トレンドテクノロジー解説【5G】

第4回 3D CAD、VR、そして5Gで加速するオープンイノベーション

近年、オープンイノベーションや競争といった開発手法が当たり前のように行われるようになりました。異業種企業が協力し、それぞれの専門性を生かしながら新しい価値を持つ製品を創出する手法です。長年、同じ業界の中でビジネスを営んでいると、製品開発の発想が硬直化してしまいます。業界の常識の枠を超えた斬新なアイデアや解決困難と思われる課題の解を、他業種の知恵や技術を借りながら探ろうとするのがオープンイノベーションの狙いです。今では既存業界を覆す大変革へと発展した自動運転技術の開発も、自動車業界とICT業界の知見や技術が融合して生まれたオープンイノベーションの産物だと言えます。同様の動きは、ヘルスケア機器やスマート農業用の農機など、多くの例が見られるようになりました。

オープンイノベーションに取り組むときに、最も問題になるのは、業種の壁を越えてどのように円滑に意思疎通や価値判断を行うのかという点です。この問題を解決する際、3次元CADや仮想現実(Virtual Reality:VR)、さらには超高速かつ超低遅延でのデータ通信を可能にする5Gの活用が極めて有効になります。

専門性や価値観の違いを、VRと5Gで乗り越える

オープンイノベーションでは、価値観や専門用語などバックボーンが異なる人たちが協力する必要があります。開発時のコミュニケーションは苦労して当たり前だと言えます。例えば、いかに優れた機械を設計したとしても、その図面をICTのプログラマーに見せたところで、その価値は全くピンとこないでしょう。逆もまた同様に違いありません。

しかし、見方を変えれば開発する製品のターゲットとなる顧客は共通しているわけです。ならば、開発は常に顧客目線を起点としてトップダウン的に開発を進め、それぞれの専門技術へとブレークダウンして評価すれば、専門性の壁を乗り越えて開発を進めることができるでしょう。

最近の3次元CADはかなり進歩していて、設計した部品のデータを組み立てて製品を仮想的に完成させ、実際に動かして性能を評価できるようにもなってきました。しかも、設計した製品のデータを基に、VRを活用して使い勝手を確かめることも可能です。つまり、顧客視点から見た製品の出来を、開発関係者が開発段階で共有できるようになっています。例えば、設計環境のベンダーである仏ダッソー・システムズは、VRゴーグルによって、設計データの状態の製品の立体感や様々な場所に置いたときの見栄えを体験できる開発環境を2017年1月に発表しました(図1)。

図1 仮想現実で設計したバイクに跨がってライダーの視点を設計時に確認できる (上)3次元CADで設計したバイクのモデル、(下)仮想現実で、バイクに跨がり、ライダー視点での見え方を確認する様子
出典:ダッソー・システムズ 公式YouTubeチャネル

同様の手法は、施工前に出来上がりをチェックして、取り返しのつかない状況に陥るのを防ぎたい建築業界でいち早く活用されるようになりました。そして今では、自動車や家電製品など様々な製品でも利用されるようになっています。こうした環境に加え、5Gを活用して離れた場所にいる別々の企業のエンジニアの間で設計データを共有できるようになれば、オープンイノベーションは一気に加速することでしょう。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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