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【コラム】経営リスクの極小化が最大の利益を創出する
第3回 原価管理が抱えているリスクとは何か

第3回原価管理のリスク

原価管理の実態は百社、百様です。
「現場に生の実データはあるのに経理の数字につながっていない」、「現場明細を中間管理者が括るため経営層に実態が伝わらない」、「現場への改善指示が本社からの総論号令だけで具体策がない」、「目標が比率や平均値のため現場が何をすべきか判断できない」、「現場の諸現象を相関関係で語るため因果関係が解明されない」、などの問題はありませんか。
このようなことが原因で必要な経営判断が遅れてしまう、あるいは、間違えてしまうといった経営者や経理部門が抱える課題に対して、実際の事例を参考に解決策のヒントをお話させていただきます。

前二回で「経営リスク極小化の条件」「海外子会社の経営リスク」についてお話させていただきました。「予見力を上げること」「データで会話すること」についての話に共感いただけたでしょうか。3回目の、「原価管理のリスク」でこのシリーズを締めることにします。

「原価管理」の基本的な6つのリスク要因

原価管理や原価計算で課題をお持ちでない会社はないと思いますが、急いで対策を講じなくても、真面目にやらなくても、当面はなんとかなってしまうのが、「原価管理」の最大のリスクなのです。

リスク1:原価差額調整で帳尻を合わせられる

税務上も、財務会計上も、「原価差額調整」をすれば全体の整合性の問題はとりあえずクリアできるので、細かい管理をしなくても困りません。米国の会社はこの流儀が多いようです。だから「標準原価」のメニューしかない「原価管理システムパッケージ」が通用しています。

リスク2:厳密な実際原価管理は求めない

管理会計上も事業管理上も、厳しい「実際原価の管理」を求めない、あるいは必要性を認めていない場合、かなり緩い原価計算、または、全体を押さえていない部分原価計算でも当面は困りません。当然のことながら、不健全資産の隠された損失の発見は遅れます。

リスク3:「原価が不正確」でもすぐ損失にはならない

「原価が正しくない」ことイコール「棚卸資産が正しくない」ことですが、どちらもすぐ外には現れません。過少な原価は一時的な利益を仮に生み出し、やがて過剰となった不健全資産部分は、溜まりこんでいつか必ず損失の塊となって現れるのです。
だから、意図的な操作で棚卸資産を膨らませたとしても、昨年の大きな不正会計事件のように、傷口がとても大きくならない限り、不祥事や不正はとりあえず隠すことができてしまうのです。

リスク4:原価を語れる人がいない

多くの会社を外からみていると、自社の原価計算や原価管理の実態をきちんと語れる人が少ないことに気付きます。原価管理の全体像を押さえている人はそれほど多くはないのです。

  • 「管理原価のことはわかります。」
  • 「自工場のことは知っています。」
  • 「基本的なことはお話できますが実務の細かいことはわかりません。」

ということが殆どでした。
昔決めた「原価計算基準・規定」が陳腐化して使いものにならないところも多いようです。

リスク5:原価リスクは潜り込む

すぐに困らないから原価管理トラブルは潜在化します。多くの会社で原価リスクが潜在化して、外には出てきません。何故なら、少なくとも上場会社の場合は、適正な原価計算を行っていることが当然とされますし、監査法人も認めている「公正妥当な決算」の結果だということが建前だからです。

リスク6;建前と実態が異なる

潜在化している原価リスクは意識されにくいため、本音トークで、少し突っ込んだ話を伺ってみると、「実は公にできないのですがこういうことが問題です」、「上からは変えろと指示されているのですがなかなか着手できません」、「改善計画の検討をしましたが費用が巨額なので諦めました」、などと課題認識はしているが、いわば成り行きに任せているケースが多いことも見て取れます。
建前と実態は相当に違うというのが私の実感です。

極めて有効な原価管理が実現できている会社はある

これまで100社以上の大小様々な会社で原価管理や事業管理の実態を直接に診断したり、あるいは間接的に観察してきましたが、「極めて有効な原価管理や事業管理が実現できている会社」はごく少数ですがあります。

某食品メーカーさん

某消費者向け食品メーカーさんでは、なんと月次ではなく「週次実際原価計算」を励行されています。この食品メーカーさんは年に千近い新製品を世にだしますが、1年経って残っている新製品は2つ3つ位というほど激しい商品の入れ替えをすることで、「利益とシェアを維持している」と聞いています。
相当レベルの高い原価管理と事業管理の仕組みをお持ちで、十数人の事業本部長が、自分の本部の個別製品別の「週次損益予測」を、毎週、社長報告しているそうで、各本部長は毎週、現実の市場動向や自工場の実態把握に努めざるをえず、非常に苦労されているそうです。

「トヨタの原価」が出版されました

トヨタ自動車の技術畑のOBが、「トヨタの原価(※)」という本をお出しになりました。この本では、いかにトヨタ自動車さんで「原価低減」「ムダ取り」「現場改善」が徹底して行われていて、「原価企画」の概念を中心に、しっかりとした原価管理が実践されている様子と背景が詳述されていて、大変に勉強になります。
※(世界No1の利益を産みだす『トヨタの原価』:かんき出版・堀切俊雄氏著)

すぐに真似はできない

この食品メーカーさんも、トヨタ自動車さんも、他に類をみない完成度の高い仕組みを時間をかけて作り上げてきているわけで、他社が真似をするのはそう簡単ではないと思います。
殆どの会社、特に中堅以下の規模の場合は、冒頭に挙げたような様々な問題を抱えていて、改善に取り組みたくても、体力的に難しく、海外子会社問題同様、ここでも、「人がいない」「知見がない」「お金がない」「暇がない」ということで、なかなか手が付けられないのが実態ではないでしょうか。

問題の解決策はどこにあるか

「当面困らない」から「問題の大きさに気付かない」ので「更に問題が深刻化する」ため「気付いても手がつけられない」から「大事件・大不祥事として急に顕在化する」というリスクは、各社さん、大なり小なり抱えていると思います。
では、どう対処すべきかですが、問題を解決した実例をふたつほど、挙げます。どちらも私が業務改革や業務改善に直接取り組んで、成果を上げたものです。
取り組みのポイントを間違えなければ、正しい原価管理制度や、適切で効率的な事業管理制度は、あまり時間をかけずに確実に実現できるという事例です。

事例1:A社の業務改革

  • 銀行団の協調融資が崩れそうになった倒産寸前のA社に外部の事業改革チーム(コンサルではない実務部隊)が入り、経営実態調査(経営制度評価と財務査定)を実施。
  • 3ケ月間で経営制度評価報告書を作成、関係者内部公表。
  • 経営者交替後、経理制度と事業管理制度を全面改革する旨の新社長方針が公表される。
  • 経理制度改革の主な取り組みポイント。
    1. 新しい事業部別損益決算書と製造原価計算書等の書式を決定。
    2. 各項目の定義と意味を各事業部経理責任者(以下責任者)に説明し、月次予算書6ケ月分を作成させ、予算編成し予算会議で承認。
    3. 4月決算から、様式毎に、「予算値」と「実績値」の差異説明を責任者に求める「決算説明会」を開始。

<以下略>

上記取り組みの結果、年末には、一定レベル以上での新経理制度(事業管理制度および原価計算制度)が定着。この間、指導員は2名のみ、要した期間はわずか10ケ月(2月~11月)。情報システム導入は翌年から。

A社での事例で何が変わったか

以下のことが1年以内で劇的に変わりました。

  • 従来、実績原価は全く把握されていなかったが、製品別の実績原価が毎月上旬に一品一品提示されるようになった。
  • 従来、予定(標準)と実際の乖離が不明だったが、予定原価(標準原価)と実際原価の乖離が月毎に品目別に追えるようになった。
  • 従来、予算実績対比は売上高と部門費発生総額のみだったが、損益をはじめ種々の経営指標の予算達成度が明確になった。
  • コストダウンの目標達成度が部門毎に数値として明確になった。
  • 能率や歩留、習熟、値引等が要素別・勘定別・部門別に可視化できるようになった。
  • 事業部門長が自分の損益と主要資産残高に対し責任がもてるようになった。

事例2:B社の業務改善

  • 一部上場会社で業績はそれほど悪くないが、「製品別の原価管理と損益管理」が弱点で、実態の事業経営分析ができていなかった。
  • 代表工場で原価計算方式の改善に挑戦。
  • 半年あまりで、現場の職長が自分の工程の「月次損益」を正確に予測できる体制が構築できた。
  • 事前調査を別にした、新方式定着には、月1回の原価検討会の場での指導のみで半年掛からなかった。

原価管理問題の原因

事例2社を含めた様々な原価管理の問題には以下の原因が考えられます。

  1. 財務数値に基づかない管理原価を重視(財管不一致)
  2. 標準原価しかない(実際原価不在)
  3. 予算対実績が対比分析されていない(画餅原価予算)
  4. 多くを固定費と見做している(損益分岐点誤謬)
  5. 間接費や本部本社費が除かれている(直接原価偏重)
  6. 階梯式配賦を多用している(経理自己満足計算)
  7. 現場の詳細数字が活用されていない(明細非活用)
  8. 本社の原価情報が現場に戻されていない(外部報告決算偏重)
  9. 現場の言葉が共通語になっていない(共有知欠陥)
  10. 管理層が括った上澄み情報しか経営層に届いていない(情報集約誤謬)

原価計算は誰のために行うものなのか

「原価計算は、経理部門のために行うのではない。生産現場が自己管理するために行うものである」、と私は考えています。
現場が正しく自己評価を行うことを支援するのが経理であり、その結果として経理が正しい財務決算情報を入手できる関係が理想であると思います。

膨大な現場の原価情報はゴミ情報ではない

どんなに厖大で複雑にみえる個々の原価基礎情報もほぐしていけば、極めて単純な四則演算に分解されます。原価に逃げ道はないし、バブルの泡と消えることもありません。
必ず厳格な「因果関係」で動いているので、おかしなことや不思議なことには、必ず理由があります。それも基本的にはひとつの理由です。いくつも理由を挙げる人がいるときは、真実が見えていないか、嘘や隠ぺいの可能性が非常に高いと思われます。

費用と収益(原価と売上・生産高)の因果関係

最後に
「原価管理のリスク」を取り除く方策は簡単に言うと、

  • 数字で会話し数字で監視できる仕組みにすること
  • 「させられる管理」から「する管理」に導くこと
  • 「現場百遍」でものを見ること

です。

3回にわたりお付き合いをいただきました。
もしも私の話が、「実現のハードルが高い。」と感じられたら、それはやり方をご存じないからと、ここでは申し上げるのに止めます。
その詳述は、次の機会に譲ることにします。

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