「データの信頼性を高め、企業と社会を持続可能に」ー不確かな時代を切り拓くアジャイルなデータドリブン経営

急速に変化する世界で、企業が持続的な成長を遂げるためには、データとテクノロジーを活用したアジャイル型経営で、変化への対応力を強化していくことが重要です。
富士通は、デジタルの力で変革をアジャイルに推進する「Data Driven Management」やニューノーマル社会における新たな働き方改革を実現する「Work Life Shift」の取り組みで自らの変革を継続するとともに、持続可能な社会に向けて、業種、国を越えて、企業の変革と人々の働き方・暮らしを支えています。
今回は当社グループのエンジニアの最高峰「Global Fujitsu Distinguished Engineer」であり、データサイエンティストとしてデータドリブン経営の実現をリードする、DXプラットフォーム事業本部の福重貴浩さんに、データ活用により企業はどのように社会に新しい価値をもたらすことができるのか聞きました。

目次
  1. データを基軸に持続可能な社会を実現する
  2. お客様の課題の本質を捉えるデータサイエンティスト
  3. テクノロジーでデータドリブン経営を後押しする
  4. データ活用による幸せの循環を生み出したい

データを基軸に持続可能な社会を実現する

――最初に、福重さんが所属するDXプラットフォーム事業本部のミッションを教えてください。

福重さん: 「Intelligence x Technologyで世界を変える」をミッションステートメントとして掲げています。つまり、Intelligence×Technologyでデータの力を引出し、世界を変えるイノベーションを産み、持続的な繁栄への貢献することを示しています。

2021年、富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げました。DXプラットフォーム事業本部では、データの観点から持続可能な社会の実現と価値創造につながるソリューションを開発しています。

――データの力で経済・社会の持続的な繁栄に貢献するとは具体的にどのようなことでしょうか?

福重さん: 企業活動において事業の成長や利益の創出は当然重要ですが、それに加えて最近では、ESG経営などサステナブルな社会への貢献が求められています。そのため、経営者は「利益を上げ、顧客満足度も考え、さらにカーボンニュートラルなど、サステナブルな社会への貢献も念頭に置く」といった高度な意思決定をしなくてはいけません。
複雑かつ不確かな時代を見据えながら、経営を最適化していくとなると、どんなに優秀な経営者であっても、自分の経験だけで最適な意思決定を導き出すことは極めて難しいでしょう。そこで重要なのはデータの有効活用です。データを繋げてAIや機械学習の力を借りながら、意思決定をアジャイルに進めていくこと。我々はその根幹となるデータの信頼性を高めることで、企業の経営変革に貢献できると考えています。

――データの信頼性を高めることで、お客様のどのような課題を解決できるのでしょうか?

福重さん: 「最適な意思決定を導き出すための情報の不足」という課題を解決できると思っています。具体的には、企業に存在するデータの精査や統合を行っています。例えば、社内に「出元や素性がよく分からないデータ」があるとします。そうしたデータは、さまざまな部署や社員を経由したがゆえに、誰がいつ何をもとに作成したのか分からなくなりがちです。そこで我々がしていることの一つは、データをトレースして素性を明らかにする、ということ。そしてもう一つは、誤差やエラーが含まれているデータの整理です。
不確実性が残るデータは、意思決定にミスを生じさせてしまいかねません。そこで我々は、不確実なデータを信頼できるデータに整えるソリューションを提供しています。「Data Driven Management」もそのひとつで、データに価値を与え、新たな体験を生み出し、さらにデータを増やし、そのデータを正しくつなぐというサイクルを回すソリューションです。企業に散在するデータを統合することで、組織を越えたプロセスの変革や新たな仕組みや価値の創造を後押しできます。

例えば製造業のお客様であれば、仮に商品をリリースしたあとに不具合が判明した場合、不具合を起こした商品に関連するデータの連携が早くなり、解決までのスピードを早められます。他にも、在庫の最適化や需要予測なども可能になったり、工場の異常検知も迅速化できたりするはずです。

データを最適な形で経営に活かすことができれば、品質の向上やコストの削減の実現、ひいては製品の価格を下げられるなど、生活者のメリットにもなると考えています。

お客様の課題の本質を捉えるデータサイエンティスト

――データサイエンティストの役割について教えてください。

福重さん: DXプラットフォーム事業本部には、私のようなデータサイエンティストの他に、データベースの統合や再建を行うデータエンジニア、プロジェクトのマネジメントやコンサルティングを担当するビジネスプロデューサーなど総勢約300名のメンバーがいます。データエンジニアやビジネス職のメンバーとともに、お客様の課題の定義から、ソリューションに落とし込んでいくところまで、三位一体で取り組んでいます。
この中で私たちデータサイエンティストは、データを知識に変える―つまり統計学や機械学習、AIを駆使しながら、データをお客様の課題を解決するために役立つような形で提供するという役割を担っています。

企業のデータは、いろいろな部署にまたがっていたり、部署ごとにデータベースを持っていたり、連携できていなかったりします。お客様によっては、データベースに何がどんな基準で入っているのか分からなかったり、10年以上前に用意したデータベースにどうやってアクセスすれば良いか分からなかったりと、データの掘り起こしが難しいこともあります。こうした企業に眠るデータ同士の関係を紐解いて、それを繋げ、データに意味を持たせるのがデータサイエンティストです。

そのためには、我々がお客様の事業領域を深く理解しなければいけません。専門用語はもとより業界を取り巻く環境などを理解し、お客様の課題の本質を掴み、一歩先を行く提案をすることがデータサイエンティストには求められます。

――では、具体的なプロジェクトを教えていただけますか。

福重さん: サーバーなど、ハードウェアの保守部品管理のデータ駆動化について社内実践を進めています。当社のサーバーにトラブルがあった場合、お客様から障害のご連絡を受けてから特定の時間内に、全国にあるパーツセンターから迅速に保守部品をお届けする必要があります。

プロジェクトの開始前は、各パーツセンターが保持している部品数や発注数など保守管理に関するデータと、契約などの売り上げに関するデータが統合されておらず、例えば大阪のお客様からお問い合わせがあったにも関わらず部品が東京にしかなく、長距離配送が必要でコストも高くなる・・・といったことが頻繁に発生していました。
お客様への迅速なサポートはもちろん、在庫情報の見える化や倉庫管理の合理化のためにも、データをつなげることが必要です。そこで、我々データサイエンティストとデータエンジニアで、サイロ化したデータの統合を進めました。

具体的には、売上情報と保守管理情報を統合し、倉庫単位の売り上げ貢献度を可視化しました。データがつながったことにより、課題だった長距離配送の削減やパーツセンターの最適運営につながりました。コスト削減と経営計画を立てられるようになったことは、大きな変革だったと思います。
他にも、お客様向けには当社のPLM/スマートファクトリーソリューションCOLMINAで収集・蓄積・可視化したデータを分析することで、製造現場のデータに関する課題を型化し、お客様へ更なる付加価値を素早く提供するサービスの検討を進めています。

テクノロジーでデータドリブン経営を後押しする

――デジタルの力で組織や社会を変革するにあたり、富士通ならではの強みは、どういったところにあるでしょうか。

福重さん: お客様の課題を整理するだけでなく、テクノロジーによりその解決手段までを提供できることだと思います。富士通は研究部門を有し、AIや機械学習において世界トップレベルの研究者が揃っているので、お客様の課題に即した技術の開発を行えるのが強みだと思います。
また、我々データサイエンティストは、モデリングといってデータを数学的な式に置き換えてお客様の課題解決に合うような形で提供するのですが、テクノロジーにより自動化できる部分はできるだけ自動化し、もっと上流の部分に時間を使っていきたいんですね。
こういった私たちの業務の課題に対しても、独自のテクノロジーにより作業時間を短縮できるので、お客様の課題解決のための迅速なソリューション提供につながっていると考えます。

――データ活用が推進されることで、社会はどのように変わると思いますか?

福重さん: 経済社会におけるデータの役割は、ものすごく大きいと思います。金融、電力、水道などのインフラ領域においても、データ活用の幅は広がり続けています。データをもとに上手くコントロールできるようになれば、環境の負荷を減らせるはずです。その積み重ねが生活者の暮らしやすさや便利さにつながり、日々の暮らしの中で「不便だな、面倒くさいな」と感じることを減らせると思います。企業がデータドリブンでDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、それを社会課題の解決に結び付けられれば、住む地域や情報による格差の是正にもつながるはずです。

データ活用による幸せの循環を生み出したい

――福重さんは、2021年2月に富士通にジョインされ、データサイエンティストとしてメンバーの育成にも携わっていらっしゃいます。なぜ富士通を選ばれたのでしょうか?

福重さん: 私は大学卒業後、自動車や飛行機の基礎研究、発電所の設計などに従事してきました。さまざまなシミュレーションのデジタル化が進むにつれ、データサイエンスの要素が大きくなりました。収集した膨大なデータをきちんと処理して意味あるデータにする経験を通して、データサイエンスの知識やスキルを身に付けました。
すると、もっといろいろなデータに触れてみたいという好奇心が湧いてくるように。あらゆる業界のお客様のデータを扱う富士通なら、データをもとに多様なソリューションを開発できるのではないか。また、富士通はデータを取り扱う会社でもあるので、データを上手く活用することで、お客様の課題解決だけではなく、生活者の方向けに価値を提供する新しいビジネスも創れるのではないか。そう思って入社を決意しました。

――例えば、どのようなビジネスが考えられるでしょうか?

福重さん: 富士通グループには、エアコンを製造している富士通ゼネラルという会社があります。最近は AI搭載のモデルもあり、エアコンからデータを集めることもできます。例えば電力消費のピークを抑えるために、そのデータを活用できないだろうかと発想を巡らせています。不快感を与えない程度にエアコンを自動調整できれば、電力会社にとってもプラスですし、いずれは生活者もそのメリットを享受できるはずです。また、富士通のシステムは、トラックやバスの運行管理を担っているので、そのデータを活用して輸送経路の最適化ができないだろうか、といったことも考えています。

――データサイエンティストの仕事は数字を分析するイメージが強いですが、クリエイティブな仕事なのですね。

福重さん: そうですね。私の考えでは、データサイエンティストはクリエイティブへの欲求や好奇心が強い人こそ向いていると思います。そしてもうひとつ、富士通のデータサイエンティストには、複数の肩書きを持てる人になってほしいです。例えば、私であれば発電所、自動車、飛行機のエンジニアリングに詳しい人物、という名札を付けられるかなと思います。各インダストリに対する専門性をあわせもち、コンサルや経営層とも会話ができるレベルのデータサイエンティストとしてキャリアを形成できれば、仕事の幅も機会も増えるはずです。私自身、そうしたデータサイエンティストを育成したいと思っています。

――最後に福重さんのパーパスを教えてください。

福重さん: 突き詰めると「多くの人に幸せになってもらうこと」です。企業で働く人や技術者は仕事を効率化したり楽しさを感じられたり、また製品を使うユーザーは暮らしやすさを感じられたりと、データを活用しながら幸せの循環が生まれる世の中を支える仕事をしたいですね。きっとそれが社会の持続可能性にもつながるはず。その想いは富士通のパーパスにも通じているので、いまこの会社で働けることを誇りに感じています。

福重貴浩(ふくしげ・たかひろ)

Global Fujitsu Distinguished Engineer( Certified Technology Field : Data)
重工メーカ、自動車メーカ等で、基礎研究部門からビジネス部門のデータアナリティクス部等に所属した経歴を持つ。専門は、データサイエンス、コンピュータサイエンス。これらの領域でアルゴリズムレベルの基礎研究からアルゴリズムを製品開発やサービス開発等へ適用した広い経験を有する。近年では、データサイエンスを活用したData Driven Managementの業務に従事。博士(工学)。

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