トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第7回 自動運転になると自動車保険はいらなくなる?

自動運転車の普及で最も大きな影響を受ける業界の一つに、損害保険業界があります。「自動運転車は安全運転するから事故を遭遇する心配はないから、自動車保険はいらなくなる」とか、「事故を起こさないから保険金はかなりやすくなるはず。たくさんの保険会社がつぶれるかも」といった発言を見かけます。

将来、公道を走るクルマのほとんどが完全自動運転車になれば、確かに事故は激減するでしょう。ただし、その時代が来るのはかなり先になりそうです。というのは、完全自動運転車が発売されるのは早くても2025年以降になる状況であることと、街を走っているすべてのクルマが新車に入れ替わるには少なくとも10年以上かかるからです。仮に、2030年に市販されるすべてのクルマが完全自動運転車になったとしても、公道を走るクルマがすべて完全自動運転車になるのは2040年以降になるということです。

これから数十年は、完全自動運転車と部分的な自動運転車、そして一般車が共存する世界となります。完全自動運転車に乗っていても、他のクルマや歩行者などとの間で、何らかのトラブルが発生することはあるでしょう。事故が起こったとき、完全自動運転車側に責任が全くないということを証明できるとは限りません。万一に備えて、何らかの自動車保険が必要になるという考えは変わらないでしょう。

自動運転やADAS(先進運転支援システム)を搭載するクルマは、事故率が低くなることは十分に期待できますが、だからといって保険料が安くなるとは限りません。保険料は、事故率と修理コストで決まるからです。自動運転車はライダーをはじめとする高額部品を数多く装備しているので、修理コストは一般のクルマよりかなり高くなるでしょう。事故率が低下しても、修理コストが跳ね上がるなら、結果として保険料が上がってしまう可能性もあるのです。

日本では、将来、完全自動運転車が発売され、それを購入する場面でも、自動車保険を契約しなくて済むことにはならないでしょう。国や業界で進めている現在の議論では、自動運転車が起こした事故による被害者救済は、現行の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)を適用することになっているからです。自動運転車のための法制度も、それを前提とした保険制度もまだ議論の途中です。ただし、日本には交通事故の被害者救済を目的とする自賠責保険制度が法制度(自動車損害賠償保障法)として存在しています。おそらく自動運転車が走り回る時代になったとしても、自動運転車の所有者は、自賠法の精神を引き継いだ“自動運転車向けの自賠責保険”への加入義務を負うことになりそうです。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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