トレンドテクノロジー解説【5G】

第11回 5Gが可能にする触覚伝送と超臨場感が、医師の不足・偏在を救う

高齢化が急速に進む日本では、医師の不足や偏在が慢性的な問題です。無医村も多く生まれ、日々の生活に不安を抱える人が年々増えています。日本全国のどこに暮らしていても、質の高い専門医療が受けられる仕組み作りは、喫緊の課題だと言えます。こうした状況下で、ICTの力を活用して、遠くにいる患者を医師が診察・処置する遠隔医療の実現に大きな期待が掛かっています。

遠隔医療の実現には、法的な問題もありますが、技術的ハードルも思いのほか高いのが現状です。
医師が的確な診察や処置をするためには、五感をフル活用して患者に対する必要があります。例えば、患者を診察する際には、観察、聴診、触診、時には臭いも参考にしながら状態を判断しています。さらに、手術をする際には、手探りで患部を見つけ出したり、メスなどを入れたときの繊細な感触を頼りに慎重に処置したりしているのです。遠隔医療の実現に向けて、遠く離れた場所でも五感を正確に伝送できる技術が求められています。5Gの超高速、超低遅延という特長は、こうした遠隔医療の実現で要求されている技術の条件にピタリと合っています。

5Gを活用して五感を高精度かつリアルタイムで伝送

遠隔医療の実現に応用可能な、五感を高精度かつリアルタイムで伝送する技術の開発が急速に進んでいます。大成建設は触れたときの感触を伝送する力触覚伝達型遠隔操作システムを開発。2018年6月にソフトバンクと共同で5Gを用いた力触覚の伝送検証実験を実施し、成功しました(図1)。

図1 大成建設とソフトバンクによる力触覚の遠隔伝送実験 出典:ソフトバンクのニュースリリース

ロボットアームとそれを操作する人のそれぞれを遠く離れた場所に置き、モニターを通じたロボットアームの動きと、コントローラで感じるモノの感触をリアルタイムで確認しながら作業できます。人は、モノを掴んだり、持ち上げて別の場所に移動したりするとき、モノの感触を感じながら微妙な力加減を無意識に調整しています。こうした微調整ができないと、ロボットアームがつかんでいるモノを握りつぶしてしまうことになります。つかむものが手術中の臓器だったらと考えるとぞっとします。力触覚は遅延なく伝送する必要があるため、5Gの超低遅延な特長が欠かせません。

また、5Gの超高速という特長を生かせば、患部の様子を遠隔地から高精細画像で診て、より正確な判断ができるようにもなります。患部の立体的な形状をリアルタイムで取得して伝送し、仮想現実(Virtual Reality:VR)の技術を活用して医師が臨場感のある患者の様子を見ることができれば、陰に隠れた微妙な変異も見逃すことなく見つけ出せる可能性が高まります。

こうした五感の伝送は、医師不足の解消に向けたもう一つの副次的効果があります。医師の五感がデータ化されるため、ベテラン医師の高度な技能を蓄積・再利用できるようになることです。名医の診察や手術のスキルは極めて属人的な能力であるため、その継承は難しいものです。名医の技がデータ化されていれば、これを参考にして後進医師がトレーニングしたり、場合によってはロボットに教え込んで自動化したりできる可能性が出てきます。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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