トレンドテクノロジー解説【ブロックチェーン】

第7回 ブロックチェーンで、見知らぬ人や企業とでも安全な取引や契約が可能に

メールを通じて注文書や契約書をやり取りする機会が増えてきています。ただし、それは大抵の場合、既に取引実績のある相手との取引時ではないでしょうか。突然、見ず知らずの相手から注文が入っても、疑うことなく商品を発送するようなことはしないはずです。相手は代金を払う気などない可能性もありますし、悪意のある人のいたずらかもしれません。だから、見知らぬ人と取引や契約をする場合には、ネット通販事業者のようなリスクを引き受けてくれる第三者を通すのが普通です。

ただし、ブロックチェーンを活用すれば、仲介する第三者がいなくても安全な取引や契約が可能になり、ネットを介した直取引が可能になります。さらに、取引や契約の成立条件や事項の手順をプログラム化し、条件確認、履行、価値移転、決済など一連の作業を全て自動化する、スマートコントラクトもできるようにもなります。そして、人手を介すことなく、機械同士があらかじめ指示されたルールに沿って、粛々と取引する世界が生まれる可能性があります。

消耗品の残量を検知して、足りなくなる前に自動発注

機械同士の取引が広がる予兆は、既に様々な分野で見られます。例えば、株式や債券などの取引では、市場の状況に合わせて機械が自動売買するアルゴリズム取引が当たり前のように行われています。もはやアルゴリズム取引の出来高は、市場の値動きの行方を大きく左右するほどにまで広がっています。

また、米Amazon.com社は、家電機器や事務機器などを利用する時に欠かせない、消耗品を自動発注する仕組み「Dash Replenishment Service(DRS)」を2016年1月から提供しています(図1)。プリンターのインクや洗濯機で使う洗剤、コーヒーメーカーのカートリッジなどの残量を、センサーで検知して足りなくなる前に自動発注します。既に、世界中の何百種類もの機器に、DRSが搭載されています。プリンターを使いたいのに、インクがなくて印刷できなかったといった経験は、誰にもあるのではないでしょうか。DRSのような仕組みがあれば、このような問題がなくなり、消耗品のサプライヤーにとっても商機を逃さないメリットが生まれます。

図1 インクの残量を検知してプリンターがインクを自動発注
(左)DRSに対応したプリンター例、(右)DRSの仕組み
出典:(左)Brother USAのサイト、(右)Amazon.comのDRSのサイト

ただし、DRSの利便性は、Amazon.com社のような取引のリスクを引き受けてくれる企業が仲立ちしているからこそ成立していました。そこでブロックチェーンを活用すれば、売り手と買い手を直につなぎ、DRSと同等の取引ができるようになります。

そうしたブロックチェーンを活用した取引を商用化した例も出てきています。IoT技術を活用したサービス開発を行うベンチャー企業のNayutaは、ブロックチェーンを活用して使用権を売買できる電源ソケットを開発しました。会議場など公共性の高い場所やマンションの共用部などで、電源ソケットを利用するようなシーンを想定したサービスです。電源ソケットの使用権を仮想通貨のトークンとして電源を利用するパソコンやスマートフォンに送付し、無線通信を通じて認証することで導通スイッチを有効状態にする仕組みを採用しています。

また、医師の処方箋が必要な医薬品の自動購入に、ブロックチェーンを応用しようというアイデアもあります。医師が患者の病状に合わせて発行した処方箋を患者が受け取り、患者は薬局に処方箋と代金を送って薬を受け取るまでの一連の作業を自動化するものです。薬局に送られた処方箋が、医師が発注者に対して発行したものであることを自動記録し、改ざんの可能性をブロックチェーンで排除することで、薬の自動購入ができるようになります。2018年12月、厚生労働省は患者が自宅にいながら処方薬を入手できる仕組みを構築する方針を打ち出しました。薬剤師の対面指導がなくても薬を受け取れるようにすると言います。実現すれば、外出が困難な患者にとっては、便利なサービスになることでしょう。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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