トレンドテクノロジー解説

MaaS(Mobility as a Service) 第1回

広がるオンデマンド配車サービスと社会・ビジネスに与える影響

2018年12月、米ウェイモが米国アリゾナ州フェニックスで新しい交通サービスが始まりました。名称は「Waymo One」。スマホアプリでクルマを呼び出し、目的地まで運んでもらうオンデマンド配車サービスです。

その特徴は、やってくるクルマがドライバーレスで動作する完全自動運転車であること。Waymo Oneを手掛ける米ウェイモは、2016年に米グーグルの自動運転開発部門が独立して設立したスタートアップ企業。1000万マイルを超える公道での自動運転車のテスト走行を実施しており、テキサス州とカリフォルニア州ではドライバーレスの自動運転車による公道テストも始めています。Waymo Oneは、利用エリアと対象ユーザーに制限がありますが、完全自動運転車による“世界初のロボタクシーサービス”であるため、自動運転時代の幕開けを告げる新サービスと言えるでしょう。

もっとも、皆さんが米ウーバー・テクノロジーズや東南アジアのグラブ、中国の滴滴出行(ディディチューシン)などのオンデマンド配車サービスをご利用になったことがあるのなら、きっとWaymo Oneのアプリ画面に新鮮さを感じることはないでしょう。使い勝手そのものは、多くのオンデマンド配車サービスのスマホアプリと変わりがないからです。

米国カリフォルニア州の公道でテスト走行するウェイモの自動運転車
Waymo Oneの専用アプリの操作画面 最初にクルマの乗車場所を決め(画面左)、目的地(降車場所)を指定すると(画面中)、乗車可能な人数、配車に掛かる時間、目的地への到達時刻、料金が提示される(画面右)。これらの条件に納得してREQUEST RIDEボタンを押すと、配車が実行され、移動が終わった段階で自動的にクレジットカード決済される(出所:ウェイモ)

完全自動運転車での移動体験はとても興味深いものだと思いますが、「スマホで車を呼び出して、目的地まで運んでもらい、そのまま降りる(自動決済する)」という移動体験は既存のオンデマンド配車サービスと同じです。

最近話題となっているMaaS(Mobility as a Service)は、こうしたスマホアプリで移動手段を選択、予約、決済できるオンラインサービスを指します。利用者は移動しながら操作することが前提となるので、通常はスマホアプリとして提供されます。ウーバーアプリはMaaSアプリの代表例と言えるでしょう。

今あるオンデマンド配車サービスの移動手段はクルマとバイクですが、他の顧客と相乗りにするかどうかや、一般車のほかに高級車や大型車を選ぶことが出来ます。また、ウーバーはクルマの他に、大型ドローンのような機体を用いた空飛ぶタクシー「uberAIR」の事業化構想を持っており、「2020年の実験飛行」と「2023年の実用化」を目標に実用化を進めています。

MaaSの利用イメージ 利用者はスマホアプリを使って移動手段の比較・選択し、予約する。あらかじめ決済方法を登録しておけば、移動終了後に自動決済され、領収書がメールで送られてくる。

MaaS先進国と言われているフィンランドで生まれたMaaS事業者のMaaS Grobalは、さらに多くの交通手段をスマホで選べるようにしました。同社が開発したMaaSアプリ「whim」で比較・決済できる交通手段は、公共交通機関、タクシー、レンタカー、レンタサイクルです。ウーバーやMaaS Grobalの例から分かるように、MaaSの世界では移動手段はクルマに限らないのです。MaaS Grobalは地域の交通事業者と提携することで、このアプリによるMaaSを実現しました。これまでに、フィンランドのヘルシンキ、イギリスのバーミンガム、ベルギーのアントワープでサービス提供を始めています。

MaaS GlobalのMaaSアプリ「whim」 レンタサイクルを選んだケース(出所:MaaS Global)

MaaSが本格化すると、移動手段が増えるだけでなく、“運ぶモノ”のバリエーションも増えそうです。すでにオンデマンド配車事業者は、配車アプリに出前サービスを組み込んで、好みのレストランから料理を取り寄せるサービスの提供を始めています。ウーバーならUberEATS、グラブならGrabFoodという名称で、配車アプリのメニューに加えています。おそらくその先には、商品だけでなく、コックさんやネイリスト、エスティシャンといった専門家に利用者宅を訪問させるサービスや、店員だけでなく店舗ごとに顧客のいる場所に届けるビジネスが始まるでしょう。実際、トヨタ自動車はこうした“自動運転で動く移動店舗”の実現を視野に入れ、店舗オーナーが自由に車体内部をレイアウトできる構造のMaaS専用車のコンセプトカーを発表しています。

トヨタ自動車がMaaS時代の専用車両として発表したコンセプトカー「eパレットコンセプト」(出所:トヨタ自動車)
「eパレットコンセプト」の利用イメージ 動くショップとしての利用を想定している(出所:トヨタ自動車)

オンデマンド配車サービスの登場によって、多くの国でタクシービジネスの再構築と、小売店によるフードデリバリーの活性化が始まっています。MaaSが発展し、社会に浸透すれば、さらに多くの既存産業がさまざまな形で影響受けることになるでしょう。

それではMaaSが迫るビジネスモデルの再構築と、その原因となる既存産業に及ぼす破壊的な影響にはどのようなものがあるのかを、産業分野ごとに具体例を見ていくことにしましょう。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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