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山梨県立中央病院様では、富士通のフィールド・イノベーションを活用し、患者様からの改善要望が多く長年の課題であった「会計待ち時間の短縮」を実現。何処に本質的な原因があったのか?を紐解くことで、改善につなげました。
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地方独立行政法人
山梨県立病院機構
山梨県立中央病院
医事課 課長
前田 正一郎氏
明治9年の開院以来、山梨県の基幹病院としての役割を果たし続けてきた山梨県立中央病院。同病院において、大きな課題となっていたのが会計待ち時間の短縮である。
医事課 課長 前田 正一郎氏は「病院に来院される患者様は心身の不調を抱えられています。会計のために長時間お待ちいただくことはなるべく避けたい。そこで混雑時のオペレータを増員したほか、各診療科にも書類の記入漏れなどをなくすように依頼しました。これにより多少の効果は見られたものの、思うような成果が上がりませんでした」と振り返る。
このような事態を打開すべく、同病院では富士通のフィールド・イノベーションを導入。前田氏はその狙いを「第三者の客観的な視点を取り入れることで、問題解決に向けた糸口が掴めればと考えました」と語る。
プロジェクトを担当したフィールド・イノベータ(以下、FIer)は、現状を明らかにするため可視化作業に着手。関係者へのインタビューや現場観察、医事システムのアクセスログ分析などを実施した。その結果明らかになった事実は、病院職員にとっても意外なものであった。
今回の可視化対象となった会計業務は、「受付処理」「処理待ち」会計計算」の3プロセスに大別される。患者から書類を受け取り内容を確認した後、会計番号の発番を行うのが「受付処理」、実際に支払う医療費の計算を行うのが「会計計算」、この間の時間が「処理待ち」だ。元々同病院では、会計計算のプロセスに問題があるのではと考えていた。しかし、可視化の結果、会計計算自体にはさほど時間が掛かっていないことが判明。それよりも、書類を受け付けてから計算が始まるまでの処理待ちの時間こそが、最大のボトルネックだったのだ。
主査 河野 奈美氏は「業務委託先のスタッフからも、書類の記入漏れなどで各診療科に電話確認する必要があり時間がかかるという話を聞いていましたので、私たちもその部分が問題なのだろうと思い込んでいました。ところが実際には、処理待ちの書類が溜まってしまうことが本当の原因だと知り、大変驚きました」と語る。
処理待ち時間が増えるのには様々な理由があったが、中でも問題だったのが「渋滞」の発生だ。会計計算は複数のスタッフが担当するため、通常であれば同時並行で処理が進められる。ところが、専門知識や複雑な計算が必要な会計処理には、詳しいスタッフへの相談を行う場合があり、相談を持ちかけた方と受けた方の両方の業務が止まってしまっていた。また、書類の受付順に処理するため、時間が掛かる書類が続くとその後にある簡単な書類の処理も遅れることとなり、道路の車線減少で渋滞が起きるように、どんどん処理待ち時間が長くなっていたのである。
地方独立行政法人
山梨県立病院機構
山梨県立中央病院
医事課 主査
河野 奈美氏
「その他にも、会計業務と関係ない外線電話に応対していたり、作業環境や動線の問題で度々離席するなど、様々な事実が見えてきました。個人的には、書類チェック用の赤鉛筆を削るための離席が多いとの指摘が印象的でしたね。そうしたことの積み重ねが、処理待ち時間の増加につながっていたのです」と前田氏は語る。
地方独立行政法人
山梨県立病院機構
山梨県立中央病院
医事課 主事
石川 知氏
さらに同病院では、改善施策の立案に向けたワークショップを実施。「医事課・委託業者・情報システム課の三者が集まり、何をどう改善すべきかをそれぞれの視点から意見を出し合い、全員で討議しました」と語るのは、主事 石川 知氏。また、主事 山田 諒氏も「FIerが議論を上手にリードしてくれたこともあり、和気藹々とした雰囲気の中で施策を検討できました。私は委託業者として会計業務を担当していた経験もあるので、委託業者、職員それぞれの悩みを理解できる立場の者として話し合うことができました」と続ける。
その結果、様々な施策を導き出すことに成功。まず、医事課では、スタッフが会計作業に専念できる環境を整えるべく、外線電話の応対を自部門で引き受けるようにした。また、委託業者も、スタッフの担当を会計の難易度に応じて割り振り、短時間会計を集中処理するスピードレーンを設置。難易度の高い会計は専任担当に任せ、相談相手は一人に決めるなど、役割の明確化と作業効率向上に向けた施策を行った。役割に合わせたオペレータの作業レイアウトや書類の置き場所なども見直し、離席しなくとも作業ができるようにした。
「先に触れた赤鉛筆の問題も、あらかじめ削ったものを数本用意することで解決。また、難易度の高い公費が発生する会計には色付きのファイルを使用することで、他の担当者が間違えないように工夫しています」と河野氏は語る。
数々の取り組みにより、懸案であった会計待ち時間を大幅に短縮。同病院では、会計待ち時間の目標を15分以内と定めているが、この達成率を以前の約37%から約97%にまで引き上げた。
加えて見逃せないのが、自主的な改善意識の高まりだ。「外線電話を取るようになったことで、委託先スタッフからも感謝の声が挙がっています。我々も現場の困り事に気付いていなかったことが分かったので、今後は積極的に手伝っていきたい」と石川氏は語る。現場主導の活動で改善を成し遂げたことで、職場内のモチベーションも大きく向上した。
また、FIerの支援にも高い評価が寄せられている。山田氏は特に参考になったのがデータの使い方です。課題を把握するためには、どのようなデータをどう組み合わせれば良いのかが分かり大変勉強になりました。今後の自分の業務にもぜひ活用したいと考えています」と語る。
地方独立行政法人
山梨県立病院機構
山梨県立中央病院
医事課 主事
山田 諒氏
同病院では今回の成果を生かし、今後も患者サービス向上と業務改善を推進していく。前田氏は「病院/委託業者の壁を越えて、同じ目標を目指せたことの意義は大きい。お互いが仕事のパートナーとして、意見を出し合い、課題解決のために自ら考えることができるようになりました。FIerから学んだ手法もフル活用し今後も様々な課題解決に挑んでいきたい」と抱負を語った。
会計待ちの原因を可視化で洗い出す - 今回の可視化作業では、患者から書類を受け取って計算が完了するまでのプロセスを分析。受付処理、処理待ち、会計計算のどこがボトルネックになっているのかを探っていった。
処理待ち増加の原因が明らかに - 会計計算に時間が掛かる伝票を複数の担当者が抱え込んでしまうと、作業着手できる件数が大きく減ってしまう。その結果、処理待ち件数が増えてしまうことが判明した。
山梨県立中央病院様はFI活動を始める以前より、患者サービスの向上のために様々な改善を自ら実施されておりました。今回は更なるサービス向上として、FI活動を依頼されましたが、正直どこまで改善できるのかの不安があり、また、会計業務は全て委託業者に任せていたため、改善施策の検討を職員と委託業者がどこまで一緒に実施できるのかも大きな懸念事項でした。
FI活動を開始し現状の分析をしてみると、今まで病院様が行った改善は表面的な課題の改善であり、確かにこのままでは限界だと感じました。そこでFIerとしては原因分析を中心に可視化を行ない、 根本的な原因を見つけ出せたことで、改善施策の方向性を示すことができました。
更に懸念していた、委託業者との施策検討においては、職員が自ら会計計算に専念できる環境として「会計に関する外線電話の対応」を率先して立案したことで、委託業者の方々も一緒に改善活動を実施していこうと意識が変わり、大きな成果を得ることが出来ました。
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[2018年5月 公開]