トレンドテクノロジー解説【5G】

第8回 小売店での5G活用で、お客様に“おもてなし”体験を提供

「顧客が求める商品を、必要なときに提供する」。これは、古今東西変わらぬ小売業の基本だと言えます。顧客が何を求めているのか知るうえで、IoTや5GといったICTの活用は極めて有効です。

現在、小売業は実店舗の売上から、ネット通販の売上へと急激にシフトしています。例えば、経済産業省のデータからアパレル産業の状況を見ると、2017年の国内全商取引14兆2582億円のうち、11.54%に当たる1兆6454億円をネット通販が占めるようになりました。ネット通販での売上は2016年比で7.56%も伸びています。このようにネット通販が伸びている背景には、手軽に買い物ができることもさることながら、情報閲覧履歴から個々の消費者が求める商品を正確に洞察し、お勧め商品を提案している効果もあります。まさに、小売業の基本を実践した成果と言えます。

5Gによって、実店舗でもIoTで来店客の動きをデータ化してクラウドに送り分析することで、ネット通販と同様の商品提案ができるようになることでしょう。日本の老舗旅館や百貨店の外商は、顧客をよく観察し、“おもてなし”の心を込めて商品やサービスを提案することで、お得意様の心をがっちりとつかんできました。同様のサービスを、ICTシステムを駆使して提供できる可能性があります。

実店舗でネットストアを超える顧客体験を提供

既に実店舗で詳細なデータを集め、顧客体験の改善に成功した例が出てきています。

ジーンズの大手メーカーであるLevi Strauss & Companyは、カリフォルニア州の本社に併設している旗艦店で、IoTを活用して商品の動きのデータを集め、顧客体験の強化と改善に活用しています(図1)。店舗に在庫している全商品にRFIDタグを取り付け、商品の動きを追跡し、分析できるようにしました。どのような商品が手に取られ、試着され、最終的に購入されたのか、リアルタイムで分かります。これによって、ネット通販で行われている商品の閲覧履歴を、実店舗でも知ることができるようになりました。さらに、顧客が求める商品がどこに在庫されているのか、店員が簡単に探し出すことができるようにもなりました。

図1 RFIDタグをつけた商品の動きから、顧客の購買行動を捕捉 出典:Levi Strauss & Companyのホームページ

同様の目的は、カメラで顧客の動きを検知するという方法でも満たすことができるかもしれません。しかし、個人情報保護の観点から、商品の動きだけを追うLevi’sの方法が、汎用性は高いと言えそうです。この例では、RFIDタグを近距離無線通信(NFC)で読み取っています。同様に5Gで読み取れば、より多くの商品をそろえ、来店者が多い大規模店舗でも活用できるようになります。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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