テレワークに必要なICT導入のポイントとは
富士通の実践例から学ぶ課題と解決策

少子高齢化社会を迎えた日本では、労働人口を確保することが年々難しくなりつつあります。そのような中、ICTを活用して自宅やサテライトオフィスでの勤務を可能とするテレワークが注目されています。

“超売り手市場”において若い世代は多くの選択肢から好条件で入社できる企業を検討しますが、優秀な若者を採用するためにはテレワークの導入など働きやすい職場も重要視されています。また、介護を強いられる世代の離職を防止する意味でもテレワークの導入は有効です。

2019年5月に開催された「富士通フォーラム2019」の講演「『働き方改革』におけるICT導入のポイントと社内実践の成果」では、富士通 IT戦略本部 グループ共通サービス統括部 統括部長代理の中村元晃が、自社の導入事例をもとに、テレワーク導入のためのポイントやそれがもたらす成果、そして見えてきた課題について紹介しました。

制約を解決しながら段階的にテレワークを導入

富士通株式会社
IT戦略本部 グループ共通サービス統括部
統括部長代理 中村元晃

富士通はテレワークを制度として体系化するために、2015年から人事と総務、IT関連部署がワーキンググループを作成して課題を抽出するなどの取り組みをスタート、柔軟な働き方を実現することを目指しました。様々なトライアルや修正を加えながら2年後の2017年4月より全社員を対象に、自宅やサテライトオフィスなどの様々な場所で業務を可能とするテレワーク勤務制度を正式導入しています。

テレワークと聞くと、導入には様々なICTツールを駆使する必要がありハードルが高いと思うかもしれません。しかし、いきなり本格的な導入は難しくとも、前段階として比較的実現しやすいことも多くあります。たとえば、外出時の移動中や、お客様先/作業現場への訪問時など、テレワーク以外でもオフィスの外で仕事をしたいシーンはいろいろと考えられます。こうした際に簡単に仕事ができる環境を提供することで、社員の生産性、隙間時間の有効活用、残業防止につながっていきます。

そして、実際にこれらのシーンでの仕事を可能とするにはいくつかの制約を考慮することが必要となりました。「重いPCはできる限り持ち歩きたくない」「タブレットやスマートフォンで業務がしたい」「セキュリティを万全にしたい」の3点です。

富士通でも以前より導入していますが、簡単に取り組むことができ社員からの要望が特に多いのは、移動中や外出先でメールの送受信を可能にしてほしい、また、幹部社員が外出先でも各種の承認処理を行えるようにしてほしいといったことです。ちょっとした隙間時間にこれらのことを処理するには、ノートPCではなくスマートフォンを利用するほうが手軽ですが、一方で全社員にスマートフォンを支給するには大きなコストがかかります。

 

そこで、社員が所有する私物のスマートフォンの活用を進めました。メール利用については、会社のビジネスアカウントに届いたメールのプライベートアカウントへの添付や転送を不可にするなど、会社と個人の領域をしっかり分けて運用できる仕組みを採用しました。また、承認作業に関しては、稟議や勤怠、発注などそれぞれのシステム用に個別のアプリケーションを用意するのではなく、1つのアプリケーションですべての承認処理を実施できるように開発を行い、モバイルでの利便性にも配慮したことがポイントです。

私物のスマートフォンから、稟議や勤怠、発注など、1つのアプリケーションで承認を可能に

また、お客様先や現場への訪問時にいただいた質問やご要望、現場のリアルタイムな状況などをすぐに関係者に共有して解決したい、という要望が挙がりました。そこで、電子ペーパーとクラウド型ファイル管理サービス「Box」を組み合わせて活用する仕組みを構築しました。

 

例えば、お客様からの細かい要望などを電子ペーパーにメモ、スマートフォンからBoxにアップロード。登録メンバーにメールが届き、その中に記載されているURLをクリックするとそのメモがすぐに参照できるようにしました。その場で関係者と確認、相談し、一度の訪問ですぐに解決できるため、現場からは業務の効率化につながったという声が上がっています。また、Boxには画像や動画など様々なファイルをアップロードして簡単に閲覧できるので、特に作業現場などで的確な情報をメンバーに伝えることが可能になりました。

テレワークを有効活用するための3つの要素

このような社内へのテレワーク活用基盤を導入した経験を踏まえて、中村はテレワークを効率的に運用するために欠かせない要素として「Web会議」「ペーパーレス」「仮想デスクトップ基盤」の3つを挙げ、これらを実現するための富士通の取り組みについても解説しました。

例えば、自宅にいるからといって会議に参加できないようでは、テレワークの活用は拡がっていきません。そこで、まずはWeb会議サービスを導入し、どこからでも会議に参加できるようにしました。Web会議には音声通話やチャット、資料共有などができる「Skype for Business」を採用し、現在の利用率は全社員の97%に達しています。さらに、このシステムでは、各自の在席/離席状況、取り込み中/会議中など現在のステータスが確認できるため、相手の状況によってすぐに電話で問い合わせをしたりチャットで会話したりといった、シーンに応じた最適なコミュニケーション方法を選択することも可能になりました。

また、テレワークのために多くの紙資料を持って帰る必要があると、やはり普及は進みません。ペーパーレス化の推進には前述のBoxを活用し、テレワーク時に共有が必要な資料はすべてBoxに格納するようにしました。Boxに格納できるデータは100種類以上のファイル形式に対応しており、場所やデバイスを選ばずにPCやスマートフォンからもすぐにプレビューで資料の内容を参照し、編集やレビューができるため、ペーパーレス化の推進にとても効果的です。

そして、本格的なテレワークを実現する仕組みとして欠かせないのが、仮想デスクトップ基盤です。これは、社給のシンクライアントや自宅の私物PCなどの画面をモニター替わりとし、どこからでも会社のデスクトップ画面にアクセスできる技術です。実際の処理はすべてサーバ側で行われ、画面イメージのみを手元の端末に転送しているため、ローカル側に業務データをコピーしたり、不要なデータをアップロードしたりすることはできません。またセキュリティパッチもデータセンター側で一括して適用することができるなど、高度なセキュリティ対策も実現しています。

さらに、仮想デスクトップは、テレワーク時にも非常に効果を発揮します。「PCが変わると、お気に入りがない、オフィスのデスクトップにファイルを置いてきてしまってすぐに仕事が始められないといった場合がありますが、仮想デスクトップを使えばどこにいても常に同じ環境で作業を再開できます。セキュリティ面や作業効率の点からも、仮想デスクトップはテレワークに必須であると考えています」と中村は話します。

仮想デスクトップ基盤を利用すれば、セキュリティ対策に加え、
常に同じ環境で作業ができるため、どこにいてもすぐに仕事を始めることができる

技術的な部分だけではなく真の課題はほかにあった

現在、富士通でテレワークを導入している職場は70%。利用者数は順調に増えており、一見テレワーク導入はスムーズに進んだように思えます。ただし、中村は「苦労話、失敗談もたくさんあります」と明かしました。

 

最初に、メールボックスの移行に時間がかかったことを挙げました。社内のメールシステムをオンプレミス型からマイクロソフトのクラウドサービスである「Office 365」に変更するため、グループ会社を含め約10万人分のメールデータをOffice 365に移行する必要があり、この作業期間を当初は1年と見積もっていました。ところが、実際にかかった期間は1年半。ネットワークやサーバの性能といった技術的な問題ではなく、「真の課題は移行期間ならではの現場の混乱にありました」と中村は語りました。

 

最終的にはすべてデータをOffice 365側に移行しますが、10万人分のメールデータを一度には移行できないため、分割して少しずつ移していく必要があります。そのため、移行期間中はオンプレミスとOffice 365のいずれかに登録されている状態が混在してしまい、例えば、秘書が役員のスケジュールを閲覧出来ずに調整ができないといった問題が発生しました。また、従来オンプレミス型のシステムで使用していたメール誤送信防止用のプラグインツールをOffice 365で使用すると、メールの送信に時間がかかってしまうなどの使い勝手の面でも利用者から不満の声も上がりました。他にもソフトウェアベンダーも想定できていなかったシステムトラブルへの対応、ルールや運用に関するリスク・コンプライアンス部門や人事労務部門などとの社内調整に予想以上に時間がかかったことなどが、移行期間が延びてしまった実態だと中村は説明しました。

また、クラウドサービスを利用するBoxに関しては、「安全性に不安がある」「社外秘の資料を置かれては困る」などセキュリティ部門より反対する声があったといいます。そこで、クラウドサービス利用のセキュリティを担保する仕組みとして「CASB(Cloud Access Security Broker)」を導入し、例えばアップロードされたデータに、「社外秘」などのフラグが付いていれば、そのデータは隔離、削除し、その旨を通知するという運用を適用しました。ただし、その運用設計には様々な調整やルール決めが必要だったため、今では全員が納得した上でBoxを活用しているものの、Boxを普及させ運用を安定させるまでにも約1年の期間を必要としました。

さらに、仮想デスクトップ基盤の性能にも不満の声が上がりました。そのため、原因が仮想デスクトップ基盤のシステムにあるのか、接続するネットワーク側にあるのかなどを切り分け、CPU、メモリの状況を一目でみられる監視画面の作成や拠点ネットワークの監視/チューニングなど、様々な角度から対策を講じて早急に対応できる仕組みをつくりました。

仮想デスクトップの利用率が48%から70%へ。定着化が今後の課題

テレワークが実施できるようにシステムや制度を整備したとしても、実際に社員がそれらを活用し、柔軟な働き方の実現や生産性の向上につながらなければ意味がありません。富士通の場合も、最初から多くの社員が利用したわけではなく、正式導入直後の利用状況は仮想デスクトップ基盤が48%、Boxについては28%程度に留まっていました。

しかし、仮想デスクトップについては、社内における働き方改革の取り組みでテレワークの認知が一般的に広がったことや、持ち運びの負担にならない薄型・軽量のシンクライアントの配布を展開したことにより、2019年3月には仮想デスクトップ基盤の利用率が70%まで向上しました。

また、Boxについては、経営トップからのテレワークを推奨するメッセージが社員に響いたといいます。「さらに、社長からのメッセージ配信やEラーニングの全員必須受講などのトップダウンだけでなく、社内の共有ドキュメントを洗い出してBoxへ格納したり、利用率の低い部門への説明や、使い方の動画を作成し配信する、といったボトムアップの取り組みにも力を入れた結果、2019年3月時点ではBoxの利用率は70%に達しました。引き続き80%、90%を目指していきます」と中村は語ります。

85%の社員が隙間時間の有効活用を体感

では、テレワークの導入によって実際の働き方はどう変わったのでしょうか。中村は、例として入社2年目の女性社員のケースを紹介しました。これまでは自席のある新横浜のオフィスと汐留本社間で移動が多く、汐留での会議の後に新横浜のオフィスに戻って残業することが頻繁にありました。テレワーク導入後はそのまま汐留で作業ができ、移動時間が短縮されて定時内に仕事を終えられるようになり、英会話スクールに通える時間などが確保できるようになったといいます。

「テレワークの導入で、育児や介護と仕事を両立できている社員が増えたと思います。また定時で仕事を終え、家族と過ごす時間、趣味や資格取得の勉強に費やす時間が生まれ、ワークライフバランスを向上させている社員も多いのではないでしょうか」と中村はその効果について語ります。また、具体的な成果として、若い世代も介護に向き合う世代も、テレワーク導入後は離職率が低下していることも明かしました。

富士通では、オフィスや自宅だけではなく、第3のワークスペースとして、サテライトオフィスを積極的に展開しています。主要都市にある15事業所の一角に、100人程度が利用できる社内サテライトオフィス「F3rd(エフサード)」を設置しました。また、複数の民間シェアオフィス提供企業とも契約し、全国で170拠点を超えるサテライトオフィスを利用できるようにもなりました。特に首都圏エリアでは主要駅をほとんどカバーしており、お客様先の近くや自宅近くで仕事を終わらせ、そのまま帰宅することも可能となりました。

このようにテレワークが定着することによって、隙間時間を有効活用できていると体感している社員の割合は85%と非常に高い数字を達成しています。ワークライフバランスに関しては2人に1人が向上したと感じています。また、東洋経済新報社がまとめた「CSR(企業の社会的責任)企業総覧2017年度版*1」では、女性が働きやすい会社の第1位に選ばれました。

  • *1
    「CSR企業総覧」は東洋経済新報社が2005年以降、毎年実施している「CSR調査」をまとめたもの。2017年度版は2016年6~10月に調査を実施し、1408社(上場1364社、未上場44社)のデータをまとめている。

社内で導入、定着させた経験も苦労もノウハウとして提供

「テレワークによって業務を効率化し、生産性を高めるには、制度とインフラを整えるだけでは十分ではありません。利用を拡大、定着させるには利用者の視点に立ち、かゆいところに手が届くような継続的な改善が必要」と中村はいいます。テレワーク導入で得た苦労や失敗などのすべてを含め、ノウハウとしてお客様に提供できる経験を持っている点が、富士通の大きな強みといえるでしょう。

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