ニューノーマル時代、避難所の3密と感染拡大をどう防ぐ

~AIによる画像解析技術と人流シミュレーション技術の実証実験~

近年、日本国内において台風や大雨、地震などの自然災害が多発する中、避難所では混雑が想定されます。新型コロナウイルス感染症の拡大で、避難所での3密回避による感染拡大防止が急務の課題です。ウィズコロナ、アフターコロナ、そして、ニューノーマルの時代には、避難所の混雑緩和と避難所内における新型コロナウイルスの感染リスク低減といった二つの対策が求められています。

災害時、3密回避の安全な避難所を目指してAI技術を活用した実証実験を実施

2019年10月に台風19号(令和元年東日本台風)が関東地方を直撃した際に、神奈川県川崎市では浸水想定区域の44万世帯、91万人を対象に避難勧告を発令しました。川崎市の把握しているところでは、3万3千人を超える市民の方々が避難所へ避難しましたが、複数の避難所では混雑のため、別の避難所へと避難者を移動させるなどの対応が必要となりました。現在、新型コロナウイルス感染症の拡大が終息しない今、避難所では混雑への対策だけでなく、避難所内での感染拡大防止の対策も強く求められています。

こうした状況の中、富士通は川崎市、東北大学、東京大学と共同で2020年8月31日、川崎市立殿町(とのまち)小学校において、AI(人工知能)を活用した避難所の状況把握と、3密回避による適切な避難所運営を目的とした実証実験を実施しました。これは、富士通が2017年より川崎市、東北大学、東京大学とともに取り組んできた産官学共創プロジェクト「川崎臨海部におけるICT活用による津波被害軽減に向けた共同プロジェクト」の一環です。

今回の実証実験では、監視カメラなどの映像から人の集まり方、混雑状況を自動把握する富士通のAI映像解析ソリューション「FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance V3(グリーンエイジズ シティワイド サーベイランス V3:以下、Citywide Surveillance)」と、人の集まり方から確率的に感染リスクの増大を予測する「人流シミュレーション技術」の2つの技術を活用しました。

カメラ映像をAIで分析し避難者の人数など避難所の現状を把握、さらに人流シミュレーション技術で避難所内の人の流れから感染リスクを予測

Citywide Surveillanceの活用では、殿町小学校の避難所入口に設置された監視カメラの映像をAIで分析し、避難者の人数、年代、性別などの情報も含めて把握。混雑状況をリアルタイムかつ正確に可視化して災害対策本部に集約し、必要に応じて避難者を他の避難所に誘導するなど、避難状況の的確な把握と対策の有効性を確認しました。

さらに、避難者の中に新型コロナウイルス感染者がいると仮定し、感染者との接触リスクを人流シミュレーション技術で予測。Citywide Surveillanceで把握した混雑データを元に、シミュレーションを学習したAIが接触リスクの増加をリアルタイムに検知するとアラートを出し、状況に応じた適切な避難所運営の可能性を検証しました。

「Citywide Surveillance」が感染リスク情報を提供

Citywide Surveillanceと人流シミュレーション技術の優位性

今回の実証実験で活用されたCitywide Surveillanceのような画像解析ソリューション技術は、多くの企業が手掛けていますが、富士通の技術にはいくつかの優位性があります。まず、他の技術が人の顔や全身を検知して人数をカウントするのに対し、Citywide Surveillanceは人間の頭部を認識してカウントします。

「Citywide Surveillance」が人の頭部を検知して人数をカウント

顔や全身の認証技術は、「顔が正面を向いていない」「人と人の体が重なり合っている」といった場合には正しく検知することができません。頭部を検知するのであれば、顔が正面を向いていなくても混雑して身体が重なり合っていても高い精度で人を検知できます。

また、正面から映像を撮影する必要がないため、すでに設置されている既存の監視カメラの映像をそのまま流用できることも大きなメリットです。

さらに、Citywide Surveillanceでは、髪型や服装などの全身特徴から人の年齢や性別といった属性を分類することもできます。属性を分析することで、「避難所に高齢の女性が多く集まっている」といった情報も自動で正確に把握でき、どのような支援物資やケアが必要かといった判断に役立てることができます。

スマート都市監視ソリューション「Citywide Surveillance」

一方、人流シミュレーション技術では、従来の技術に、新たに新型コロナウイルス感染症への感染リスクの増加を検知する機能を組み込みました。そして、人の集まり方に関する10万件のシミュレーションデータを学習したAIを活用し、Citywide Surveillanceと連携することで避難所での感染リスク増加を予測することを可能にしています。

この技術により、例えば、受付付近に設置したカメラ映像における「人の集まり方」から、そこに感染者がいた場合に、避難所周辺でどのような感染者との接触リスクがあるかを計算できます。今回の実証実験では、その結果が一定の基準(感染者の1m以内に5分以上いた人の期待値が1人を超えた場合)になるとアラートが上がる仕組みとし、速やかに避難所内でのソーシャルディスタンスを促すことができるようにしました。

人流シミュレーション技術を活用し3密発生リスクを回避

実証実験で感染リスク拡大防止効果を確認、今後の課題も見えてきた

今回の実証実験の成果として、現場状況やカウント数を画像で可視化してリアルタイムに確認できるというのは災害対策において有益である可能性を確認できました。

災害対策本部が人数カウントをリアルタイムで確認

その一方で、混雑情報が分かってもそれをどのように使うのかを事前に十分に検討しておかないと、災害時の有効活用にはつながらないという課題も見えてきました。

このように、AI技術を使う前提でスタッフのアクションも含めたシナリオ作りや運用設計が必要であるという知見を得ることができたことは大きなメリットとなりました。また、避難所が混雑し3密発生のリスクが分かったら受付の段階で別の避難所に移動してもらうといった避難所運営の改善にむけ、今回の実証実験で得られたフィードバックや要望を活かし、引き続き議論・検討を進めていくことが必要になります。

災害時だけでなく「ニューノーマル時代の都市プラットフォーム」として

災害発生時、地域の小中学校に多数の避難所が設けられます。避難所の設営や受付などを限られたスタッフで運営するため、AIやICTでできる部分はできるだけ自動化し、人手が必要な部分をミニマムにすることが必要になります。Citywide Surveillanceと人流シミュレーション技術は、この自動化に貢献します

さらに、Citywide Surveillanceと人流シミュレーション技術を活用できるのは災害発生時だけではありません。平時であれば、人が集まる小売店や駅等の生活インフラ向けに混雑緩和等を目的に、技術を活用することも可能です。本技術を取り入れることで、例えば、店舗のレイアウトや動線を変えることで売上がどれくらい伸びるか、といった先進的な小売業への応用も検討することができます。

今後はこれらの技術を活用することで、ニューノーマル時代の都市プラットフォームを構築し、安全でレジリエントな(強靭性のある)社会を実現するためのサービスを提供していきます。新型コロナウイルス感染症のリスクとの共存生活は今後も継続すると思いますが、すべての人が安心・安全で、快適な生活を送ることに貢献していきます。

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