世界最大級の45m電波望遠鏡で収集した観測データの解析や、共同利用環境を提供。大学や研究機関で普及が進むLinuxを採用し、導入費用全体で約2割のコストダウンを実現。
[ 2009年10月14日掲載 ]
ハードウェア: | PRIMERGY RX300, RX200等 / ETERNUS2000, NR1000F 等 |
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ソフトウェア: | Red Hat Enterprise Linux, OSSミドルウェア(Apache, Tomcat, Postfix, Bind, OpenLDAP, OpenSSH 等), NetVault |
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観測システムの共同利用環境を提供する立場から、多くの研究者が利用しやすい環境を提供したい |
大学や研究機関で普及が進むLinuxへの移行で、オープン系プラットフォームの接続性が向上し、共同利用の促進に貢献 |
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画像処理や解析技術が高度化し、多大な解析時間が必要。 観測シーズンのアクセス集中時の性能低下を改善したい |
大規模画像処理システムをSolarisからLinux on PRIMERGYへ移行したことで処理性能が向上。解析時間が最大10分の1に短縮 |
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システム構成を見直して、システム全体のコストダウンを図りたい |
共同利用のプラットフォーム(メール・DNS・Web・SSH・LDAP等)もLinux/OSSへ刷新し、導入費用全体で約2割のコストダウンを実現 |
「共同利用の立場から、観測シーズンのアクセス集中にも耐えられる
安定した画像処理サービスと膨大な観測データへのアクセシビリティが、新システムの必須条件でした」
国立天文台 野辺山宇宙電波観測所では、世界最大級の45m電波望遠鏡で収集した観測データの解析や、共同利用環境を提供しています。より利用しやすい環境を提供するため、大学や研究機関で普及が進むLinuxを採用しました。大規模画像処理システムは、SolarisからLinux on PRIMERGYへ移行したことで、処理性能が大きく向上。また、テープ装置に貯蔵していたアーカイブをディスクアレイ装置ETERNUS2000に移行し、過去の膨大な観測データへのアクセシビリティと保全性も確保しました。さらに、Webやメール、DNSなどのインターネットプラットフォームにOSSミドルウェアを採用したことで、導入費用全体で約2割のコストダウンを実現。新システムが提供する利用環境は、大学の研究者の研究シーンにおいても様々な効果を上げています。
国立天文台 野辺山宇宙電波観測所(以下NRO)は、ミリ波帯で世界最大級かつ最高レベルの観測能力をもつ45m電波望遠鏡を始めとして、サブミリ波望遠鏡ASTE(アステ)、ミリ波干渉計など、最先端の観測装置を備えた電波天文学の国際研究センターです。近年においてもOn-The-Fly (以下OTF)と呼ばれる、高度な観測方法の実装など、重要な観測成果につながる技術発展に注力。北米や欧州の研究機関と合同で、現在チリに建設中の巨大望遠鏡「ALMA(アルマ)」の本格運用(2012年)も控え、NROは電波天文学の東アジアの拠点として重要な役割を担っています。
NRO所長の川邊良平氏が「観測データは、我々の研究に使うだけでなく、外部へも公開しています。電波天文学の共同利用拠点として、観測データや解析環境を提供することは、我々の重要な役割です」と語るように、NROでは、大学から解析システムへのリモート接続や、解析ソフトウェア(NEWSTAR)の無償配布など、外部の研究活動の支援も行っています。近年、OTFのような膨大な観測データを処理するためには、従来システムでは限界が見え始めるようになりました。加えて、Linuxが大学や研究機関で普及する動向を受け、利用環境のプラットフォームを見直しました。主要な天文ソフトウェアのLinux移行が進む情勢なども考慮し、電波望遠鏡電子計算機システムのハードウェアリプレースを機に、NRO共同利用環境へのLinux採用を決定しました。
当時のシステム要件について、NRO計算機担当の高野秀路氏は「秋から春にかけての観測シーズンは、国内外から多数の研究者が訪れ、また、外部からのアクセスも増加します。我々は共同利用環境を提供する立場から、特に解析システムにおいて、アクセス集中にも耐えられる安定した画像処理サービスと、観測データへのアクセシビリティ向上を要求しました」と振り返ります。
上記の要件を受け、富士通は、過去の膨大な観測データとノウハウを継承したまま画像処理システムをSolarisからLinux on PRIMERGYへ全面移行することを提案。加えて、Webやメール、DNSなどのインターネットプラットフォームにOSS(オープンソースソフトウェア)を採用することにより、導入費用を全体で約2割コストダウンするというものでした。高野氏は、「PRIMERGYとLinux/OSSの採用によるコストダウンは、予算の一部を研究費に充当できることから、納得の提案でした。また、省エネ、省スペースの実現も、評価できました」と語ります。
NROの電波望遠鏡電子計算機システムのうち、45m電波望遠鏡観測制御システムは従来のSolaris環境を踏襲し、大規模画像処理システムと中央データ処理システムは旧版のSolarisから最新版のLinux on PRIMERGYへ全面移行しました。また、旧システムでは観測データをテープのみに貯蔵していたため、テープの劣化によりデータを読み出せない問題が生じていましたが、新システムではRAID5を備えたディスクアレイ装置ETERNUS2000を採用し、データ利用の可用性向上と高速アクセスを実現。さらに、バックアップソフトウェアNetVaultとテープ装置ETERNUS LT250も導入し、データ保全性の確保と運用効率化を実現しました。共同利用環境を支えるWeb(Apache, Tomcat)、メール(Postfix)、LDAP(OpenLDAP)、DNS(Bind)、外部接続(OpenSSH)などといったユーティリティサーバにはOSSミドルウェアを採用し、コストダウンに大きく貢献しました。
システムの基幹部にわたる大規模なプラットフォーム移行に向けて、NROは過去の膨大な観測データの移行作業を担当。旧システムのテープ装置からETERNUS4000の作業用ディスクへデータを予め複写しておくなどの工夫を重ねたことで、導入時の移行期間を大幅に短縮。また、共同利用機関への移行内容の説明やスケジュールの連絡、問い合わせ対応など、外部との調整を入念に行い、円滑に移行できました。
2008年7月のシステム移行から1年が経過した現在も安定稼動し、大規模画像処理の性能向上が、研究活動の変化につながっています。NRO計算機担当の大島泰氏は「高度な解析の中には処理時間が最大10分の1に短縮したものもあります。おかげで限られた時間に多くの解析パターンを実行できるようになり、研究のより深い考察につながっています」とシステムの性能向上を評価。また、各研究室のワークステーションに分散保存されていた研究データをETERNUS NR1000Fのユーザーボリュームへ集約化した点については「データを共有ディスクに保存できるようになり、各研究者がオフラインバックアップをとっておく必要がなくなりました。観測データは我々の大切な資産ですから、信頼できる保管場所ができたことは、研究活動において非常に重要なことです」と大島氏は語ります。OTFのデータ取得量が従来の100倍近くに膨れ上がる中、データのアクセシビリティと保全性を確保したETERNUSが評価されています。
NROでは、絶えず、新しい観測技術・観測装置の開発が進んでいます。川邊氏は「電磁波を検出するボロメータカメラで連続撮影した膨大なデータの重ね合わせや、大気の影響を受けて生じる歪みやノイズが除去された高精細画像を作成するような処理では、高性能な計算機がますます求められます。現在、我々はさらに大きいボロメータカメラを共同開発しており、それが完成すれば、地球上にない物質も、そのカメラで見つけることができるかもしれません」と新しい発見への挑戦を語った後、次のように続けます。「しかし、我々には、取り組むべき別の課題があります。それは、観測データを、研究者のみならず、一般の人が使える状態で提供することです。今回のシステム移行によって、研究者向けのインフラは強化できましたが、宇宙に興味を持っている一般の人に使ってもらえるものではありません。我々はこの課題にも近い将来、取り組まなければならないと思っています。ですから、富士通には、我々の新しい発見を実現する計算機の開発に協力していただくだけでなく、データの整理・加工および流通のノウハウを、ユーザーの立場に立って、ぜひとも提供していただきたい」(川邊氏)。
宇宙の姿を明らかにするために日夜観測・研究を行っているNROを世界の人々とつなぐため、富士通はこれからも先進的なIT技術とお客様の視点に立ったサービスで、NROの研究活動を支えていきます。
所在地 | 長野県南佐久郡南牧村野辺山462-2 |
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ホームページ | 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所様ホームページ |
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