放射線医を支援し、脳動脈瘤の早期発見に
共創が生んだAIソリューション

富士通は、事業ブランド「Fujitsu Uvance」を通じて、あらゆる人のライフエクスペリエンスを最大化し、個人の可能性を拡張し続けられるHealthy Livingな世界の実現を目指しています。AIを活用して新たな診断技術を確立しようとするオーストラリアで推進しているProject Sagasuは、まさにこうした取り組みのひとつです。

GE Healthcareとマッコーリー大学、富士通とのコラボレーションにより、放射線医が脳動脈瘤を迅速かつ効率的に発見できるように支援することを目的として、2019年に開始したこのプロジェクトは、初期研究段階を完了しました。富士通のグローバルな研究開発リソースをベースに、GE Healthcareがもつ先進的な画像技術ノウハウ、そしてオーストラリア政府から供与された200万ドルの研究助成金により、世界中のヘルスケアに変革を起こす可能性を秘めたプロジェクトです。

プロジェクトの礎であるAIを活用した診断技術の重要性と、この技術が脳動脈瘤診断の効率を劇的に改善する可能性について、富士通でHead of Industry Innovationを務めるRamy Ibrahimに話を聞きました。

目次
  1. 現場で患者に役立てられる商用ヘルスケアソリューション構築へ
  2. 放射線医の業務の質向上を目指すAI
  3. 唯一無二のAI
  4. 医学分野で実行可能なAI開発に立ちふさがった課題
  5. 様々な疾患に応用を:AIを活用した診断技術の未来

現場で患者に役立てられる商用ヘルスケアソリューション構築へ

――プロジェクトで着目した脳動脈瘤とはどういうものなのか、また医学的にどんな問題があるのか教えてください

Ramy: 脳動脈瘤は、世界人口の2~3%が罹っていると言われており、もろくなった脳動脈の血管壁に血液が入り込んでできる瘤状の膨らみを指します。血管の形状が変わると、破裂の危険性が高まり、脳出血(脳卒中)を引き起こす恐れがあります。遺伝的要因と環境要因があると言われており、家族や家系内に患者がいる場合は発症リスクが高くなります。また環境要因としては、喫煙習慣などが指摘されています。

破裂する前に脳動脈瘤を発見し、手遅れになる前に検査・治療するためには医学的介入が必要となります。脳動脈瘤を発見するためには、頭部CTで撮影した頭蓋骨内の様子を数ミリから1cm間隔に輪切りにした画像から、発生箇所を見つけ出さなければならず、決して簡単なことではありません。脳動脈瘤の大きさは小さいもので1mm程度、大きいものでも2cm程度であり、その診断はベテランの放射線医の手に委ねられているのが現状です。このスキャン画像を読み取るには、ベテランの放射線医でも15~20分程度かかり、数分で分析可能な通常のX線検査に比べて、人件費も膨らみます。

――ヘルスケア分野に興味をもたれたきっかけは何でしょうか?

Ramy: 私たち富士通にとって、ヘルスケアは重要な注力領域のひとつです。人々の健康的な生活をサポートし、社会をより良くするソリューションを提供することで、富士通のパーパス(※1)の実現を目指しています。個人的にも、父と義父が医師だったこともあり、わが家では医療が身近な存在でした。

  • ※1
    富士通グループのパーパス
    わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。

――プロジェクトに関わったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。また、これからどのような成果を上げていきたいと考えていますか?

Ramy: 私たちは、実際に現場の放射線医たちが患者の診断をより迅速かつ効率的に行うことを支援出来るAIを作りたいと考えており、そのためにも、商用ソリューションを市場に送り出したいと考えています。

このプロジェクトに関わったきっかけは、前任マネージャーが富士通研究所の有するIP(知的財産)を活用し、私が担当していたマッコーリー大学とのコラボレーションを通じて、オセアニア地域でソリューション化するという着想を得たことに始まりました。私たちは、ベテランの臨床医の方々と会話を重ねた末に、プロジェクトのアイデアを受け取りました。

放射線医の業務の質向上を目指すAI

――今回のプロジェクトで富士通の技術はどのような役割を果たしているのですか?

Ramy: 富士通はAIコンポーネントの開発を担当しました。私たちは、CT画像データを収集し、試行錯誤の研究プロセスを経て、グレースケールの画像から効率的かつ正確に脳動脈瘤を検出できるAIを構築するための最良な技術的アプローチを決定しました。

――脳動脈瘤の発見にAIが果たす重要な役割とは何ですか?

Ramy: 脳動脈瘤を発見することができるほどの技量を備えた医療従事者、つまりはCTスキャンを読み取ることができる熟練の放射線医は不足しています。また、人が関与するプロセスにはヒューマンエラーがつきものですが、ヘルスケアシステム全般に渡る専門知識を備えた放射線医の場合でも、動脈瘤を見逃す可能性は約20%とも言われています(※2)。こういった状況を背景として、AIを採用することで2つのメリットを提供できると考えています。一つ目は、放射線医がスキャンデータを読み取る際にAIを活用することで、読み取り速度を上げることができるため、効率性の向上に繋がります。二つ目として、AIは検出精度を高めることに役立ちます。これはAIが放射線医に置き換わるということではなく、放射線医をAIがサポートするのです。私たちは人間とAIを組み合わせることにより、脳動脈瘤の検出率を全体として高めることができるようになると期待しています。

唯一無二のAI

――このAIを活用した診断技術が従来のソリューションと異なる点はどこでしょうか?

Ramy: この分野は、これまでもいくつか研究が行われてきましたが、一筋縄ではいかない領域です。これまでのところ、ニーズを包括的に満たして幅広く採用されている商用化されたAIソリューションは存在しませんでした。

脳動脈瘤の問題に対して局所的なソリューションはいくつか存在します。脳動脈瘤を検出さえすれば、既存のソフトウエアを利用して、測定、評価することが可能です。また、脳動脈瘤の検出に役立てることができる血管の完全復元や3Dレンダリングを半自動的に行うソフトウエアもありました。しかしながら、こうした3D再現には固有誤差がつきものであり、臨床診断の際に全面的に信頼することはできません。

私たちのアプローチは、既存ソリューションとは異なり、放射線医がスキャンデータを見る前に、AIが注目すべき箇所を自動的に特定できるのです。

――今回のプロジェクトは、オーストラリア政府から200万ドルの研究助成金を交付されています。政府がこのプロジェクトに関心を示した意義はどのようなものですか?

Ramy: オーストラリア政府は、最終的には同国の経済に寄与するために、同国の産業界とコラボレーションを組んだ研究に資金を提供することを目指しています。その際の基準のひとつとして、同国の中小企業と協業することが求められており、今回のプロジェクトでは、マッコーリー大学の放射線クリニックであるMacquarie Medical Imagingと研究機関がその対象となりました。さらに、研究は商用化にフォーカスし、雇用をもたらすことが求められています。今回、政府から助成金を得られたことは、このAIソリューションの実現性、実用性が評価されたことだと信じています。

医学分野で実行可能なAI開発に立ちふさがった課題

――このプロジェクトを推進する中で、直面した課題はありましたか?

Ramy: 私たちは、AIを組み込んだソリューションを構築したことにより、新たな分野に踏み込みました。その中で、AIをトレーニングするために必要な膨大なデータの確保という課題に直面しました。例えば、自動車についてAIをトレーニングする必要がある場合は、何十万枚の自動車の画像を用意することは難しくないでしょう。しかしながら、高品質かつ説明を付した脳のスキャンデータは、そう簡単には用意できません。私たちがAIに投入できた、完全な説明を付した症例はわずか400例ほどに留まり、AIのトレーニングという意味では不十分なボリュームです。しかしながら、ヘルスケア分野で活用していくためには、正確なデータのみを与えていく必要があります。

次に、CTスキャンで脳動脈瘤を検出する複雑さは、技術的にも実現が困難であると言えます。CTスキャンから動脈瘤の形状を検出しますが、それは様々な濃淡のグレー色の背景から、同じくグレー色の患部を見つけ出すということであり、正常な血管と区別するのは極めて難しいことです。これは、熟練の放射線医であっても困難なことであり、十分なトレーニング用データを投入されていないAIにとって困難なことは言うまでもありません。

――そのような課題をどのようにして乗り越えたのでしょうか?

Ramy: パートナーであるGE Healthcare、マッコーリー大学、同大学の放射線クリニック(Macquarie Medical Imaging)とコンソーシアムを組みました。大量のインプットデータのプールを必要とすることなく、AIの正確性を大幅に向上させる新たなアイデアやソリューションを生み出すために、富士通のデザイン思考アプローチであるFujitsu HXD (Fujitsu Human Centric Experience Design)のワークショップを活用しました。日本のAIエンジニアと連携して、感応度を向上させるための一連のアプローチ(特許出願中)を生み出し、これにより測定精度を50%から90%超にまで高めることができました。

様々な疾患に応用を:AIを活用した診断技術の未来

――今回のプロジェクトでもっとも心が躍った局面はありますか?

Ramy: ひとつは、このプロジェクトの始めから終わりまでを見守れることです。商用ソリューションとして採用されてから実際に患者の役に立つまでを見ることは、胸が高まることでしょう。

私たちは、放射線科医の方々の日常業務を支援するソリューションを提供する可能性を秘めています。その後を見据え、私は、このアプローチを動脈瘤以外の血液関連の脳の疾患、さらには心臓や肺など脳以外の部位の疾患に応用できるのではないかと思いを馳せています。拡張されたAIを放射線医に提供するという最初のステップは、このプロジェクトの将来に向けた大きな基礎となるものです。

同じように心が躍った局面としては、GE Healthcareとパートナーシップを組むことにより、富士通が他のプロジェクトを手がけるためのモデルを作り上げたことです。私たちは、ヘルスケアを変革するという共通のパーパスをもって共同事業を展開しましたが、このパートナーシップは従来型のサプライヤーとプロバイダーの関係を超えるものでした。この編制が実際に機能しうることを証明できて、嬉しかったです。

――仕事や人生において、大切にしている哲学やモットーはありますか?

Ramy: 私にとっての最大の関心事は、常に様々な人々の頭脳を結集すること、そしてそこから生まれる可能性です。富士通はこのプロジェクトのためにAIを開発しましたが、その正確性を高めることができたのは、パートナーとの共創の中で、新たなアプローチを見出すことが出来たことにあります。私のモチベーションはまさにこの点にあります。ひとりの人間でもスマートに成果をあげることは可能かもしれませんが、複数の人々による共創には、画期的成果をなし得る可能性を秘めています。

今回のプロジェクトは典型的なプロジェクトではなく、多くの課題にも直面しましたが、共通のパーパスに向かって共に創造する「共創」というアプローチによって、成功を収めることができました。

Ramy Ibrahim

富士通Head of Industry Innovation

18年に渡る業界経験をもち、コンサルティングとIT分野で専門家として活躍するとともに、イノベーション領域でも指導的立場にある。最先端テクノロジーに高い関心を寄せ、テクノロジーを活用したコミュニティの問題解決に取り組み、なかでもヘルスケアとウェルビーイング領域に着目している。



※この記事はFujitsu Blogに掲載された「Augmenting human expertise with AI to detect brain aneurysms and save lives」の抄訳です。

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