トレンドテクノロジー解説【5G】

第2回 5Gが実現するカスタムメイド製品を効率よく作る未来の工場

いま、世界中のものづくり企業が「第4次産業革命(Industry 4.0)」と呼ばれる新しい製造業の潮流に対応すべく奔走しています。Industry 4.0による最も野心的な取り組みとして「マスカスタマイゼーション」の実現があります。マスカスタマイゼーションとは、消費者個々のニーズに合った仕様の製品、究極的には1点モノの製品を効率よく作り分けしようとするものです。

既にいくつかの先行事例も出てきています。例えば米アラインテクノロジーは、歯形のデータを3Dスキャナで取得してカスタマイズした、一人ひとりにぴったり合う歯科矯正器具「Invisalign」を商品化しています(図1)。既に世界中の520万人が利用しています。また、ドイツのアディダスは、ソールの部分をユーザーの足の形に合わせて3Dプリンタで作ることができるランニングシューズ「Future craft 4D」を2017年4月から発売しています。現時点では足の形のデータ取得体制が整っていないため、個人に合わせたマスカスタマイゼーションは商用化していませんが、走っている時の骨格の動きに応じてソールの形状を最適化するなど、プロスポーツ選手を相手に行うようなカスタマイズが簡単にできる製品です。これらは、カスタム生産する効果が際立つアプリケーションであり、今後はこうした製品が一層増えていくことでしょう。

図1 マスカスタマイゼーションでユーザーに合わせた製品を製作 (左)カスタマイズ製作中の歯科矯正器具、(右)3Dプリンタでシューズのソールを作る工程
出典:左はアラインテクノロジー社、右はアディダス社のホームページ

同じ仕様の製品を大量生産するのに比べて、顧客に合わせたカスタム仕様の製品はどうしてもコストが高くなってしまいます。これをICTの力でいかに効率化するかが、生産システムを構築する各社の競いどころとなっています。

5Gで装置を連携させて、究極の多品種対応ラインを構築

より高度なマスカスタマイゼーションに対応するには、ニーズに合わせられる柔軟な生産体制が欠かせません。5Gには、超高速、超低遅延、超多数接続でデータをやり取りできる利点があります。これらの特長を生かせば、中央の生産管理システムから生産工程や条件を迅速に変更し、生産現場の柔軟性を高めることができます。データは無線で伝送するため、工作機や製造装置などをつなぐケーブルが不要になり、生産ラインをフレキシブルに変更できるようにもなります。

さらに、5Gを使えば、工場内の設備を有効活用できるようにもなります。生産工程や条件が異なる多くの品種を同じ生産ラインで作る場合、どうしても遊んでいる装置や力不足で生産に時間が掛かってしまう装置が出てきます。そうした状態は、特定の作業に特化した専用製造装置をラインに並べると顕著に生じます。

ただし、汎用的な作業に使えるロボットや、高性能なコンピュータを工場に配置し、必要に応じて足りない作業や処理に充てることができれば生産品目が変わっても柔軟に対処できるでしょう。オールマイティな機械を一定量用意しておいて、生産の変動に対処する方法です。ただし、ロボットやコンピュータは他の工作機械や製造装置と迅速に連携しながら、素早く最適なフォーメーションが組めることが条件となります。ここに、5Gで実現する密で、迅速な連携が生きてきます。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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