Digital Disruption Tech(トレンド解説)【ブロックチェーン】

第2回 ブロックチェーンが日本の中小ものづくり企業の商機を拓く

日本ほど、高度な技術力を持った中小企業が集積している国は珍しいのではないでしょうか。かのスティーブ・ジョブズが音楽プレイヤー「iPod」の初代機を作った時、筐体のステンレスを鏡面のように仕上げたくて、新潟県燕市の金属研磨で定評がある企業に加工を依頼した話は有名です。同様に、世界の中でもその企業にしかできない技能を持ち、名だたる巨大企業や研究機関が製造を委託するものづくり企業が日本にはたくさんあります。

iPodの例は、社運を賭けた製品作りに執念を燃やすイノベーターがいたからこそ、日本の中小企業の技能を見つけ出すことができたのだと思います。しかし、これはレアケース。多くの場合、高度な技能を持つ企業を探していても見つからない、技能を持つ企業の側も見つけてもらえないといった状態が普通ではないでしょうか。しかも、発注する側からすれば、技能を持つ企業が、自社製品の加工を託せる信用できる企業であるのかも分からないことが多いでしょう。ブロックチェーンは、これまで簡単に出会い、取引することができなかった企業同士を結び、効率的に取引できる手段を生み出すかもしれません。

隠れた実力メーカーと夢を持つユーザーが直接取引

米国のベンチャー企業であるSyncFab社は、ブロックチェーンを活用して、価値ある製品や技術を保有するメーカーと、それを求めるユーザー企業やバイヤー企業を直接結びつけるスマートコントラクト・プラットフォームを構築し、2018年2月から運用を開始しました(図1)。

図1 SyncFabが構築したメーカーとユーザーの直接取引を可能にするスマートコントラクト・プラットフォームの仕組み 出典:SyncFabのプレス向けページ

同社が提供するプラットフォームでは、「MFGトークン」と呼ばれる仮想通貨を使って取引を行います。そして、このプラットフォームを活用するメーカー、ユーザー、さらには物流業者などの特徴や連絡先などの情報や注文履歴、生産キャパシティ、保有する知的財産などを明確にして、委託先や調達先を探す企業が求める技術のニーズに最も適合する製造業者を探し出し、仲介なしで直接取引できるようにします。取引に伴う契約は、スマートコントラクトによって自動化し、迅速化しています。

多数の部品を組み合わせて複雑な製品を作る場合、生産に向けたサプライチェーンもまた複雑になりがちです。当然取引に伴う契約の作業も煩雑になっていきます。SyncFab社のような手法ならば、信頼性を確保しながら契約を自動化し、複雑なサプライチェーンを簡単に構築できることでしょう。さらに、取引の実績が明確に示されているので、高度な技術を持つ企業やより安価な部品を発掘する手段にもなります。製造業を活性化させる手段として、このような取引のプラットフォームの活用が活発化するかもしれません。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

この記事に関するお問い合わせ

ページの先頭へ