SDGsのはじめかた サステナブルを自分ごとに。

目次
  1. インドの綿農家を支援する循環型プロジェクト
  2. 子どもたちを支援するために販売したはずのチャリティTシャツが、実は、自殺する農家を増やしていた事実に直面する
  3. 「あなたさえいなければ、支援されない人は生まれなかった」
  4. 私がやるべきは、子どもたちに選択肢を用意すること
  5. 未来を見据えたビジョンの共有がプロジェクト成功の鍵

現在、企業の社会的責任として、持続可能な社会の構築に向けた積極的な貢献が求められています。
今から10年ほど前、自ら販売するTシャツが農家の自殺に繋がっているかもしれないと気づき、それからは、サスティナビリティ・ファーストを軸に活動を進められてきた一般財団法人PEACE BY PEACE COTTON代表理事の葛西龍也さん。富士通理事・首席エバンジェリストの中山五輪男さんがお話を伺いました。(CEATEC 2021 Online)

インドの綿農家を支援する循環型プロジェクト

中山さん: 「PEACE BY PEACEコットンプロジェクト」はどのような活動をされているのでしょうか?

葛西さん: 2008年よりインドで栽培されたオーガニックコットン製の製品を開発・販売し、その売上金の一部を基金として積み立て、ノンオーガニックから有機栽培農家へ転換するサポートおよび、農家の子ども達の就学・復学・奨学支援を行っています。インドでは年間3万人の綿農家が農薬、化学肥料や遺伝子組み換えの種を高い金利で借金をして購入し、その返済苦で自殺するケースも恒常化していたのです。そのような貧困農家においては子どもにも児童労働をさせているケースが多く、学校にも通わせていないというのが実状でした。
そこで、農薬を使わないオーガニックコットンを生産し、それを使った製品を販売し、購入いただいた代金の一部を基金として積み立て、有機栽培がまだできていない農家への転換支援や子ども達の就学支援に使う「循環のしくみ」を作り、活動してきました(図1)。「PEACE BY PEACEコットンプロジェクト」発足後13年が経過した現在、インドでは約1万6千の農家、9万人以上がこのプロジェクトに参加してくれています。また、2,137人の子ども達が労働から解放され学校に通い、高等教育へ進んだ子どもは928人に達しました。

中山さん: まさにサステナブルな活動ですね。すごく大きな貢献をされているわけですね

図1 図1 PEACE BY PEACEコットンプロジェクト循環のしくみ

子どもたちを支援するために販売したはずのチャリティTシャツが、
実は、自殺する農家を増やしていた事実に直面する

中山さん: どのようなきっかけでこのプロジェクトをはじめられたのでしょうか?

一般財団法人PEACE BY PEACE COTTON 代表理事・葛西龍也さん

葛西さん: そもそもの起点は2001年。通販会社の一社員であった私はアメリカの同時多発テロ事件に衝撃を受け、反戦を訴えるチャリティTシャツを企画・販売しました。結果、アフガニスタンとニューヨークの被害を受けた子ども達にそれぞれ1,000万円ずつ寄付することができました。2008年にはそのTシャツの累計販売数は20万枚に到達したのです。
ところが、ある人から「君、20万枚もTシャツを売って何人の農家が死んだと思う?」と問われたんです。この時、安価な服づくりの背景に、農家の自殺問題があることを知りました。ちょうどファストファッションが浸透していこうという時期だったので、これからもっとひどい状況になるのではないか、という危機感を持ちました。その課題に気づき、この不均衡をなんとかしたい、自分が関わっている仕事で社会に何か繋がっていたいと考えたのがプロジェクト発足のきっかけでした。

「あなたさえいなければ、支援されない人は生まれなかった」

中山さん: プロジェクトを推進するにあたり、苦労されたことはありますか?

葛西さん: 仕事をしながらの活動でしたので大変でした。実際に仕組みを構築するまでに約3年かかり、出来上がった時は協力者とともに乾杯しました。しかし、その席でともに活動をしてくれていたパートナーの一人に「あなたさえ来なければ、支援されない人は生まれなかった」と言われたんです。その言葉に衝撃を受け反発もしましたが、今すぐ全員を支援することは不可能であり、支援される人とされない人という不公平は生まれてしまいます。それまでの自分はいいことをしていると思っていたのですが、そのように思っては駄目なんですね。その事実に気づき、サステナブルというのはきれいごとではないと痛感しました。それでも前進し少しずつでも支援する人を増やしていこうと決意したんです。

私がやるべきは、子どもたちに選択肢を用意すること

中山さん: 子ども達の就学支援についてはいかがでしたか?

葛西さん: 子ども達に初めて会った時に「What is your Dream?(あなたの夢は何ですか)」と聞いてみたんです。全員がキョトンとしていました。そう、彼らは農家しか知らないからです。他の選択肢を持っていないんです。その瞬間に、僕が行うべきことは、お金を渡すことではなく“選択肢を渡す”ことなのだと確信しました。数ある選択肢の中で選んだからには失敗するも成功するも自分の責任となります。選択肢があるからこそ主体性が生まれ、その主体性が未来を作ることに繋がります。プロジェクトの支援を受け高等教育に進んだ子がいるんですが、その後も勉強を続け、この度、州政府で農業を担当する役職に就きました。つまり、その国において今後の農業の方針を決めていける立場になった。お金を渡すだけではこういう好循環は続いていきません。次の世代の子どもたちにこそ選択肢を与え、意思決定ができるように支えていくことが重要なんだと。これは僕が子どもたちから教わった最も大きなことの一つであり、今も常に念頭にある考え方です。

未来を見据えたビジョンの共有がプロジェクト成功の鍵

中山さん: プロジェクトにとって大切なこととは何でしょうか?

富士通株式会社 理事 首席エバンジェリスト・中山五輪男さん

葛西さん: 多くの人に「自分ごと」として捉えていただくこと、それこそがプロジェクトにとって最も重要なことだと思います。企業や団体などにおいて、考え方や立場の異なる全メンバーが一丸となるのは簡単なことではありません。しかし、現在取り組んでいるのは未来のための仕事なのだというビジョンを企業や団体が明確に打ち出し、それを関係者と共有することで、一人ひとりがプロジェクトを「自分ごと」として捉えられるようになり得ると思います。

中山さん: 共通の目的・目標を持つことが重要なのですね。実はこれはすべての企業に言えることで、いま世界中の企業の皆さんが企業パーパスを掲げられています。企業パーパスとは、その企業が地球上に存在する意義を示すものです。私もその策定に携わったのですが、富士通も昨年から「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げ(図2)、このパーパスを起点とした「パーパスドリブン経営」を行っています。
また、富士通はデータに基づき判断する「データドリブン経営」を同時に進めています。人の勘や経験だけに頼らずに必要なデータを集めて分析し、得られた結果から判断・アクションを行うという経営です。データは私たちのビジネスモデルや働き方さえも変えることになると思っており、私たちの経験をお客様にお伝えしたいと進めているところです。

葛西さんは、富士通のパーパスやデータドリブン経営についてはどう思われますか?
図2 図2 富士通のパーパス(存在意義)

葛西さん: 私は今まで日本のIT企業には閉じたイメージを持っていましたので、パーパスを起点として企業活動を行うパーパスドリブン経営からは、非常にオープンなものを感じます。また富士通さんのデータドリブン経営には、僕らのような社会活動家も見習うべきとも思います。社会をより良くしていこうと活動している人の多くは僕も含め「情熱で動き、迷った時は良心に問いかける」という“パッションドリブン活動”で進めてきました。しかし、活動を持続していくためにはやはり仕組みを構築しなくてはなりません。そのために重要なのはやはりデータだと思います。僕も必要なデータを持たず非常に苦労をした経験がありますので、ぜひ参考にしたいですね。
今回、富士通さんが自分たちと同じ目的を持つ企業だと知り驚きましたし、同時に奮い立つような気持ちになりました。

中山さん: 今よりも少しでも豊かでより良い社会とするために、まずは目の前の社会課題を解決する行動に移していく、これが大事なことではないかと思います。
富士通はこれからも持続可能な社会の実現に向けて、共通のビジョンを持たれるお客様とともに頑張っていきたいと思います。本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

Movie

本対談の様子は、動画でご確認いただけます。

SDGsのはじめかた サステナブルを「自分ごと」に。フルバージョン(21:09)
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