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【第七回】立花隆氏 / 未来を切り拓くスーパーコンピュータ(前編)

シミュレーション技術の進化が社会や企業のこれからを変革する

どのように変化するかを計算し、変化をたどる

「本当に1位を目指す必要があるのか?」ということも話題になりましたね。

ジャーナリスト 立花隆氏
極めて専門性の高いスーパーコンピュータの命運を、専門家を抜きに決めようとするのは無理があります。幸いその後「京」の予算は復活しましたが、削られたままだったら、日本の産業界も学術界も大きな退歩を余儀なくされるところでした。
世界トップレベルのスーパーコンピュータ開発は、一企業の力で継続するには大きな困難が伴います。国家予算を投入しなければ作れませんから、今後も政治と関わりを持つことがあるでしょう。ですから、あのときの仕分けのようなことが起こり得ます。これからも、社会との共存を図りながら開発を進めるほかありません。

「京」を活用することで、どのような世界が見えてくるとお考えですか。

シミュレーション技術は急速に進化しています。シミュレーションというのは、ある対象の現在の状態が、次の瞬間どのように変化するのかを計算すること。一定の時間幅で計算を繰り返すことで、対象の変化をたどることができます。
その時間幅の短縮に加えて、メッシュも微細化しています。こうした進化によって、リアルの世界とほとんど同じことをコンピュータ上で実現できるようになったのです。
サイエンスの方法論は、「理論と実験」と言われます。基本はこの2つですが、そこにシミュレーションが加わろうとしているわけですね。そして、そのレベルはどんどん高度化しているのです。
シミュレーションの具体例としてよく知られているのは、自動車の衝突解析でしょう。あのメッシュがさらに細かくなり、時間幅がますます短縮されると、どのような世界が見えてくるか。分子レベル、さらに原子レベルでのシミュレーションが可能になります。

分子レベルのシミュレーションには、どのような意味があるのでしょうか。

自動車の衝突解析とは次元の違う、まったく新しい世界が姿を現そうとしています。いわば、分子レベルのものづくりです。それを説明するために、もう1つの国家プロジェクトについて話をしましょう。兵庫県に建設されたX線自由電子レーザー「SACLA」です。
それまで人類史上最も明るい光は、兵庫県にある「スプリング8」の放射光と言われていました。2011年にレーザー発振に成功した「SACLA」は、その10億倍の明るさです。以前、X線自由電子レーザーは米国にしかありませんでしたが、「SACLA」はすぐにその世界記録を塗り替えました。
光の波長は解像度の限界を示しますが、「SACLA」はその長さが0.063ナノメートル。この光を当てると分子どころか、原子をそのまま見られるのです。時間解像度も並外れています。瞬間的に発するパルス光の時間的な長さは、10フェムト秒(100兆分の1秒)。これを使えば、様々な現象を100兆分の1秒の間隔で、コマ送り動画のように見えます。原子や分子の瞬間的な動きを観察できるのです。
化学的な現象の細部は、これまでほとんど知られていませんでした。例えば、水素と酸素の分子がくっついて水の分子ができる。化学反応はあっという間に起きるので、そのプロセスは観察できませんでした。
こうした化学反応のプロセスが解明されれば、科学だけでなく、産業にも極めて大きなインパクトを与えるでしょう。さらに、「京」の計算能力が加わることで、化学・素材産業、ものづくりを劇的に変える可能性があります。

[2012年4月10日 公開]


プロフィール

ジャーナリスト 立花 隆(たちばな たかし)

1940年、長崎県生まれ。文藝春秋社を経てフリーランス。取材・執筆活動のほか東京大学大学院情報学環特任教授、自然科学研究機構経営協議会委員を務める。立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授、文科省次世代スーパーコンピュータ開発利用アドバイザリーボード委員なども歴任。



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