作家・ジャーナリスト 佐々木 俊尚氏と描く

デジタルビジネスの未来地図 Vol.2 働き方改革

佐々木 俊尚氏、松本 国一氏

(写真左)作家・ジャーナリスト 佐々木 俊尚氏、(写真右)富士通株式会社 エバンジェリスト 松本 国一氏

必要なのは経営者のマインドチェンジ“働かせ改革”を脱却し効果を上げる

少子高齢化によって人手不足が進む中、日本企業の重要ミッションになっている「働き方改革」。しかし、取り組みは進めているものの、なかなか成果につなげられないケースは多いようだ。その背景には、企業経営者が、働き方改革の本質を捉えきれていないことが関係している。今必要な考え方や、具体的な取り組みとはどのようなものなのか。作家・ジャーナリストの佐々木 俊尚氏と、富士通のエバンジェリスト 松本 国一氏が語り合った。

重要なのは、働き方の自己決定権を社員に与えること

松本日本では働き方改革が重要課題になっていますが、思うような成果が得られていないケースも少なくありません。その理由について、佐々木さんはどのように見ていますか。

佐々木 俊尚氏 作家・ジャーナリスト
佐々木 俊尚氏
毎日新聞社、アスキーを経て、2003年にフリージャーナリストに。著書に『「当事者」の時代』(光文社新書)など。総務省の情報通信白書編集委員なども務めている

佐々木国から罰則を受けないよう、時間管理を厳密化したいという企業が多いようですが、これでは、そもそもの発想が経営者目線です。これが原因の1つではないでしょうか。働き方改革が本来目指すべきは、「働く人が幸せになる」ことのはず。それには働く側の目線を取り入れることが必要だと思います。

松本つまり、現在は働き方改革ではなく、“働かせ方改革”になっていると。「働きがい改革」が必要ですね。

佐々木そう思います。例えば、スタートアップの社員と話していると、長時間働いていても、自社がブラック企業だとは感じていない人が多い。その理由は、彼/彼女らが「労働時間を自分でコントロールしている」という感覚を持っているからだと思います。自分が幸せに感じる働き方を自ら選択できれば、働きがいも得られるはず。日本企業は、この社員の自己決定権という点を、もっと議論すべきだと感じます。

松本同感です。どんどん働いてお金を稼いだり、世の中に貢献したりしたい人は、自分の幸せのためにそうした働き方を選べばいい。会社は、それが可能なルールづくりをしたり、社員の成果に対してきちんと報酬を支払うといった仕組みを用意したりすることが肝心です。

「ワーク」と「ライフ」は分けて考えるべきではない

松本 国一氏 富士通株式会社
エバンジェリスト
松本 国一氏

松本若い人と話していると、 「仕事」と「生活」を分けたいと考える人は一定数いるようです。「仕事=つらいもの」であり、自分の生活は、仕事と別のところにあるという考え方ですね。こうした発想から生まれたのが、仕事と生活の均衡を図ろうという「ワークライフバランス」という言葉であり、働き方改革に取り組む企業の中にも、この言葉をテーマに掲げるところは多くあります。

しかし私は、この言葉には違和感を持っています。なぜなら人は働かずに、幸せに暮らすことはできないから。すなわち、ワークはライフの一部であり、切り離せるものではないはずだからです。

佐々木分かります。私は物書きですが、自分のアンテナに引っかかるテーマの依頼をいただいた場合、ギャランティーがゼロでも受けることがあります。

とはいえこれが仕事ではないのかと問われると、そうともいえません。金銭的な報酬はなくても、そこで得た体験や人脈が次の仕事につながることがあるからです。また私は趣味で山登りをしますが、それが仕事で書くコラムのネタになることもある。結局のところ、自分で決めている限りはワークもライフもなく、「どういう生き方を選ぶか」にすぎないのではと思います。

松本おっしゃる通りですね。ただ、かわいそうなのは、ワークとライフを分けたがる若手社員も、最初からそうだったわけではないケースが多いのです。いろいろな仕事にチャレンジしようと、期待に胸を膨らませて入社したものの、先輩や上司の仕事との向き合い方を見ているうち、自然に「ワークとライフは別物」という概念やスタイルを身に付けてしまっている。働き方改革を進める上では、上に立つ者がそうした状況をしっかり認識し、自らが率先して変わろうとすることが不可欠だと感じます。

富士通グループでの社内実践で得た「見える化」の成果を顧客に提供

佐々木では、富士通自身は、働き方改革に対してどのように取り組んでいるのですか。

松本まず、仕事をする場所や時間を社員が自らの意思で決定し、仕事の進め方をコントロールできるように、在宅勤務やリモートワークの制度を導入しています。同時に、そのためのインフラとして、富士通全社が使うグローバル標準のコミュニケーション基盤の整備もしました。

さらに、Zinrai for 365 DashboardによるAIを活用した各人の働き方の「見える化」にも取り組み始めています。具体的には、スケジューラーの予定データや、PCの稼働時間などのログを収集しAIで分析することで、どんな仕事にどれだけの時間を費やしているのかをまとめてダッシュボードに表示するのです。当社のとある部門では、1カ月の業務実績のうち、部門の主軸としている業務である「コア業務」が5割程度で、それ以外は「非コア業務」だったことが分かりました。

佐々木意外にコア業務が少なかったのですね。

松本そうなのです。そこで、どうすればこの割合を逆転できるか、情報をさらに調べていくと、例えば「社内会議のための資料作成」「情報共有のための会議」にかける時間が多いことが見えてきました。そうしたら、あとはこれを改善すればよい。現状の見える化によって課題の設定と適切な施策につなげることができます。そのような取り組みを重ねた結果、2カ月間でコア業務に43分の時間を振り向けることができました。

佐々木働き方の実態がデジタルデータで見える化されれば、それをマネージする上司や経営層の意識変革を促す効果も期待できそうです。

松本まさにその通りです。データは客観的事実なので、強力な説得力を持っています。もちろん、人の意識は一朝一夕に変えられるものではありませんが、継続的に取り組みを実施していくことが大事だと考えています。

佐々木 俊尚氏、松本 国一氏

何もかもデータ化される時代こそ、見えない価値を大切にしたい

松本また当社は、FUJITSU Digital Transformation Center(DTC)でのワークショップなどを通じて、お客様の働き方改革をサポートする取り組みも行っています。

例えば、働き方に関するアイデアやヒントをイラスト化したカードを数百種類用意し、それを基に議論を進めます。ちなみに、ここで選ばれることが多いのが「ガマンメーター」というカードです。どんなカードだと思いますか。

佐々木ガマンして働きすぎる人を見つけ出すカードですか。

松本それも正解です。実は、これをどう捉えるかで、その人と仕事の向き合い方が分かります。佐々木さんがおっしゃったようなイメージを持つ人もいれば、上司のガマン具合を可視化するカードだと考える人もいる。つまり、上司に話しかけたり、資料の確認を依頼したりする際に、上司のガマン度が高いタイミングを避ければ、必要のない小言をもらわずに済み、結果的に業務効率化につなげられる、というリアルな思いがその裏にあります。

このように、ありがちな問題をキーワードにして議論を立ち上げ、業務上の課題や目指すべき姿を深掘りしたり、共有したりすることで、その企業が目指すべき働き方改革の方向性を適正に定め、非効率や無駄の削減や、効果的な取り組みに着手することができるのです。

佐々木面白いですね。実際、これから高齢化が進んでいけば、働き手は一層足りなくなっていきます。業務上の非効率やムダはできるだけ取り除き、スムーズに働ける環境をつくることは非常に重要です。

また同時に、非効率やムダを取り除いた結果、なかなか数値化できない、例えば社員個々人の気持ちのゆとりや、会社に対する信頼感などを育むことができれば、素晴らしいと思いますね。何もかもがデータ化・数値化し「見える化」される時代ですが、見えない価値も見極め、大切にするスタンスは大事にしたいものです。

松本本当にそう思います。

佐々木さらに、そもそも仕事とは、産業革命時代には「工場での単純労働」を指していましたが、それは今ではロボットが行ってくれます。RPAのようなものが登場し、ホワイトカラーの仕事でも似た状況が起こりつつある現在、人間の仕事は、よりクリエイティブなものになっていかざるを得ません。先ほどのAIによる見える化基盤や、DTCでのワークショップは、企業がそうした気付きを得る上でも大きな助けになりそうです。

松本ありがとうございます。おっしゃる通り、人は人にしかできないクリエイティブな仕事へとシフトしながら、より人間らしく生きられる社会を目指す。そのためのマインドチェンジを多くの企業の経営層や社員が行えば、日本全体の生産性向上、そして市場競争力強化につながると考えています。

  • 注)
    このコンテンツは2019年3月~5月に日経ビジネスオンラインに掲載したものです。
  • 注)
    本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載時のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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