トレンドテクノロジー解説【5G】

第9回 5Gを活用した自動運転トラック・隊列走行がドライバー不足を解消

日本のロジスティクス業界は、労働力不足やドライバーの高齢化といった課題を抱えています。もともと労働集約的な色彩が濃い業界であるため、高齢化の影響は極めて大きく、労働環境を過酷なものにする原因となっています。この課題を解決するための切り札として期待されているのが、トラックの自動運転技術です。その実現には、5Gによる超高速、超低遅延、超多数接続な特長の活用が欠かせません。

ロジスティクス産業でのICT投資が急伸

現代の工業製品の生産では、部品や材料の在庫を最小限に抑えながら、市場ニーズの大きな変動に対応できるジャスト・イン・タイムでのサプライチェーンが求められています。そして、必要な時に必要な量の物資を配送できる体制が求められています。また、ネット通販の発達と利用者の増加によって、小売生産者と消費者の間をつなぐ商品の輸送にも、これまで以上に迅速かつ柔軟な対応が求められるようになってきました。

これまでのロジスティクス業界は、他の産業と比較して、ICTシステムの活用が進んでいない分野でした。ドイツのコンサルティングファームであるローランド・ベルガー社によると、2015年時点での日本の同業界の年間設備投資額は、800億円にすぎませんでした。これが、労働集約型産業からの脱皮を図るためにICTへの設備投資が進み、2035年には1兆6000億円にまで伸びると予測しています。

5Gがトラックの自動運転と隊列走行を実現

労働力不足の切り札として期待されているのが、自動運転です。スウェーデンの自動運転車ベンチャーであるエインライド社は、通信機器メーカーのエリクソン社、通信サービス事業者のテリア社と共同で、5Gを通じた電動自動運転トラックでの配送実証を2018年11月から始めています(図1)。同国内にある物流拠点内で、無人運転車による運用を実施。5Gの超高速、超低遅延の特長が、データセンターに置かれた走行状況を判断するシステムとの連携を密にし、安全な運用を可能にします。長距離トラックのドライバーは、長時間にわたって緊張感が続く過酷な仕事です。自動運転の実現によって、不慮のヒューマンエラー、居眠り運転、集中力の低下などを防止できると期待されています。また、ドライバーの労働環境の改善にもつながります。


図1 5Gを活用したトラックの自動運転と隊列走行の実証実験が始まる。 (上)エインライド社の自動運転トラック「T-Pod」、(下)隊列走行の概念図
出典:左はエインライド社、右はソフトバンクのリリース

有人運転のトラックの後に無人のトラックが連なって動く隊列走行も課題解決の手段として注目されています。ソフトバンクは、5Gを活用した隊列走行の実証実験を2017年12月から実施。5Gの超低遅延な特徴を編隊走行中の車両間や運行管理センター間の通信に生かすことで、車間距離を状況に応じてセンチ単位で最適制御し、安全な運用を実現する技術の確立を目指しています。さらに隊列走行することで、先頭車以降の風圧が軽減するため、燃料の削減効果も期待できます。車間距離が4mでは15%、2mでは25%燃費が改善するそうです。

隊列走行の実証実験は、欧州のトラックメーカーも鉱山、建設現場などで積極的に行われており、欧州連合(EU)が主導したスウェーデンからオランダまで31.5mのトレーラーを車間距離10mで編隊走行する実験も行われています。高速道路を編隊走行するトラックを目にする日が、遠からずやってくることでしょう。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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