チャットボットはなぜ顧客のストレスを軽減できるのか?

2018.11.27 ライター:狐塚 淳

会話プログラムの長い歴史

現在、AIを利用したサービスで最も普及しているのはチャットボットでしょう。コールセンターなどの問い合わせ業務やイベントの予約受付、物販サポートなどを効率化するために導入が進んでいます。

チャットボットとは人間とコンピュータが会話するためのプログラムですが、会話プログラム自体は長い歴史を持っています。

コンピュータ原理の開発者の一人であるアラン・チューリングは、1950年にコンピュータが知的に会話できるかどうかを判定するチューリングテストを考案しました。1960年代からはMITのジョセフ・ワイゼンバウムが作成した自然言語処理プログラムのELIZAなど多数の会話プログラムが登場し、日本でも1980年代に人工知能ブームが起こりました。どうやら、人間はコンピュータとディスプレイ越しに会話したいという欲求を昔から持っていたようです。

しかし、当時の会話プログラムは、入力された単語や文節に反応して、登録されている文を返すというものだったため、人間同士のように会話によって問題解決を図ることはできませんでした。

ビジネス導入が進むチャットボット

しかし、第3次AIブームの到来とともに、会話プログラム=チャットボットは脚光を浴びることになります。AI研究をリードする企業は音声認識や会話プログラムに力を注ぎ、2015年にはマイクロソフトは女子高生AI「りんな」をLINEとtwitterに登場させます。りんなは現在最も進んだチャットボットのひとつです。さらに、2016年にはマイクロソフト、Facebook、Googleなどが相次いでチャットボットを簡単に制作できるツールや環境(APIの公開)を発表しました。しかし、それらはまだまだ企業にとって実用的なものではありませんでした。ツールなどで作成できるチャットボットは、企業のビジネス用に調整されたものではなかったからです。

ところが、同じタイミングで多くのベンチャーやIT企業のチャットボットビジネスへの参入が始まったのです。インテグレーションまで行うベンダーもあり、ユーザー企業はチャットボットを「作る」のではなく、自社のビジネスに「使う」ことが可能になってきました。ビジネス向けのカスタマイズを考えるとディープラーニングに限らず、知識ベースによる受け答えも精度向上に役立つため、組み合わせているベンダーも多いです。すでに参入企業は国内でもAI専業と一般的ITベンダー含め30社を超え、チャットボット導入を考える企業からは、サービスを選ぶのが大変という声も上がっています。

スマートフォンのSiriやOK!Google、Pepperなどの人型ロボット、スマートスピーカーのAlexaなどには、あまり会話を理解してもらえないと感じる人もいるかも知れません。しかし、チャットボットは自然言語認識の手前に音声認識が必要ないため、それらに比べると理解の精度ははるかに高く実用的なのです。

なぜ人はチャットボットでストレスを軽減できるのか?

企業にとってチャットボットを導入する最大の魅力は作業の効率化です。サポートセンター業務で言えば、オペレーターが一から問い合わせに対応していたのと比べると、チャットボットのみで解決する問い合わせもありますし、そうでなくてもある程度問題を明確化してからオペレーターに受け渡すことで負担を軽減できます。そして次の段階として、オペレーターが手入力していたサポート記録を自動的に蓄積し、マーケティングや製品開発に活かすことが可能になります。さらに、そのデータを元にチャットボットを学習させ、応答精度を上げることもできるのです。こうした状況を受けて、三菱UFJ銀行やJR東日本、ユニクロなど、多様な業種の企業がこの2年でチャットボットを導入しました。どんな業界でも、会話や情報伝達の必要な業務には、チャットボット利用の可能性があります。

ただ、これはあくまでも企業目線でのメリットです。「電話問い合わせが40%削減できた」などと、業務効率化の数字のみが喧伝されがちですが、チャットボット導入の真の効果は、ユーザーのストレスを軽減し、顧客満足度を向上させる点にあります。なぜ、ユーザーはサポート電話をかけるのではなく、チャットボットに問い合わせるようになるのでしょうか?

話し中ばかりでつながりにくいサポート電話は論外ですが、多くの人が経験のある音声ガイダンスというのもユーザーにとってはストレスのたまるシステムです。録音された音声を延々と聞かされ、繰り返し選択肢の数字と#ボタンを押すように言われます。目的のサービスにたどり着くまでが本当に長く感じられます。

スマートフォンの普及とともに、日本人の通話時間は減少傾向にあります。
総務省の調査によると、固定電話だけでなく、モバイル端末からの1日当たりの通話数、通話時間は年々減少しています。電話で話すコミュニケーションから、メールやチャット、SNSのコミュニケーションへと比重が移ってきています。かつてPCが普及しだした時代のように、キーボードアレルギーを持っている人はもういません。むしろ、突然始まる電話での会話に苦手意識を持っている人の方が多いのではないでしょうか。

<参考>通信量からみた我が国の音声通信利用状況(平成28年度)

出典:総務省ホームページ
(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban03_02000460.html)

チャットボットとの会話で目的のQ&Aなどに導いてもらえる方がSNS慣れしている人ははるかにストレスを感じないし、時間の節約にもなります。

しかも、その会話の情報は蓄積、分析されサービスの向上に役立てられ、ユーザーの利便性につながり、会話以外の付加価値も作り出せるのです。J1の川崎フロンターレはAIチャットボット「人工知能ふろん太くん」がチケット購入や会員特典などの問い合わせに自動応答するシステムを作り、蓄積データの分析によって戦略立案やサービス改善などに役立てています。「人工知能ふろん太くん」はLINEでの応答も自動化しています。ネットショッピングやSNSの経験を積んでいる人々には、音声ガイダンスよりはるかに「優しい」システムです。

コミュニケーションチャネルをAIが進歩させる

もちろんチャットボットが万能というわけではありません。多くのシステムでは、チャットボットのみで解決できないときには、控えている人間のオペレーターに引き継ぐ仕組みがあります。

また、商品の性質によっては、電話で話したい顧客もいるでしょう。その場合は、音声オペレーションを継続し、その仕組みの中で顧客満足度の改善を図ればいいのです。

たとえば、サポートセンターの運用管理にAIが利用されているシステムもあります。何人ものオペレーターの電話対応をマネージャーが画面でチェックして、声の調子や用語の選択などで顧客のストレスが大きくなった場合にはアラートが表示されます。その際にはマネージャーがアドバイスを送ったり、電話を引き継いだりして、ストレス軽減を図ります。

重要なのは顧客満足度を向上させるために、顧客とのインターフェイスを再構築することです。企業目線で考えるのではなく、顧客の気持ちに寄り添えるサポートシステムの構築をどう実現していくか、そのためにAIはどのように活用すればいいのか? チャットボットは、顧客満足実現のためにコミュニケーションチャネルを改善する有力なツールであると同時に、顧客満足の重要性にもう一度気づかせてくれる存在でもあるのです。

本記事のライター
狐塚 淳(こづか じゅん)
IT系フリーライター。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。
AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど幅広い記事・コンテンツ作成に携わっている。
ネットメディア「スマートワーク総研」編集長。

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