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訓練と実践の積み重ねが鍵を握る アイデア創出の5つの実践ポイント

 

訓練と実践の積み重ねが鍵を握る
アイデア創出の5つの実践ポイント

本稿は、『Knowledge Integration for the Future 2018 Summer デジタルジャーニーで未来を切り拓く』( 8.02 MB)(IT Leaders 特別編集版、2018年5月)「PART2-3 「共創のためのサービス体系」、進化へ[アイデア創出]」の再掲です。

2018年6月18日

黒木 昭博 富士通総研 コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ チーフシニアコンサルタント
武田 英裕 富士通 デジタルフロント事業本部 デジタルコンピテンスセンター 共創ビジネス開発部

「共創のためのサービス体系」を構成する3ステージの中で、アイデア創出は少し違った存在である。情報収集・問題発見は、投入した時間や費用が成果につながりやすい。サービスの実装も目標が明確なので努力と成果が相関するはずだ。しかしアイデア創出は違う。優れたアイデアを生み出すことと、時間やコストは比例しない。

これがアイデア創出の醍醐味であり、難しさでもある。単に人を集めてアイデアを出そうとしても常識的なものか、あいまいか、あるいは突飛なものしか生まれないケースが少なくない。「アイデアソンを実施したが、少し異色な社内イベントで終わってしまった」「デザイン思考を取り入れているが、なかなか成果に結び付かない」といったことは、読者にも経験があるはずだ。

我々は社内外で数多くのアイデア創出の場を運営してきた。そこで得た仮説の1つは「アイデア創出には手法の理解や訓練が必要」というものだ。ビジネスでもスポーツでも、あるいはゲームでも、基本を学んで訓練と実践を積み重ねる。何事にも基礎や基本があり、定石的なテクニックもある。それらをマスターしたうえで繰り返す。

最優先で利用者の有用性に集中する

アイデアを生み出す場合も同じである。見よう見まねでブレーンストーミングを実施し、ワイガヤで議論するといったレベルでは、想定するような成果を得にくい。アイデア創出に有効な方法論にはKJ法やSCAMPER法、TRIZ法などがある。最近ではデザイン思考やアイデアソンもある。適切なやり方を目的に応じて選択し、それを学んで繰り返しトライする必要がある。常に頭の片隅に疑問を持ち、「アイデアを生み出そう」と意識するのも大事だろう。少なくとも、アイデアソンを実践しさえすれば何かを生み出せると、単純に期待するべきではない。

アイデアを創出するには相当の努力を要するわけだが、楽になったこともある。例えばデザイン思考では、(1)利用者にとっての有用性(価値)、(2)ビジネスとしての発展性(投資収益性)、(3)技術的な実現性、の3つを成立させる必要がある。このうち(2)と(3)は、一昔前に比べて大きくハードルが下がったことだ。困難に思えても実現可能なことは多いし、比較的容易に投資を得る手段も増えている。(1)に集中できるようになったのである。

前置きが長くなった。以上のような前提を理解いただいた上で、トライする価値があると考えられるアイデアを生み出すミーティングや議論を、どのように実行すればいいのか? すでにあるアイデアを磨き上げる工夫は何か? ここでは5つの必須ポイントに絞って紹介する。

(1)取り組むべきテーマを煮詰める

何と言っても大事なのがミーティング前の準備、つまりアイデア創出プロジェクトの目的やテーマ設定を工夫することだ。というのもアイデア創出のプロセスは試行錯誤の連続となる。その際に参加するメンバーが自分事としてプロジェクトの意義を理解し、積極的に取り組んでみたくなるようにするためである。

テーマ設定に決まったやり方はないが、「問い(どうすれば~を実現できるのか)」のカタチ(表現)を工夫するといい。それが発想の起点にもなる。この時のポイントは、「コト(価値や効用)」を考えさせる表現にすること。例を挙げると、「どうすれば次世代CRMシステムの機能をよりよくできるだろうか」と「どうすればお客様との関係を深めるサービスを実現することができるのか」を比べてほしい。

前者は、既存のITシステムの改善案に終始する可能性が高い。後者は「そもそもどんな関係が望ましいのか」「どんな期待に応えるサービスにすればいいのだろうか」などとなり、発想の切り口を広げられる。同時に「劇的に」「10 倍に」のように発想を飛躍させる形容詞を盛り込んだり、「私」「私たち」を主語に入れることで、自分事として考えられる工夫をする。

(2)アイデア創出のためのチームビルディング

参加メンバーの意思疎通、つまりチームビルディングも重要だ。アイデア創出のミーティングでは、4名~8名でチームを形成することが多い。活発な議論ができるように、20名が参加する場合でも3~5チームに分けるのである。各チームのメンバー構成には多様性を持たせる。組織内でのポジションや専門スキル、性別や年齢、国籍、日常の関心事が異なるメンバー同士が議論することで、気づきにくい観点を得られるようにするためだ。

単にチームを編成するだけでは不十分であることに注意してほしい。メンバーが活発に議論し、斬新なアイデアを生みだすには、メンバーの相互理解の醸成が大前提。相互理解のためだけに数日を費やすケースもあるほどだ。ではそのために具体的に何をすればいいのか。食事会や飲み会ももちろんOKである。中でもお勧めするのはゲーム感覚で取り組め、同じ時間と空間の中で一緒になって取り組める共同作業である。

例えば「マシュマロ・チャレンジ」がある。マシュマロと乾燥パスタ、テープ、ひもを使い、自立可能なタワーを作る、単純なゲームだ(写真1)。当然、高いタワーを目指すのだが、やってみるとなかなか思うように作れず、皆で試行錯誤することになる。普通はやったことがないから当たり前である。この「やったことがないことを皆でやる」のが、各メンバーの個性を見えやすくする点で効果がある。

写真1:マシュマロ・チャレンジ。マシュマロとパスタなどを使って、できるだけ高いタワーを作る

もう1つ、ルールの設定と周知にも配慮したい。年齢や役職を気にせず、互いの考えをぶつけあえるようにするには、予めルールを決めて宣言しておく方がいい。例えば、常に全員の意見を聞く(全員が意見を言う)、順番にメモや付箋紙の記録役を務める、飲み物のピックアップなどで席を外す時は他のメンバーに声をかける など、常識的なことである。まとめるとチームビルディングのポイントは、「メンバーの相互理解」と「ルールの周知」である。

(3)アイデアの発散と収束を繰り返す

では実際の議論はどう進めるか? 単に思い付いたことを披露し合ったり、話し合ったりするだけでは、なかなかアイデアを形にできない。そこで様々な可能性を探るために提案し合う「発散フェーズ」と、出た考えやアイデアを絞り込む「収束フェーズ」を交互に繰り返していく。アイデアの「具体化」と、そのエッセンスを取り出す「抽象化」を行き来することも重要だ。これらは基本である。

表1:各手法の概要。目的や場面に応じて使い分ける

この時、様々なアイデア創出手法を取り入れるといい(表1)。発散で有用なツールの1つがアイデアスケッチだ(図1)。どんな利用者の、どんな課題を解決するのかを文字や図形、擬音などを用いながら落書きする感覚で描く。画力は高い方がいいが、その場にいるメンバーなら議論の文脈で読み取れるので、下手でも問題はない。それよりもアイデアを具体化するうえで大事な可視化の効果を狙う。

図1:アイデアスケッチの例。絵の上手下手は気にせずに、ともかく描いてみる

意外に上手くできないのが、突飛で荒唐無稽なアイデアの良い点を見つけ、褒めること。それができれば「もっと突飛なことを考えてみよう」という意欲を喚起し、雰囲気作りにも有効だ。突飛なアイデアに着目するのは、収束させる際にも注意すべきポイントの1つだ。多くのアイデアから3つ程度に絞って収束させていくのだが、往々にして実用性のあるものを選びがち。そうではなく、意図的に違和感が残るものや突飛に思えるものを選ぶといい。実用性を過度に重視すると単なる改善型のアイデアに帰着することが少なくない。

(4)先入観や思い込みに着目し、逆をつく

収束させた後、アイデアを発展・具体化する前に留意しておくべきことがある。そのアイデアがなぜ「よい」「面白い」と思ったかの理由を挙げることだ。例えば「タクシーをIoT化させ、乗客がよくつかまるエリアにタクシーを誘導する」というアイデアに対して、「勘と経験による乗客探しから脱却できる」「ドライバーのモチベーションアップ」などのよいと思った理由を挙げていく。

そのように見ていくと配車に関して「勘と経験」⇔「データ」という切り口や、モチベーションの観点から「タクシーが人を運ぶ」⇔「ドライバーが楽しく人を運ぶ」といった切り口が見えてくる(図2)。このような軸を掛け合わせていくと、自分たちのアイデアがどこに位置付くのか、それぞれの象限でもっと斬新なアイデアがないのかを考えやすくなる。

図2:アイデアを深めるための図式化手法の一例

図2の「データを使って楽しく運ぶ」という象限であれば、効率的に乗車させ、その回数や走行距離に応じてインセンティブを与える仕組み、というアイデアも考えられる。こういった手法で斬新な発想を阻害する思い込みや一般的な常識から脱し、枠に捕らわれないアイデアを生み出す。上記のような切り口の整理は、自分たちの先入観がどこにあったのかを把握することにつながる。

(5) 具体と抽象を行き来しアイデアを練り上げる

アイデアが固まってきたら有用性を検証しておく。サービスの実装フェーズでサービスやシステムを開発する前に、もう一段、アイデアを練り込む作業だ。これも決まったやり方はないが、有用と思える手法を2つ紹介しよう。1つはアイデアを実現して対外発表する時の「プレスリリース」を書く方法である。米Amazon.comが「The Future Press Release」と称して、この方法を実践している。

プレスリリースを書くには、特徴を簡潔に伝えるタイトルや概要、背景や特徴を説明する本文、提供開始時期、価格など、企画に必要な要素を埋めなければならない。曖昧な企画だとメッセージがぼやけるので当然、伝わらない。細かな仕様だけでもダメで、本当の価値や機能を深く検討しなければならない。

もう1つはモックアップの作成(図3)。具体的には模型やUIデザインの試作である。文章では表現しにくい細部を考えなければならず、モックアップ次第ではユーザー体験の流れを検討できる利点もある。これらはアイデアを具体化するプロセスなので、モックアップを作成した後に改めて抽象化する。モックアップから「価値を一言で表すと何なのか」を見出すのだ。

図3:モックアップの例。実際に動くものである必要はない。一連の流れができたら、想定ユーザーに見せてフィードバックをもらう

その方法の1つが、いわゆる「エレベーターピッチ」だ。VIPと一緒にエレベーターに乗っている短時間のうちにアイデアを伝えるプレゼン手法である。どんなユーザーに何を提供し、類似するサービスとの違いは何かなどを、簡潔にまとめて盛り込まなければならない。具体と抽象を行き来することでアイデアを練り上げていく。

壁にぶつかったらこう対処する

アイデアを創出する、そして具体化させるのは刺激的で面白いが、難題である。行き詰まることも多い。そんな時にどうするか? 議論が足りていない場合もあるので答は1つではないが、方向転換(ピボット)を考えるのがいい。当然、やみくもに方向を変えるのではなく、ユーザー、対象市場、実現手段としての技術などを拠り所に、そのどれかを変えてみる。

意外に大事なのが目的に戻ることだ。壁にぶつかった時、「なぜ取り組んでいるのか」を改めて議論すれば、一度はアイデア創出に取り組んだ経験があるだけに、新たな視点が開けることが多い。最後に、アイデア創出は一筋縄では行かない。繰り返しの訓練と実践の積み重ねが重要であることを付記しておきたい。


本ページに記載された内容は、掲載日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。

トップ写真:ismagilov/Getty Images

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