タブレット端末を活用した授業効果を検証し今後のICT教育施策に活かす

大阪市教育センター 様
導入事例


大阪市では、「学習意欲の向上」、「学びの活性化」、「学習理解の促進」の3つの観点から、ICTを活用した教育の取り組みを積極的に進めています。そうした中、ICT活用の効果検証をさらに強化すべく、2016年度から全市立小中学校へ、富士通の「ARROWS Tab Q506/ME」を中心に配備し実証研究の対象を各区1校以上のモデル校(小学校18校、中学校8校、小中一貫校3校)に拡充し、児童生徒の学習意欲や学力の向上の変容をデータとして明らかにしています。

[ 2018年7月17日掲載 ]

【導入事例概要】
業種: 文教
ソリューション: FUJITSU Tablet ARROWS Tab Q506/ME新規ウィンドウが開きます
【ねらいと効果】
1 個人に紐づけたデータを継続的に収集・分析することにより1人ひとりの変容からICTを活用した教育効果を精緻に捉え、ICTによる教育の充実に向け、支援策の強化を図る 児童生徒の「学習意欲の向上」、「学びの活性化」、「学習理解の促進」が見られた
ICT教育の推進が、若手教員の指導力を補う手立てになることが検証された

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導入の背景

ICTを活用した授業の効果検証を全市24区のモデル校に拡充

西日本を代表する都市である大阪市は、行政施策において先進的なICT活用に取り組んでいることで知られています。教育施策においても例外ではなく、その象徴が「学校教育ICT活用事業」です。

この事業は、最先端のICT環境の中で、児童生徒が互いに教え合い学び合う協働的な学びや、思考力・判断力・表現力の育成につながる言語活動、児童生徒1人ひとりの能力や特性に応じた指導力などを充実させ、授業の質を向上し、「自分で考え判断する力」、「自分の考えを豊かに伝える力」、「最新のICT機器を活用する力」を備えた21世紀をたくましく生き抜く子どもを育成しようとするものです。

大阪市では、2013年度から2014年度にかけて、小学校4校、中学校2校のモデル校と小中一貫校1校(2014年度より2校)に無線LAN環境、タブレット端末、電子黒板など最先端のICT環境を整備し、ICTを活用した授業づくりの実施・検証を行い、「大阪市スタンダードモデル」としてまとめました。

モデル校の実証研究からは、「友だちと一緒に考えたり、考えをまとめ合ったりしている」と回答する児童生徒の割合が向上するなど、協働的・主体的な学びにつながる授業スタイルに変化してきたとの成果が得られました。2015年度には、新規モデル校(小学校14校、中学校6校、小中一貫校1校)を指定し、モデル校を全市24区に拡充するとともに、モデル校以外の全小中学校に基本40台のタブレット端末などの機器を整備しました。モデル校では、各区において中心的な役割を担うとともに、3年間の実証研究を進めています。この実証研究では、「教員のICT活用指導力」、「授業の変容」、「学力」といった視点から、多面的にその効果検証を実施しています。そして、この大阪市にて、研究や研修などを通して学校や教職員の教育活動を支援するのが大阪市教育センターです。

大阪市では、団塊世代の教員の大量退職に伴い、新規教員を毎年500~600人規模で大量採用しています。このため採用年数10年以下の若手教員の割合が、小中学校ともに5割を超えており、そうした若手教員の資質・指導力の向上を図る有効な手立てが求められています。

導入のポイント

授業の成果や教員の指導力を可視化できる提案を評価

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 古閑龍太郎指導主事の写真
古閑 龍太郎
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 指導主事

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 赤石美保子首席指導主事の写真
赤石 美保子
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 首席指導主事

学校教育ICT活用事業の実証研究を行うにあたり、大阪市ではその調査業務のパートナーを選ぶべく、複数のITベンダーを比較検討しました。最終的に富士通を選定したポイントについて、大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 古閑龍太郎指導主事はこう話します。

「特に評価したのが、児童生徒ならびに教員の自己評価、学習活動、学力の変容などを関連づけて個別に分析できる提案です。これならば、児童生徒1人ひとりの変容を捉えた学習の成果と教師の指導力を可視化できると考えました」

同じく指導研究グループの赤石美保子首席指導主事もこう続けます。「教育の効果を測定するというのは難しいことですが、富士通の提案内容は1人ひとりのエビデンスをベースにしている点が画期的でした。年度替わりなどでクラス替えがあっても成長を追いながら学習効果を検証することができますので、教育面でとても大きなポイントでした」

今回の実証研究における調査手法の内容は、児童生徒に個別の番号(ID)を付与し、調査結果を個人に関係付けて観察・記録したデータ(パネルデータ)として整理・構造化し、匿名化された調査データベースとして蓄積・分析するというものです。

「このパネルデータを活用することで、ICT活用による効果と課題をより詳細に具体性をもって捉えることが可能になると考えました。例えば、ある程度の成果が出ている教員がわかれば、そうした教員の授業をベースにどのような授業をすべきかフィードバックする根拠にできます」(古閑指導主事)

さらに赤石首席指導主事は、「調査から得られたデータをどのように教員に見せればモチベーション向上につながるかなども富士通と相談しながら検討できました。さまざまな分析の切り口を教育的な視点から富士通が提案してくれましたし、膨大なデータを扱う際の注意点なども教えてもらいました」と話します。

導入の効果

ICT活用指導力の高い教員は授業で高い効果を発揮

こうして大阪市では、2016年度より富士通のARROWS Tab Q506/MEを中心に市内全小中学校に約2万台を導入し、現在も教科を問わずさまざまな授業で活用されています。同時に、学校現場から集計されたアンケートや学力検査のデータから、学習意欲や主体性、学力の点で多くの効果が明らかになっています。

中でも、ICT活用指導力の高い教員は、児童生徒の興味関心を喚起し、児童生徒の思考や理解を深める授業を行うよう意識していることや、タブレット端末を授業で使うことで、学習のめあてをしっかりつかむことができることなどが明確になっています。

ICT導入前(2016年2月)と導入後(2017年2月)で小中学校ともに学力の向上が見られる
ICT導入前(2016年2月)と導入後(2017年2月)で小中学校ともに学力の向上が見られる

古閑指導主事は、「ICTを使うことで、子どもたちの学習意欲が向上したことが大きいですね。ICT活用力の高い教員ほど効果があるのも、これからパネルデータを見ていくことで、その要因がどこにあるのかもわかってくるでしょう。それを踏まえ、新たな施策を進めるうえでも、ただの感覚ではなくしっかりとした根拠を示すことができます」とコメントします。

また、学習姿勢に興味深い変化も観察されています。指導研究グループの國方千春指導教諭は次のように話します。「小学校3年生からタブレット端末を使っている児童たちに、その日の授業の課題を示すだけで『タブレットを使う』とか『自分たちはノートでやる』、 『図書館で調べる』などと返してくれるのです。何でもタブレットでというのではなく、その時々の課題に対して自分に合った方法を選択できる情報活用能力の習得にもつながっています」

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 國方千春指導教諭の写真
國方 千春
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 指導教諭

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 島田武総括指導主事の写真
島田 武
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 総括指導主事

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 三桝義範指導主事の写真
三桝 義範
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 指導主事

そのほか、指導研究グループの島田武総括指導主事も「教育現場にICTが入ったことで、具体的に授業でどう使うと子どもたちが関心を示したのかなど、職員室での会話も増え、教員同士のコミュニケーションが活発化しました」と語るように、教員側への意識変革も大きな効果の1つといえるでしょう。

こうした児童生徒や教職員の変化を受けて、教員研修を担当する三桝義範指導主事も「アンケートや生の現場の声などを踏まえ、研修内容に反映しています」と話します。


学力に課題のある児童生徒におけるタブレット端末導入後の学力の変容
学力に課題のある児童生徒におけるタブレット端末導入後の学力の変容

今後の展望

10年先、20年先を見据えた実証研究を続けていく

今後、大阪市では、引き続きパネルデータを活用していくことで、課題の所在をピンポイントで特定し、学校現場の実態に合った多様な支援策を展開しながら、教育の情報化による効果を高めていきます。

指導研究グループ 山口裕二次席指導主事は、「ICTを入れること自体が目的ではありません。“授業力”を高め、その結果、子どもたちの主体的・対話的な深い学びにつなげるようにする。そのための手段がICTであると考えています。子どもたちには、ICTという道具を使って、基礎学力の向上とともに自分の考えやイメージを上手に表現できるようになれば、学習理解の促進につながっていくと期待しています。今後も10年先、20年先を見据えた実証研究を続けていきたいですね」と語ります。

大阪市教育委員会 教育センター 教育振興担当 指導研究グループ 山口裕二次席指導主事の写真
山口 裕二
大阪市教育委員会
教育センター 教育振興担当
指導研究グループ 次席指導主事

そうした中での富士通への期待について赤石首席指導主事はこう話します。「教育的な視点をしっかり持っているので、実証研究のPDCAのうちPlan・Do・Checkまでを担ってもらい、我々はアクションのみに専念できるようになることが理想です。ここまで言えるのも、これまで仕事を一緒にやってきて、十分に期待できると感じたからです」

さらに、赤石首席指導主事はこう続けます「今の時代は変化が速いですから、その時々にいかにICTを活用して1人ひとりの子どもにどうやってアプローチするのかが重要になりますし、そこを担うのが我々の役割なので、今後もそれを全うできるよう努めていきます」

ICTを活用した授業で多くの効果がわかり、今後も教員の心強い武器の1つとして大阪市の教育力をさらに高めていきます。

集合写真
写真左から、國方 千春 指導教諭、古閑 龍太郎 指導主事、山口 裕二 次席指導主事、
赤石 美保子 首席指導主事、島田 武総 括指導主事、三桝 義範 指導主事

【大阪市教育センター 概要】
概要 人口約270万人を擁する、日本を代表する大都市の1つである大阪市。改革の第2ステージと位置付けた「大阪市教育振興基本計画」のもと、「課題や成果の見える化」「改革のさらなる浸透」「支援の重点化」の3点を視点にさまざまな施策を実施しています。
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