トレンドテクノロジー解説【5G】

第5回 5Gが生み出す究極のリスク細分型保険

自動車保険や火災保険など損害保険は、年々、リスクを細分化して査定し、契約内容や保険料を決める方向へと向かっています。自動車保険では、同じ補償内容ならば、古くは加入期間とその間の事故歴で決まる等級だけで保険料が決まっていました。今では、年間走行距離や乗っているクルマの車種、免許証の色、さらには自動ブレーキ機能の有無などかなり多くの項目を勘案して、保険料が決まるようになりました。ただし、リスクが細分化した後も、統計的に事故が起きるリスクを査定していることに変わりはありません。

ただし、これから損害保険の対象となるモノの状態をセンサーと5Gによってリアルタイム検知できるようになれば、損害保険のあり方は大きく変わる可能性があります。統計に基づく査定ではなく、ドライバーや車両の今の状態を基に保険の内容を変えることができるようになるのです。

ドライバーとクルマの今を見て、保険の内容が変わる

既に、クルマにセンサーを搭載し、ドライバーの運転傾向を検知して保険料が決まる商品が出てきています。トヨタ自動車とあいおいニッセイ同和損害保険は共同で、2017年11月に、安全運転の度合いに応じて保険料を割り引く保険を開発しました(図1)。ドライバーのアクセルやブレーキの操作、さらにはクルマの速度などのデータを取得し、安全運転の度合いを100点満点で評価。毎月の点数と走行距離によって、保険料の割引額が変わる仕組みです。評価はドライバーにも知らされるため、自分の評価を見て安全運転を心掛けるようになるので一石二鳥の仕組みだと言えます。

図1 トヨタ自動車とあいおいニッセイ同和損保が開発した運転挙動反映型テレマティクス自動車保険の仕組み 出典:トヨタ自動車のプレスリリース

今後、あらゆるクルマがインターネットにつながりコネクテッド・カーへと進化していく見込みです。そして、つながる手段として5Gが利用され、ドライバーの運転傾向だけでなく、クルマの状態や走っている場所の傾向なども、詳細かつリアルタイムで把握できるようになることでしょう。

こうした情報を活用すれば、保険料を変動させるだけではなく、免責事項も柔軟に設定できる可能性があります。あまりにも無茶な運転で起きた事故には保険料は支払わないという契約です。また、高精細な車内カメラでドライバーの状態を検知すれば、居眠り運転で起きた事故には保険料が支払われないといった契約もできるわけです。その分、保険料を安価にできれば、交通事故の防止に効果的かもしれません。

同様の動きは、スマートホーム化が進む住宅を対象にした火災保険、場合によってはウエアラブル端末を着用している人を対象にした医療保険や生命保険にまで拡大する可能性があります。実際、南アフリカの保険会社ディスカバリー社は、センサーから収集した健康状態のデータを基に、医療保険契約者に提携企業のクーポンを発行するリワード(報酬)プログラムを取り入れています。統計に基づいて保険料や契約内容を決めるのではなく、保険を掛ける対象の実際の状態に合わせて決める時代がやってきそうです。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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