トレンドテクノロジー解説【5G】

第3回 5Gとデジタルツインの組み合わせで、生産現場をリアルタイムで把握

製造業の分野で、「デジタルツイン」と呼ばれる技術を使った、効率的で効果的な生産設備の運用法の導入を検討する企業が増えてきました。米国の調査会社であるガートナーは、2019年に企業や組織にとって戦略的重要性を持つテクノロジーのトップ10の中にデジタルツインを挙げ、ビジネスの効率化に役立つだけではなく、状況の変化に迅速かつ適切に対応できるビジネス体制を整えるための鍵を握る技術であると評しています。

デジタルツインとは、工場内に置かれている工作機や製造装置、さらには生産中の製品などの形状や特長を丸ごとコンピュータ・モデル化し、工場内で起きていることをそのままコンピュータ内で再現する技術のことです(図1)。現実にあるモノと双子のような挙動を示すモデルを使い、現実ではできないような生産条件の効果を試したり、装置を稼働させ続けた場合の疲労の様子を予測したりできます。いわば、リアルタイムでの工場シミュレーション環境と言えます。

図1 現実の工場と瓜二つのモデルをコンピュータ上に構築

このデジタルツインに、5Gで実現する超高速で超低遅延のデータ通信を応用することで、より精度の高い情報をリアルタイムでコンピュータ内に再現できるようになります。そして、コンピュータ内でシミュレーションした結果を、現場へと迅速にフィードバックすることも可能になるかもしれません。

現場の不具合の発生を予測して迅速に対処

デジタルツインでは、センサーやカメラを装置や設備に取り付け、現在の稼働状況を知るためのデータを収集し、これを双子のモデルを置くデータセンターに送ります。

単にデータを解析するだけならば、データ通信に要する遅延はそれほど問題になりません。ただし、解析結果に応じて迅速かつ自動的に対処する仕組みを作る場合には、遅延時間を最小限に抑える必要が出てきます。対処すべき不具合の発生が予測され、生産条件を変えることで対処できることが分かったとしても、それを現場にフィードバックするのに時間がかかったのでは、対処した時には後の祭りになってしまう可能性があるからです。

4Gの場合には、工場とデータセンターの間でデータをやり取りするのに、行きと帰りで遅延時間が20m秒以上掛かっていました。これでは、いかにデータセンターに高性能なサーバーが置かれても、リアルタイム性が求められる生産設備の管理や制御には向きません。これが、5Gを活用することで、2m秒前後と1ケタ小さくなります。実用に足る遅延に抑えられる可能性が出てきます。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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