トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第5回 個人向け決済サービスへ参入、ブロックチェーンの活用も

製造業が手掛けるMaaSビジネス関連の新規事業としては、個人向けの決済ビジネスがあります。自動車販売は売切りを前提にしていたため、自動車ローン程度を用意するだけでしたが、MaaS時代は利用期間に応じたサブスクリプション方式での販売となるため、新たな決済手段を用意する必要があるからです。実際、オンデマンド配車事業者はどこも、クレジットカード会社の決済機能を利用することを前提に、利用者にアカウントを開設させてモビリティサービスを提供しています。

モビリティサービスの個人向け決済サービスは、当初は移動料金の支払が中心となりますが、用途が限定されることはないでしょう。提携ショップを増やし、支払代金に応じたショッピングポイントなどを付与してインセンティブを提供するなどすれば、一般の電子決済サービスと同等の汎用的なサービス商品に育つ可能性があります。

自動車メーカーがモビリティサービス分野を対象とする個人向け決済サービスの提供に乗り出している例としては、フォードがFord Smart Mobility向けのスマホアプリ「FordPass」で用意したFordPayがあります。FordPassを用いて駐車場を検索/予約するサービスや、FordPassと各種チェーン店のキャンペーン商品を購入するときに使われています。

個人向け決済サービスの提供に向けて、電子決済サービスを提供する会社を買収して事業化を早める例も出てきています。例えば独ダイムラーは、金融子会社を介して電子決済サービスを手がけるベンチャー企業PayCash Europeを買収して「Mercedes Pay」ブランドを作りました。同様に独フォルクスワーゲンは、やはり金融子会社を通じて携帯電話を用いた駐車料金の決済サービスを提供するPayByPhoneを買収しています。

新しい試みとしては、ブロックチェーン技術を用いた個人向け決済メカニズムの構築があります。例えば、ドイツのLandesbank Baden-Württemberg(LBBW)はダイムラーと共同でブロックチェーン技術を用いた金融取引処理の実証研究を続けています。ブロックチェーンは取引履歴を書き換えられることがないという高い安全性と、複数の関係者で取引履歴を共有することを抵コストで実現できるという特徴があります。この特徴をうまく引き出して、個人向け決済システムだけでなく、販売やマーケティング分野、サプライヤー管理、デジタルサービスなど、幅広い分野での適用を検討しています。

ブロックチェーンを用いた電子決済システムとしては、金融機関のUBSが自動車部品サプライヤーの独ZF Friedrichshafenなどと共同開発している「Car eWallet」もあります。この決済システムは、駐車場、有料道路、カーシェアリング、給油/充電、配達サービスなどの料金支払い向けに検討されているもので、ブロックチェーンを用いることで個々のユーザー情報の管理の安全性を高めています。システムはクラウド経由で提供され、Linux Foundationが管理するブロックチェーンのフレームワーク「Hyperledger Fabric 1.0」で動作しています。

Car eWalletの利用イメージ(出所:ZF Friedrichshafen)

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

この記事に関するお問い合わせ

ページの先頭へ