Digital Disruption Tech(トレンド解説)

第1回 ブロックチェーン

商習慣、社会制度、仕事の進め方に革命をもたらすブロックチェーンとは

仮想通貨の基盤技術として生まれた技術である“ブロックチェーン”を、様々な取引や契約に活用しようとする動きが活発化しています。銀行、不動産会社、商社、各種代理店、著作権や特許の管理団体、工場、医療機関、そして政府・・・。社会の動きを支える機関や企業での活用が見込まれています。ブロックチェーンは、これまでの商慣習や社会制度、仕事の進め方などの根底に変化をもたらす技術です。その活用によって、業務効率の劇的向上や新しい価値の創出が期待されています。

調査会社のIDC Japanは、世界のブロックチェーン関連市場の規模は2017~2022年に毎年平均73.2%拡大し、2022年には117億米ドルに達すると予測しています。特に、日本の成長率が高く、同期間に年率108.7%成長するといいます。しかも、ブロックチェーンによる変化が間接的に及ぶ市場も含めれば、その効果は何十倍にもなる可能性さえあります。

現代社会に不可欠な取引と契約のあり方を根底から変える

ビジネスや生活を営む中で、人と人、会社と会社、あるいは会社と政府などの間で、様々な取引や契約、権利の認定や移譲などが行われています(図1)。これらはみな何らかの合意形成が必要になる作業であり、ビジネスや社会活動に欠かせない要素となっています。ネット通販で商品を買う際にも、学校に入学するのにも、住む家を買ったり借りたりするときにも、何らかの合意形成をして進めることになります。

図1 ブロックチェーンがビジネスや社会活動に欠かせない取引、契約、権利の認定や移譲のあり方を一変させる 出典:AdobeStock

一般に、取引や契約などは、条件や注意事項をまとめた書類を作り、お互いの条件が合意に達したら捺印もしくはサインすることで成立します。ただし多くの場合、成立した合意が正当であることを証明するため、誰もが認める信用と権威を持つ第三者のお墨付きをもらいます。これは、取引や契約を結ぶ相手が信頼に足るのか不安だからです。例えば、不動産ならば免許を持った不動産会社が契約をまとめ、権利認定には法務局で登記することが必要になります。何かトラブルが発生すれば、お墨付きを出した第三者が仲介したり、解決の道筋を示すことになります。

ところが、ブロックチェーンを活用すれば、第三者のお墨付きが不要になります。このため、合意形成を要する作業を迅速かつ簡単に進められるようになります。現代の社会システムは、取引や契約、権利認定などを進める際には、銀行や商社、政府といった第三者機関が仲立ちすることを前提にして出来上がっています。この仲立ちが不要になるインパクトは極めて大きく、商習慣や社会制度、仕事の進め方を根底から変えてしまう可能性さえあるのです。

みんなで見守れば、お墨付きはいらない

では、社会の仕組みを一変させる可能性を秘めたブロックチェーンとは、どのような技術なのでしょうか。詳細に理解するには情報処理の専門的知識が必要かもしれません。ただし、応用することで得られるメリットや、利用する際の注意点を知るうえでは、必ずしも技術を深く理解する必要はありません。ここでは、最小限知っておくべき仕組みと特長のエッセンスだけを紹介したいと思います。

ブロックチェーンという技術は、仮想通貨の実現というニーズの実現に向けて考案された技術です。その目的を一文で説明すると、「ICTシステムの仕組みを使って、第三者機関が無くても安全かつ信頼性の高い取引や契約を可能にすること」と言えます。そして、第三者機関を不要にするため、取引の履歴や契約内容に関する情報を、包み隠さず逐一電子的台帳に記し、これを公開して共有する方法を採用しています (図2)。言い換えれば、「みんなが常に見守っている中で取引や契約が行われ、それを見守る大多数の人が正当だと認めれば、特に第三者機関のお墨付きがなくても安心」という極めて民主的発想がブロックチェチェーンの基本コンセプトです。

ビットコイン等の価値記録の取引を第三者機関不在で実現。取引履歴を皆で共有し、信頼性を担保。ビットコイン等の価値記録の取引を第三者機関不在で実現。取引履歴を皆で共有し、信頼性を担保。
図2 ブロックチェーンの仕組み 出典:経済産業省発行の「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書」

ブロックチェーン活用の4つのメリット

ブロックチェーンには、これまでの取引や契約などにはなかったメリットが、大きく四つあります。それぞれ簡単に説明します(図3)。

まず、最大の特長である取引などに「第三者機関が不要」なことです。これによって、売り手と買い手が直接取引できるようになります。信用の置ける第三者機関がいない取引は、何か不安な気がするかもしれませんが、実はメリットがたくさんあるのです。例えば、第三者機関を介した取引には、余分なコストや処理手順が必要になります。銀行の振り込み手数料や不動産の仲介手数料などが代表的なコストです。これがなくなります。また、第三者機関での取引の正当性の認定プロセスは、ブラックボックス化していることがほとんどです。例えば、住宅ローンの審査では、どのような審査過程と判断に基づいて融資の可否が決まるのか、多くの場合分かりません。利権が絡む取引や契約では、第三者機関自体が不正の温床となる可能性もあります。ICTシステムを基にした、人手の介入を極力少なくしたブロックチェーンを活用すれば、ムダと不安を最小限に抑えることができます。

さらに、「取引や契約を自動化」できます。これまで取引や契約、権利認定などの際には、納品書や請求書など書類の用意や、権限を持った人の人手による決済が必要でした。ブロックチェーンを使って、取引などの成立条件や実行手順などをプログラム化し、条件確認、履行、価値移転、決済など一連の作業をすべてプログラム化しておけば、人手を介さず迅速に取引や契約を進めることができます。全く人手を介さず、機械と機械の間で自動取引することさえ可能です。ICTシステムによる自動取引・自動契約のことを、「スマートコントラクト(賢い契約)」と呼びます。

加えて、「信頼性の高いトレーサビリティを実現」できます。ブロックチェーンでは、一定期間内に発生した取引や契約の内容を暗号化して、ブロックと呼ぶ一塊にまとめて記録します。そして、新たな取引や契約が発生するたびに、前のブロックの後に新たなブロックをチェーン状に連ねていきます。この技術が、ブロックチェーンと呼ばれるゆえんです。新たなブロックをつなげる際、ブロック間にデジタル的な割印を押すことによって、誰かが順番を入れ替えたり、情報を書き換えたりできなくなります。このため、信頼性の高い過去の記録だけが残り、それをさかのぼって履歴を確認できるのです。

そして、「システム障害やサイバー攻撃に強いデータベースを構築」できます。ブロックチェーンを活用するICTシステムには、システム全体をコントロールするような強大な権限を持つ中央集権的なコンピュータがありません。ブロックチェーンの運用に参加しているすべてのコンピュータそれぞれが、同じ役割を担っているのです。このため、システムの一部に障害が発生しても、他が正常であればダウンすることはありません。また、ブロックチェーンでは、新しい取引のデータはすべて暗号化され、以前の取引履歴をすべて記録したデータに付け加えていきます。このため、過去のデータを改ざんしようとすると、それ以降のデータすべてを書き換えなければなりません。さらに、システム運用に参加する全コンピュータの51%以上の記録を書き換える必要もあります。このため、事実上、改ざんすることは不可能です。

特長的な派生版の登場で、応用の拡大を後押し

ブロックチェーンは、もともと「ビットコイン」という仮想通貨を実現するために考案された技術です。応用の拡大への期待の高まりによって、様々な用途に向けた派生版が登場するようになりました。ブロックチェーンの特長は、4つありますから、利用目的に合わせて、その一部を際立たせる方向で改良が進んでいます。

たとえば、第三者機関がなくても取引が成立する特長は、現実的には不都合が生じる場合があります。銀行、不動産会社、政府などを活用した現在の社会の仕組みや商習慣を完全否定することはできません。第三者不要のブロックチェーンを「パブリックチェーン」と呼ぶことがあります(図3)。特定の団体や人がブロックチェーンの運用に参加するコンピュータを管理する形態のものを「プライベートチェーン」、複数の団体や人で管理する形態を「コンソーシアムチェーン」と呼びます。

図3 管理者の有無からみたブロックチェーンの種類

その他にも、性能の低いコンピュータでも台帳を管理できるようにした派生版やスマートコントラクトに利用しやすい派生版なども活用されています。特長が異なるブロックチェーンを使い分けることで、その応用はますます広がっていくことでしょう。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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