富士通フォーラム2019イベントレポート

デジタルトランスフォーメーション(DX)に成功する企業の共通点とは?
過去の失敗と成功事例から学ぶ経営イノベーション

最新テクノロジーを活用した社会「Society5.0」の実現に向けて、産官学が一丸となった取り組みが加速しています。こうした中、経営イノベーションの実現に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践に踏み切る企業が増えてきました。多くの企業がデジタル革新に向けて邁進している中、すでに成果を挙げている企業も出てきています。それらの企業に共通すること。それは、経営陣がAIをはじめとするデジタルツールに過度な期待をせずに、どんな課題を解決するためにデジタル革新を実践するのか、その目的を明確にしていることです。デジタル革新を成功するために経営陣に求められるマインドチェンジの重要性について、DXの実践に深く関わる有識者が、それぞれの視座から語ります。

2019年5月に開催した「富士通フォーラム2019」では、プログラムの1つとしてパネル・ディスカッション「AIがもたらす経営イノベーションの実現に向けて~成功事例と失敗事例から学ぶ次世代経営スタイルとは」が開催され、デジタル革新に成功する企業の共通点に関して議論しました。パネリストは、データ活用時代に躍進できる人材の育成に取り組む金沢工業大学工学部 情報工学科教授の松井くにお氏、AIソリューション・プロバイダーである株式会社Sigfoss 執行役員COOの三井篤氏、ITの進歩と企業経営のかかわりを調査しているIDC Japan株式会社リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏の3人。モデレーターは、富士通株式会社 理事首席エバンジェリストの中山五輪男が務めました。

富士通株式会社
理事 首席エバンジェリスト
中山 五輪男

AIの活用法を知る大学と現場データを持つ産業界の連携が必須

プログラムの前半では、それぞれのパネリストの方が、デジタル革新を成功に導くためには何が阻害要因となるのか、そしてそれを解決するためのアプローチ方法などについて解説しました。

大学通信が実施しているアンケート調査「面倒見がよい大学」で14年連続トップに輝く金沢工業大学は、現在、全学的なAI教育に取り組んでいます。松井氏は「ただし大学には、AIで活用すべき産業や社会の課題を含むデータがありません」と人材育成上の悩みを明かしました。

一方、松井氏が産業界に対して指摘したのは、デジタルツールに対する過度な期待が、デジタル革新を進めるうえで弊害となっているという実態です。「高精度で判断できるAIの能力に幻想を抱き、効果的な応用先を吟味しないまま、過度な成果を期待する人が産業界には多くいます」(松井氏)。

実データがないために実践的なAI活用が研究できない大学と、AIを活用すればすぐにでも効果が出ると間違った認識を持った産業界。それぞれの課題を解消するためには、新たな産学連携の姿が必要となりそうです。「産業界は、大学を実証フィールドとして活用し、実データを提供して分析させればよいのでは」と松井氏は提案しました。

金沢工業大学
工学部 情報工学科 教授
松井 くにお氏

明確な目標設定がAIソリューションを成功に導く

次いで登壇したSigfossの三井氏は、目的に合ったAIソリューションを生み出すためには、最適な要素技術を用意し、良質なデータと優れたシステムデザインと組み合わせることが欠かせないと指摘しました。それに加えて、AIソリューションを成功させるためには、目的が大切であることを強調しました。成果を得るには、「何を解決したいのか、目的をあらかじめ明確に定義しておかなくてはならない」といいます。

同氏は、過去に取り組んだ失敗例を紹介しました。人事データから退職しそうな社員を見つけ出すシステムを開発したところ、99.8%的中させることができたというのです。ただし、退職直前にならないと予測できず、わかったところで、結局その社員は退職してしまいます。本来であれば「優秀な人材は留まらせたい」という明確な目的を重視しなくてはならないのですが、開発時にはそれをなおざりにしてしまったため、プロジェクトとしては失敗に終わったというわけです。

株式会社Sigfoss
執行役員 COO
三井 篤氏

日本企業は新しいITの使い方を間違っている

IDC Japanの寄藤氏は、まずDXの取り組み動向を経営視点から調査した結果を披露しました。「DXが事業部門ごとの実践にとどまる例が多く、全社的に取り組みを行う企業は全体の14.1%と少ないのが現状です」と語りました。

そのうえで、日本の産業界が抱える課題として、従来ITと新しいITが分断されていることを指摘しました。寄藤氏は、「システム部門主導で構築する基幹システムなどの従来ITと、業務部門主導で構築するIoTやAIなどの新しいITとで、データ連携ができない状態の企業が多い」といいます。本来、目的を達成するためには、従来ITと連携して使われるべき新しいITが、日本の場合は、従業員の意識向上や投資家へのアピールの材料として使う企業が多いというのが現状だと、使われ方の間違いに警鐘を鳴らしました。

対して、デジタル革新に成功している欧米では、日々のビジネス活動の指針を得るツールとして活用して成果を挙げている企業が多いといいます。寄藤氏の講演からも、AIなどのデジタルツールを導入する目的の重要さが、繰り返し強調されたといえます。

IDC Japan株式会社
リサーチバイスプレジデント
寄藤 幸治氏

図 国内企業におけるDXプロジェクトの導入状況(IDC Japanが実施した「CIO調査2018」より)

自社の改革を推進するために組織を新設

富士通の中山は、自社の経営イノベーションを推し進めるための新たな取り組みを披露しました。2019年4月に「未来共創センター(ミラセン)」と呼ぶ新しい部署を設置。ここでは、富士通自らがデジタル革新で変わっていくために、自社内の過去の取り組みの分析、課題の明確化、新たなビジネスモデルの追求、独自の評価制度の制定などの活動に取り組んでいます。

ミラセンは、外部企業のブランディングにも協力しており、中山はその成功事例として横河電機との取り組みを紹介しました。IoTの新サービスを提供する横河電機の新会社「amnimo」のブランディング活動に、デザイン思考の手法を活用して取り組みました。まず、新会社の悩みを共有、あるべきビジョンやブランドの姿を丁寧に議論して探り、経営陣に対しては成功するためには組織改革が必要であるなど、これまでの認識を変えてもらいました。この結果、「横河電機様からは『納得の結果が得られました』とうれしいフィードバックをいただけました」と中山は明かしました。

図 「amnimo」のブランディング活動で得られたアウトプット

デジタル改革は、まずトップの意識改革から

プログラムの後半では、デジタル革新を成功させるために必要な要件を洗い出すために、4つのテーマについて、全パネラーが参加して議論しました。

1番目のテーマは「イノベーション経営の成功と失敗」。ここでは松井氏が、産学連携の研究においてAIを活用し、古い商習慣を見直すことに成功した事例を紹介しました。金沢工業大学とCM総合研究所は、視聴者の主観に基づくCM好感度調査を、客観的データに基づいて合理的に改定したといいます。CM総合研究所では、30年以上にわたって、視聴者が感じたCMの面白さを「出演者・キャラクター」「ユーモラスなところ」といった15の主観的ポイントから選ぶアンケートを実施してきました。ところが、選択肢の中には、類似したものがあり、無駄と調査精度の低下につながる課題が残っていました。

松井氏は、「主観的な表現で書かれた選択肢の見直しは、検討者1人ひとりの感じ方が異なるため困難な作業です。そこで、AIの自然言語処理を用いて類似度を機械的に査定し、誰もが納得する選択肢に改定しました。主観である好感度を、客観性の高いデータで裏付けることで、結果を様々な用途に活用することが狙いでした」と成果を披露しました。主観的データを客観的データに変更したいという明確な目的があったことが、成功の一因といえるでしょう。

2番目のテーマは「経営者意識の改革」。プログラムを通して、最も大事な議論の1つです。寄藤氏は「DXによる経営イノベーションに成功した企業には共通点があります。その取り組みが会社にどう役立つのか、トップが見極めていることです」と語りました。さらに、「トップが目指すべき姿を発信することで、従業員全員がDXの実践に積極的に取り組む風土が生まれます」と、組織に対するトップの影響度の大切さについても言及しました。

一方、三井氏は「改革を目指すならば、DXに捨て金を使う覚悟を持ってほしいと考えています。AIなどのプロジェクトは、実際に学習させないと得られる成果が見通せません。事前に大きな成果を求めてハードルを上げると、見えていなかった大きな果実を逃す可能性があります」と指摘しました。ともすると、AIなどの最新ツールはすぐに成果を出すと思われがちですが、ある程度、長い目で見ないと本当の目的は達成できません。

異質なものの組み合わせで生まれる新しい価値がイノベーション

続くテーマは「イノベーション事業に適した組織」。中山は「近年、社長直轄の組織、全社横串で取り組むプロジェクトで目覚ましい成果を上げる例が目立つようになりました。イノベーションの創出に向けて、どのような組織を作ることが望ましいのでしょうか」と提起しました。

これに対し松井氏は、「新しいビジネスを始める場合、大抵、役員会議で反対されてしまいます。取締役の多くは、古いビジネスで実績を上げた人たちが多いのですから当然です。ならば、逆に役員会議で反対されたビジネスを優先的に選んで実行に移すルールを作ってはどうでしょうか」と大胆な提言をしました。松井氏の発言を受けて三井氏は、「新規ビジネスには、過去に成果を挙げた人材をアサインしたくなるものです。しかし、そのビジネスに想いが強い人材を優先して集めるべきです。どんな苦難があっても、最後までやり抜くからです」と加えました。

最後のテーマは「イノベーション事業に適した人材」です。寄藤氏は、「イノベーションの本来の意味は、異質なものごとの組み合わせで新しい価値を生み出すこと。だから、それに携わるのは、異質な知見・能力を持つ人材である必要があります。同じ業界一筋で経験を積んだだけでは、イノベーションの創出は難しいと思います」と語りました。三井氏は「常にアンテナを高くして、多角的に情報発信、情報収集ができる人が適していると思います」とし、松井氏は「特に情報発信能力が重要だと思います。情報を発信しているうちに知見や能力は後から身に着くでしょう」と補足しました。

パネリストの最後の言葉としてそれぞれ語られたのは、DXによって経営イノベーションを起こすためには、まず目的を明確にしたうえで、経営者が率先してマインドチェンジしていくことの重要さです。松井氏は、AIなどのツールが手軽に使えるようになったからこそ、よりよい戦略を構想する能力を養うべきだといいます。三井氏は、AIソリューション・プロバイダーの立場から、ユーザーのやりたいことを明確に言語化することがシステムを構築するうえでの前提と、仕事の進め方を定義しています。寄藤氏は、当たり前と考えられていた企業カルチャーを変えるなど、経営陣の仕事で最も重要なのは組織を変革させることだと強調しました。

全体を通しての結論として、やはり重要だったのは、第一に取り組みの目的を明確にすること。そして、経営陣がこれまでの常識にとらわれずに、マインドチェンジをしていくことでした。これらはプログラム全体を通してパネラーの皆からクローズアップされたことであり、デジタル改革に成功する企業の共通点だといえます。

図 リアルタイムにグラフィックレコーディングされる当日のディスカッション(グラフィックレコーディング:タムラカイ氏担当)

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