トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第11回 MaaSは広告、デリバリー、送客の新ツール

2018年12月、東京都内に「日清のどん兵衛」でラッピングされたタクシー車両が登場しました。この通称「どん兵衛タクシー」の特徴は、どん兵衛専用のラッピングと内装が施されているだけではありません。ディエヌエーが開発した配車アプリ「MOV」を利用して配車すれば、タダで目的地まで運んでくれるのです。

どん兵衛タクシーの外観と内装(出所:ディエヌエー)

今回の0円タクシーは、ディエヌエーがMOVのスタートを機に開始した「PROJECT MOV」の第一弾として実施されました。PROJECT MOVは、利用シーンや個別のニーズに応じた新しい移動体験を実現するための取り組みです。0円タクシーの提供を通じて、乗客と交通事業者だけでなく、企業などを巻き込んだ多者間のマッチングモデルをアピールする狙いがあります。

PROJECT MOVのビジネスモデル(出所:ディエヌエー)

0円タクシーの効果ですが、スポンサーは商品認知と購買意欲を高めることが期待できます。ラッピングや内装による視覚効果だけでなく、タクシー車内というプライベート空間において乗客とのコミュニケーションを高め、試供品提供やサービス体験、専用コンテンツなど、自由度の高い広告を展開できます。

タクシー事業者においては、これまであまりタクシーを使っていない新規の顧客層を取り込むことが期待できます。また、タクシー事業者には、契約スポンサーと「MOV」両者からの広告宣伝費によって通常通りの乗車料金分が支払われるため、新たな収益モデルの構築に繋がります。

ディエヌエーは「MOV」を多くの人に認知してもらうことと、タクシー利用のハードルを下げることで通常利用の乗客が増えることを期待しています。PROJECT MOVの次の取り組みとしては、好みの車種やユーザー評価の高い乗務員を選択できる仕組みなど、新しい移動体験価値の提供を予定しているそうです。

0円タクシーで具体化したスポンサーを含めた多者間マッチングですが、スポンサーが移動サービスを活用する場面は広告だけではありません。代表的な用途としては、実際にものを買ってもらうための「商品配送」と、顧客に店舗まで来てもらう「送客」があります。

商品配送で活発な動きを見せているのはレストランが食事を配送するデリバリーです。すでにオンデマンド配車事業者は多くのレストランと提携し、それぞれのレストランから注文されたメニューを出前するサービスを始めています。

ネットスーパーがオンデマンド配車サービスを活用するという組み合わせも始まりそうです。日本経済新聞の報道によれば、イオンがインドネシアでオンデマンド配車事業者のゴジェックと提携し、ゴジェックの配車アプリを介して登録運転手を活用したネット宅配を始めるそうです。利用者がネットで注文した商品を、ゴジェックの運転手がイオンの店頭で購入し、利用者宅に配送するという仕組みです。

海外では将来の自動運転時代を見越した取り組みも始まっています。例えば米ドミノピザは、米国ミシガン州アナーバーにおいて、米フォードモーターの自動運転車を使ったピザの宅配実験を実施しています。実験車両には、ピザを収納する箱が取り付けられていて、注文主がコードを入力すればピザを取り出せます。

ドミノピザの配達実験で用いられた自動運転車(出所:フォードモーター)

米食品宅配ベンチャーのPostmatesもフォードモーターの自動運転車による配送実験を実施しています。実験の目的は、自動運転車による物品の宅配現場において、利用者の使い勝手を確認すること。利用者は、タッチパネルを操作して車両内のロッカーを開閉し、物品の格納/取り出しを実行します。

宅配用の自動運転車で配送している様子(出所:フォードモーター)

MaaS時代になると、店舗が自動運転車両となって利用者からの呼び出しに応じるという事業も考えられます。これを先取りした事業企画を提案する企業もあります。例えば米ロボマートは、「生鮮食品の無人移動販売」という特定の用途を絞った試作車を開発しています。試作車は冷蔵室、無線給電機能、無人販売を実現するための決済システムを備えた自動運転EVです。車両はスマホアプリで利用者の近くに呼び出せます。

ロボマートの移動販売車(出所:ロボマート)

自動運転車を活用した送客の実証実験も始まっています。取り組んでいるのは米大手スーパーマーケットチェーンのウォルマート。米ウェイモと提携し、自社のネットスーパーを利用して店舗での受け取りを希望した顧客に対して、自動運転車を用いた送迎サービスを提供すると2018年7月に発表しました。利用できる店舗は、米アリゾナ州チャンドラーの1店舗だけですが、この実証実験を通してネットスーパーの利便性を高める知見を獲得し、今後の事業に役立てる予定です。

ウォルマートの送迎に利用されるウェイモの自動運転車(出所:ウォルマート)

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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