Digital Disruption Tech(トレンド解説)【ブロックチェーン】

第9回 ブロックチェーンで実現する新しい選挙の形

ブロックチェーンを選挙に活用しようとする動きが、世界中の様々な地域で見られるようになりました。最初に、暗号化技術を用いて票を分散管理することで、買収など不正行為を排除することを狙った活用が検討されてきました。日本では厳格な選挙が行われるため必要性を感じないかもしれませんが、民主化して間もない国の選挙では、ICTシステムを使って選挙の正当性を担保した方が、監視役を用意するよりもよほど信頼性を高めることができるのです。

そして、ブロックチェーンの特長を活用して、新しい選挙の形を模索する動きが活発化してきています。例えば、選挙に出向くことができない住民も不在者投票できるようにする投票アプリも登場しています。米Voats社が開発した投票アプリでは、顔認証技術を用いて政府発行のIDの写真が自撮り画像と照合すれば、投票が可能になる仕組みを採用しています。さらに、ユーザーの匿名性を保護するために票を暗号化してブロックチェーン上に記録します。

米国東部のウェストバージニア州では、2018年9月に解禁された中間選挙の不在者投票で、海外基地に派遣されている軍関係者とその家族を対象にしてVoats社の投票アプリを導入しました。それまで海外に駐留している人たちに投票用紙を届け、それを期日までに投票してもらうことが困難でした。国の任務で派遣されていながら、国民の権利である選挙に参加できないのはおかしな話です。投票アプリならば信頼性を確保しながら、世界中のどこからでも遠隔投票できます。日本でも同様の取り組みをつくば市が行っており、マイナンバーカードとブロックチェーンを組み合わせたネット投票システムの実証実験をしています(図1)。

図1 つくば市がマイナンバーカードとブロックチェーンを組み合わせたネット投票システムの実証実験を実施 出典:つくば市のホームページ

ブロックチェーンの活用を前提とした新しい選挙制度

さらに、ブロックチェーンの活用を前提とした、新しい民主制の仕組みを提案する動きも出てきました。現在広く採用されている間接民主制は、住民が選挙で代表者を選び、住民に代わって間接的に政治に意思を反映させるものです。選挙では、各候補者が語る政策などを参考に投票する人を決めるわけですが、「教育政策ではA候補者がいいけど、税制改革ではB候補者の方がいい」と、選挙で自分の意思を的確に表明できない面がありました。住民が全員参加で政治を行う直接民主制ならば、この問題はないですが、実際には衆愚政治になりやすく、意思決定にコストがかかるといった欠点があります。

非営利団体である米Democracy Earthは、こうした現状の民主制の問題解決を目指し、ブロックチェーンの特長を生かして民意をより柔軟に汲み取れる投票システムを提案しています(図2)。人を選ぶのではなく、政策を選ぶ斬新な投票システムです。一定量の票を独自の仮想通貨のかたちで各有権者に分配。いくつか提起された政治課題ごとに、持っている票を取り組ませたい候補者に配分投票する仕組みです。

図6 政治課題ごとに細かく重み付けして投票できるDemocracy Earthの投票システム 出典:Democracy Earthのホームページ

この柔軟な民意の表し方は「液体民主主義(Liquid Democracy)」と呼ばれています。欧州では、液体民主主義の実践を訴える政党も登場し、欧州議会に議員を送り出すまでになっています。国政選挙に適用するのには、充分な検討と時間を要するかもしれませんが、地域や企業内での意思決定であれば、すぐにでも同様の仕組みを活用できるかもしれません。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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