1つの技術・製品は、開発、販売、サービスなど、数多くの担当者の手を経て世に送り出されます。「VOICE ~ETERNUSの現場から」では、富士通ストレージシステム「ETERNUS(エターナス)」の技術・製品にかかわる担当者にスポットをあてて、開発や販売にまつわるエピソード、製品への熱い想いなどを紹介します。
今回は、「ETERNUSの誕生秘話」について富士通の松島に聞きました。
――1990年代、IT業界に変革の波が押し寄せる。「ダウンサイジング」と「オープンシステム化」である。業界全体を巻き込むこの大きな流れの中、メインフレーム中心に展開していた富士通のストレージ事業も、オープンシステムへと大きく方向を転換することになる。
富士通のストレージ事業をオープンシステム向けに展開し始めたのは、業界では遅い方でした。1990年代後半の段階では、メインフレーム用のストレージ市場で堅実に事業を展開しており、事業上ではオープンシステム化の必然性はあまり感じられませんでした。一方で、業界ではメインフレームからオープンシステムへのシフトが着実に進んでおり、富士通でもオープンシステム化が重要になることは認識していました。
当時、お客様から、メインフレーム用のストレージをオープンシステムでも利用したいというご要望が寄せられていました。そこで、メインフレーム向けのストレージに、オープンシステム用のインターフェースボードを搭載した製品を開発しました。ただ、このように取って付けたような対応の製品では、本格的にオープンシステムにシフトしたいお客様にとっては、価格面、性能面で折り合いがつけられません。やはり、オープンシステム用のストレージを自分たちで独自にゼロから開発しなければならない、ということになり、1998年に「シャーク」シリーズのプロジェクトを発足させました。
サメは非常に獰猛で何でも食べます。なので、初めてのオープンシステム市場で他社のシェアに食いつき、がんがんいこう!という想いから開発コード名を「シャーク」としました。当時ある企業と技術交流を行っていたのですが、偶然にもその企業の製品のコード名も「シャーク」であることがわかってびっくりしました。
――富士通にとって初めてのオープンシステム製品、「シャーク」シリーズ。その開発は、200人規模の大プロジェクトとしてスタート。メインフレームとはまったく異なるオープンシステムの世界に戸惑いながらも、メンバーは毎夜遅くまで奮闘していた。
メインフレーム向け製品にはなかった開発項目が数多くあり、非常に大変でした。たとえば、メインフレーム向け製品はコマンドラインで操作しますが、オープンシステム向け製品はわかりやすいGUI画面で簡単に操作できるようにしなければなりません。その部分の開発だけでも数十人のエンジニアが必要でした。
また、オープンシステム製品では接続性が重要になります。それまでの製品は富士通製のメインフレームとの接続だけを考えればよかった。けれど、「シャーク」シリーズは他社のサーバとも容易に接続できなければなりません。異種環境に導入されたときに、富士通製品として品質をコミットメントする必要がある。そのために、品質保証本部を設立し、サーバやスイッチなどを含むマルチベンダー環境での相互接続性検証を強化しました。
オープンシステムの世界は、誰かがトレンドを作るのではなく、すべてが混沌としているんです。その中で市場シェアを獲得するためには、自分たちで独自に新しいことを考えなければならない。そのため、「シャーク」シリーズでは、今でこそ当たり前になっている、アドバンスト・コピー機能のOPC(One Point Copy、ある時点のボリューム内の全データを高速に複製ボリュームにコピーする機能)を開発し、導入しました。
――1999年、富士通は、初のオープンシステム用ディスクアレイ装置として、「GR720」(ミッドレンジ機、コード名はブルーシャーク)を発表。これを皮切りに、2000年に「GR730」(「GR720」の後継機)、エンタープライズ機の「GR740」(コード名:タイガーシャーク)の販売を開始した。2000年は富士通にとって「オープンシステム元年」となる。翌年にはエントリーモデルの「GR710」(コード名:ベビーシャーク)を販売、2002年にETERNUSブランドが誕生する。
GRシリーズがひと通り出揃った頃にはメインフレーム市場はすでに縮小傾向にありました。そのため、GRシリーズを国内はもちろん、海外のオープンシステム市場に売り出していきたいと考えたのです。そのためには、ストレージ製品を統括するブランド名が必要でした。
ETERNUS(エターナス)はラテン語で、「永遠に」「永久に」という意味です。イギリスの調査会社に依頼してブランド名の候補をいくつか挙げてもらい、その中から、「お客様の大切な資産を永遠に守る」という使命と「業務の連続運転性を常に追求する」というコンセプトを表す名前として最終的にETERNUSを採用しました。
このとき、各国でETERNUSというブランド名を使用できるかどうかを調査したのですが、一部の国では使用できない可能性がありました。また、富士通フランスから「フランス語ではETERNUSの発音はあまりよろしくない意味の言葉と同じだ」と指摘されたりもしました。しかし、この時点でのETERNUSの知名度はゼロ。逆にETERNUSという名前が何かの問題になるほど認識されるようになれば、それはそれで良いのではないか。ということで、2002年2月にネットワークストレージサーバ「ETERNUS SP5000」の販売開始とともにETERNUSブランドによるグローバル展開を発表したのです。
――現在、富士通はETERNUSというブランド名のもと、ディスクアレイ、テープ、スイッチ、管理ソフトウェアなど幅広いストレージ製品を提供。ディスクアレイはSAN(Storage Area Network)/NAS(Network Attached Storage)に対応し、エントリーモデルから、ミッドレンジ、エンタープライズに至るまで、ラインナップも充実している。
一番はSAN対応に優れていることです。GRシリーズ開発当初から、SAN対応を重要なコンセプトとしてきました。当時SANが話題となることはまだ少なく、お客様から「SANって何?」と聞かれることもしばしば。社内から「ストレージ事業部がなぜネットワークをやろうとするのか?」と批判されたこともあります。しかし、オープンシステムのストレージ市場で遅れを取り戻すには他社があまり注目していなかったSANネットワーク対応がキーだと考え、SAN対応を前面に押し出してきました。最近ではSANを導入することはお客様にとって、当たり前になっています。
OPCなどのアドバンスト・コピー機能、GUIでわかりやすくストレージを管理できるソフトウェア、富士通だけでなく他社製サーバとの接続性が高いことなども大きな特長です。
そして、信頼性です。当時オープンシステム製品には、「価格は低いけど、信頼性がちょっと」というところがあった。富士通は、メインフレームで培った高信頼設計を適用し、オープンシステム向けにも信頼性が高く、性能面、コストパフォーマンスの面でもお客様に十分満足のいただける製品を自信を持って提供しています。
――ETERNUSブランドの発表後、富士通はストレージ事業のグローバル展開を本格化する。企業の競争力強化のためには、グローバル市場への展開は当然の選択肢であるが、そこには予期せぬ大きな壁が立ち塞がっていた。
(注)取材日:2010年9月9日
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次回 『ストレージシステム ETERNUS(エターナス)のグローバル展開とは』
掲載日:2010年11月16日