セミナーレポート

大学改革の進め方

~ニューノーマル環境下の大学戦略

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、通常の教育研究活動がはばまれる中、国内大学ではオンライン授業環境の整備など様々な取り組みを実施し、教育の質の維持と学生への学びの保障の実現に全力を尽くしています。コロナ禍で大学はどう変わるのか。また何を変え、何を変えるべきではないのか。2020年11月に開催された第12回情報戦略フォーラム「ニューノーマル環境下の大学戦略」にて、大胆な大学改革と質の高い教育力で世界的評価の高い国際教養大学の理事長・学長 鈴木典比古氏に「大学改革の進め方」について、オンラインでご講演いただきました。今回、大変好評を博した本セミナーをレポートします。

コロナ禍で大学の存在とともに教育力が問われている

「コロナ禍で学生や先生がキャンパスに入ることができない中、大学の存在や役割とともに教育力が問われています。ニューノーマル時代の教育を創造できなければ、大学の淘汰が一層進んでいくと考えています」と国際教養大学 理事長・学長 鈴木典比古氏は危機感を口にし、こう付け加えます。「大事なポイントは、非常時におけるオンラインを活用した質の高い教育などを強みとし、大学改革を進めていくことです」。

平時も非常時も、大学には質の高い教育が求められることに変わりはありません。グローバル時代に対応した人材を育成する国際教養大学は、2004年4月の設立後わずか15年で「THE世界大学ランキング日本版2020」※の総合ランキングで10位にランクインしました。特筆すべきは、教育充実度と国際性で1位を獲得したという点です。学部は国際教養学部のみ、学生数約800人、秋田県にある小さな学び舎がトップレベルの評価を獲得できた背景には、同大学が取り組んできた「世界標準の国際教養教育」にあります。

20世紀と21世紀の大学教育の違いについて鈴木氏は指摘します。「専門性を重視した20世紀の大学教育は、同質的な人材を大量に供給する人工植林型教育といえるでしょう。一方で、多様化が進む21世紀の大学教育は、一本として同じ樹木はない雑木林型教育と例えることができます。ベースとなるのが、『個』を確立するためのリベラルアーツ教育です」。
経団連も重要性を提言するリベラルアーツとは、古代ギリシャ・ローマ時代において都市国家を運営する自由市民と呼ばれる人々、つまり当時のリーダーたちが身に付けるべき技能を起源とします。「当時も今も、社会問題の解決には多角的な視点からのアプローチが求められます。私たちは、グローバルリーダーの育成をミッションとする本学のリベラルアーツを『国際教養』と呼んでいます」(鈴木氏)。

リベラルアーツ教育における「個」の確立では“対話”が大切になると鈴木氏は強調します。「リベラルアーツ教育は、一方通行の受け身授業ではなく、学生も語るべき自己を持ち、双方向的に学生と先生が共に授業を創っていきます。本学では、学生と専任教員の比率は14:1、1科目当たりの平均登録学生数は18人です」。
グローバルリーダーの育成では、英語とともに国際感覚を身に付けることが必要です。同大学ではすべての授業科目が英語による開講、世界中から公募した教員のうち53%が外国人です。また、1年間の海外留学が義務となっており、海外の提携大学数は50カ国・地域の200大学に及びます。「4人に1人が留学生の本学において、学生の学内寮居住率は約90%です。多文化共生のキャンパスライフで授業も寮生活も留学生と一緒に過ごす中で、世界を舞台に活躍するための『個』を磨くことができます」。

※英国の教育専門誌「THE(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)」による教育力に着目した日本の大学ランキング

オンラインでも対面授業と変わらない質の保証に注力

コロナ禍において、同大学は学生や教職員の命・健康を守ることを最優先に、学生に対してキャンパスへの立ち入り禁止を指示し、職員のテレワークを実施。また、キャンパスの無人化を図りながらも、学生に対し安定的な教育プログラムを提供するためオンライン授業(ライブ双方向授業)を展開しました。
「オンライン授業の導入に向けてハードとソフトの両面で整備を行い、対面授業と変わらない質の保証に努めました。また教員研修を徹底するとともに、Web会議ツールZoomに不慣れな学生に対し、学生有志によるサポートデスクを設置しました」と鈴木氏は話し、同大学におけるオンライン授業の様子を撮影した動画を紹介しました。

画面には複数台のカメラを使って様々な角度から実験を撮影した映像や、授業に参加した学生一人一人の顔が映し出されています。「イギリス人の先生が化学の授業をオンラインで行っています。学生数は約20人、非常に人気のある授業です。本来、実習系はリアルな場で行うべきですが、あたかもその場で見ているような臨場感を演出する工夫をしています。また少人数授業のメリットを活かし、先生が学生一人一人の名前を呼び、“対話”しながら授業を進めています」。

多文化共生のキャンパスライフもオンラインを活用して行っていると鈴木氏は話します。「キャンパスツアーもバーチャルで行い、教員によるデモ授業、上級生による留学体験プレゼンテーション、進路相談など、オープンキャンパスはもとより大学祭もオンラインで実施しました。また、自国に戻っている留学生もオンラインを活用した授業や大学祭に参加しており、本学の活動は世界的に展開されています」。

コロナ禍で交換留学が実施できない中、同大学ではオンラインを活用し海外提携校との連携強化も図っています。具体的には、「ポストコロナにおける北東アジア情勢」をテーマに、COIL(Collaborative Online International Learning、オンライン国際交流学習)をロシア国立研究大学高等経済学院と実施する取り組みが進行中です。また、日本語を学びたいオーストラリア国立大学の学生向けにテーラーメイドのオンライン日本語科目を提供しています。さらに、同大学において必修となっている1年間の交換留学への代替対応としてインターネットを通じて世界各国の有名大学の授業が受けられるMOOCs(Massive Open Online Courses)やインターンシップなどを利用し、学生自らが単位をデザインする「Independent Study」を導入する予定です。

オンラインを活用し国際教養教育を世界標準に

ニューノーマル時代を見据えた同大学の改革について、鈴木氏は話します。「創立当初から、学生の国際移動を伴う大学のグローバル化に積極的に取り組んできました。コロナ禍に伴うオンライン授業の拡大は、学生が移動するのではなく、授業そのものが世界中を駆けめぐる時代の幕開けを告げるものです。世界の学生に本学発の授業を配信することにより、本学の国際教養教育が世界標準化していきます。今後、オンラインを継続的かつ積極的に活用し可能性を追求するとともに、教育、国際連携、広報などを強化していきます」。

コロナ禍でも同大学の改革は、歩みを止めることはありません。「本学では、これまで取り組んできた国際教養教育を一歩先に進めるために、『応用国際教養教育(AILA:Applied International Liberal Arts)』という教育手法を打ち立て、2021年度から新しいカリキュラムを導入します。多様な学問を有機的に接続(コネクト)して『知』を統合し、学んだことを現実に課題分析・解決・応用を行っていくことを目指すものです」。

オンライン授業が普及しても、人間力や対話力を身に付ける鍛錬の場としてのキャンパスは必要です。ニューノーマル時代の大学運営ではオンラインとキャンパスのバランスを上手く組み合わせることが重要になります。「不確実な時代では弾力的な大学運営が求められます。無人のキャンパスにおける大学運営はどうあるべきかは、すべての大学に突きつけられた課題です」と鈴木氏は話し、「学生や先生は志があるからこそ、本学で格闘しています。大学は格闘する場なのです。本学はさらなる高みを目指します」と言葉に力を込めました。

講師紹介

<公立大学法人 国際教養大学 理事長・学長 鈴木 典比古 氏 プロフィール>
1945年栃木県生まれ。一橋大学経済学部卒、一橋大学大学院経済学修士。米インディアナ大学経営大学院経営学博士。ワシントン州立大学准教授、イリノイ大学助教授を経て、ワシントン大学客員教授。国際基督教大学学長、アジア・キリスト教大学協会理事長を経て、2013年6月より現職。「なぜ国際教養大学はすごいのか」等、著書多数。

公立大学法人 国際教養大学 Akita International University(AIU) 概要

設立2004年4月
所在地〒010ー1292 秋田市雄和椿川字奥椿岱
学部数1(国際教養学部)
定員175人
学生数804人(男性37%、女性63%)(うち正規留学生数22人)
ホームページhttps://web.aiu.ac.jp/

国際教養大学の基礎データ

提携大学50カ国・地域 200大学(2020年4月1日現在)
受入留学生数31カ国・地域から187人
派遣留学生数36カ国・地域へ 184人
留学生の割合4人に1人
専任教員58人(うち外国人教員31人)
専任教員の外国人比率53%
開講科目数332(2019年度実績)
学生数と専任教員数の比14:1
英語による授業科目100%
1科目当たり平均登録学生数18人(2019年秋学期)
入学から1年後のTOEFL ITP® TESTスコア平均点563(2019年4月入学の学生、2020年3月現在)
2012〜2019年度就職率100%
クラブ数43団体(2019年度実績)
図書館開館時間24時間365日(学生・教職員向け)

[ 2021年2月26日 掲載 ]

文教ソリューションに関するお問い合わせ

Webでのお問い合わせ

  • お問い合わせ

    当社はセキュリティ保護の観点からSSL技術を使用しております。

お電話でのお問い合わせ

  • 0120-835-554
    (通話無料)

    富士通Japan株式会社(お客様総合センター)
    受付時間 9時~12時、13時~17時30分(土曜・日曜・祝日・当社指定の休業日を除く)

ページの先頭へ