トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第3回 MaaS時代のクルマに求められることとは

MaaS時代のクルマには、新たに求められることが三つあります。

第一は、メンテナンスしやすいハードウエア構造です。クルマはハードウエアとソフトウエアで出来ていますが、ハードウエアは使った分だけ劣化します。稼働率が上がれば、それだけ消耗したり、不具合が生まれてきたりします。しかも、これからのクルマは、自動運転や高度安全支援のために、多数のセンサーをクルマの至る所に搭載することになります。これらのセンサーは、適切な装着状態が厳密に指定されているので、装着具合にブレがあったり、センサーの表面が汚れていたりすると正しく機能しないことがあります。これまで以上に頻繁に、そして正確で細かいメンテナンス作業が求められるので、メンテナンスしやすい構造や特性を備える必要があるわけです。

第二は、ソフトウエアのアップデート機能です。ソフトウエアはハードウエアのように、たくさん走行しても消耗したり、プログラムが壊れたりすることはありません。その一方で、ソフトウエアに何らかの不具合が見つかれば、リコールを実施してすべての対象となるクルマを修理工場やディーラーに持ち込んでソフトウエアの書き換えを実行しなければなりません。

今のクルマは、1台の中に百個を超えるマイコンが埋め込まれていて、それぞれ別の用途の制御ソフトウエアが動いています。MaaS時代のクルマは、今以上に多くのソフトウエアを搭載することになります。自動運転や高度安全支援を実現するためのAIソフト、画像処理ソフト、センサー情報解析ソフトなどが必要になるからです。また、これらのソフトは更新することで機能を高めることができます。例えば、米テスラはソフトウエアを更新することで自動運転機能の強化を実現しています。ハードウエアはそのままでも、ソフトを新しくすれば、新しい価値を提供できるわけです。こうしたことから、MaaS時代のクルマには、素早く確実にソフトウエアをアップデートするための仕組みが求められます。おそらくOTA(over the air)と呼ばれる「無線を用いたアップデート機能」の搭載が主流になるでしょう。

富士通が提供するOTAソリューションのシステム構成

第三は、自家用車であってもMaaS車両として貸し出せる仕組みの搭載です。例えば使わないときにレンタカーに貸し出すことを考えると、キーのやり取りが問題になります。このとき、スマホアプリを電子的なキーにできる仕組みがあれば、安全かつ手軽に第三者にキーを貸し出すことができ、レンタカーに貸し出す際の負担が減ります。また、ドライバーが安全運転できる状態にあるかどうかをセンサーやカメラを用いてチェックし、危険走行の可能性があるときはエンジンをかけないといった制御を組み込めば、貸し出す側の安心感が増すことでしょう。

トヨタ自動車がカーシェア事業者向けに開発した「スマートキーボックス」のシステム構成 ドアロックの開閉やエンジンの始動をスマートフォンから実現する。MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)は、各種サービス事業者向けにトヨタが用意するプラットフォームである(出所:トヨタ自動車)

普段は自家用車として利用し、使わないときは第三者に貸し出すという使い方については、自動車メーカーも十分に理解しています。例えばフォルクスワーゲンは、同社の完全自動運転車のコンセプトモデル「Sedric」を発表した際に、普段は自分のSedricと呼び出し、出先ではレンタカーのSedricを呼び出す用途で用いる専用リモコン「One Button」も発表しました。いつでもどこでも、ボタンを押すだけで、どこからかSedricがやってくるというわけです。

Sedricの外観 Sedricはself-driving carを意味している(出所:フォルクスワーゲン)
SedricのリモコンとなるOneButton(出所:フォルクスワーゲン)

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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