設に学びながら、BIツールを使って重症度や看護必要度など、さまざまな分析を行いたいと考えています。
Q:異なるベンダーの電子カルテへの移行を成功させるポイントをお聞かせください。
長屋氏:職種・部門ごとに、システムに対する要望はさまざまですが、複雑になると優先順位がつけにくくなります。そこで、病院としての方針を初めに明示することで、迷ったときに立ちかえることができ、各部門との合意を形成しやすくなります。
また、今回行った本稼働前の新システムの仮想化は、習熟の面でも、準備する際の作業負担においてもきわめて有用なので、大いに勧められます。
村川氏:ベンダーを変えてのシステム更新は、スタッフへの負担が大きいので、目標を明確にしておくことは必要です。バージョンアップでは解決できない課題を解決するためのシステム更新であるという認識を共有することが大事だと思います。
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