トレンド&デジタルテクノロジー解説【キャッシュレス社会】

第2回 オープンAPIで始まる産業界と銀行の新たなデータ連携

経済産業省は2018年4月に発表したキャッシュレス・ビジョンにおいて、イノベーションを活用した新たなキャッシュレス化の実現と、その先にある新たなビジネスモデルの広がりを指摘しています。これは、2017年3月に経産省が「クレジットカードデータ利用に係るAPI 連携に関する検討会」を立ち上げて、カード会社とFintech企業とのAPI連携のあり方について検討した結果を踏まえたもので、API連携の先の世界、具体的には売買履歴などの個人データの獲得を目的に、低廉な手数料によるキャッシュレス決済を提供する新たな動きが世界で本格化していることに対する危機感の現れともいえるものです。

金融分野におけるAPI連携に関しては明確な目標が存在します。2017年6月に閣議決定した「未来投資戦略 2017」において、「今後3年以内(2020 年6月まで)に、80 行程度以上の銀行におけるオープンAPIの導入を目指す」と宣言したことです。これにより、金融分野におけるキャッシュレス推進の第一歩は、銀行のオープンAPI導入であると示されたと言えるでしょう。

オープンAPIとは何かを見る前に、API連携についておさらいしておきましょう。API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)とは、あるアプリケーションソフトウエアが何らかの機能を実行するときに、その機能の一部または全部を別のプログラムやサービスを利用して実行できるように作られた連携技術の一つです。例えばWindowsは自身が出来ることを、他のプログラムが呼び出して利用できるようにWindowsAPIを用意しています。アプリケーションがウインドウを開くときは、ウインドウを開くことと、どんな大きさのウインドウを画面のどこに表示するかをWindowsに伝えますが、これはWindows APIがあるからできるわけです。

これまでAPIはプログラム間で機能依頼する場面で使われることが多かったのですが、最近利用が進んでいるのは、インターネット上で提供している各種のサービスをネットワーク経由で使えるようにする「Web API」です。インターネットでWeb APIを公開すれば、世界中の企業やサービスがその機能を利用できるようになります。Googleの地図やAmazonの販売ページを手軽に呼び出せるのは、それぞれがWeb APIを公開しているからです。多くのネット企業は自らのサービスをWeb APIとして定義・公開し、他の業界のネットサービスに使ってもらうことで急速な事業発展を遂げてきました。そして今、このWeb APIを用いたイノベーションが、キャッシュレス決済とFintech開発をトリガに金融業界で始まろうとしているのです。

例えば銀行なら、顧客が自身の口座から出金する機能を、他のネットサービスで料金支払いする場面で利用できるように、その出金する機能をWeb APIとして開発・公開できます。また、各銀行が残高照会のWeb APIを公開すれば、Fintech企業は各銀行から最新の残高情報を収集できるようになるため、複数の銀行をまたがる預金高の一覧表示機能を顧客ごとに開発できるようになります。このFintech企業の残高一覧機能を活用したいユーザーは、Web APIを提供していない銀行には口座を開きたくなくなるでしょう。

金融分野で注目されているオープンAPIは、これまで銀行が顧客に向けて提供してきた一連のサービスについて、そのサービスをWeb API経由で使えるようにした上で外部の企業に公開することを意味します。今の銀行は、顧客向けにインターネットバンキングサービスを提供していたとしても、Web APIとして公開していないケースが大半です。このためFintech企業は、Web APIとは異なる方法で顧客情報を集めています。具体的には、銀行のサービスにアクセスするためのログインIDやパスワードをユーザーの同意を得てFintech事業者から預かり、それを用いてユーザーの代理として銀行のサイトにログインし、Web表示される内容から必要なデータを取得しています。この手法は、「Webスクレイピング」と呼ばれていますが、安全性と信頼性の面で問題があります。

銀行がオープンAPIを導入すれば、Fintech企業と銀行の間でオープンAPIによるデータ連携が可能になりますから、安全性と信頼性が高まることに加え、Fintech企業が新しい金融サービスの開発に乗り出しやすくなります。

銀行と利用者の間に中間的業者にあたるFintec企業が入る。銀行はFintech企業にアクセス権限を付与。利用者はFintech企業のアプリを操作して照会・送金を行う。
オープンAPIのしくみ(出所:全国銀行協会)

オープンAPIには、残高更新を伴う送出金処理を実行できる更新系APIと、残高表示のように更新の伴わない参照系APIがあります。Fintech企業が更新系APIを利用できるようになれば、キャッシュレス決済サービスの提供が可能になります。例えばマネーフォワードは、住信SBIネット銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、セブン銀行、三菱UFJ銀行と更新系API連携を実施しており、指定口座に自動振り込みできるサービスを提供しています。また2018年5月には、エムティーアイが常陽銀行と更新系APIの利用に関する契約を締結し、スマートフォン決済サービス「&Pay(アンドペイ)」を開始することを発表しています。

MFクラウド経費からワンクリックで振り込み依頼が可能になる
更新系APIを用いた振込依頼の実施イメージ(出所:マネーフォワード)

オープンAPIの導入は急ピッチで進んでいます。2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略 2018」によると、2018年3月時点で、全邦銀(除く外国銀行支店)139行のうち、インターネットバンキングを提供していない9行を除いた130行がオープンAPI の導入を表明しており、130 行中 122 行が 2020 年6月 までに導入する予定だそうです。

オープンAPIはキャッシュレス時代の金融ビジネスを革新するための手段ですが、その目的は革新的な金融サービスの登場に他なりません。銀行がオープンAPIを導入すれば済むことではなく、Fintech企業をはじめとするさまざまな企業との協業を加速しなければ実現できないことでしょう。また、多くの挑戦的な試みが始まるかどうかは、オープンAPIの手数料にかかっているともいえます。安い手数料で更新系APIを使えるなら、日本ではあまり利用が進んでいない銀行口座引き落とし型のキャッシュレス決済が広まる可能性は十分にあります。オープンAPIの導入は目的ではなく、イノベーションを起こすための手段です。他社にはない戦略的な機能をオープンAPIとして公開できるか、戦略的な手数料体系を設定できるか、どんなFintech企業と協業できるか――などが競われることになりそうです。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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