3つの事例に学ぶデジタルマーケティングを始めるために情シス部門がおさえるべき勘所

生活者や顧客企業のニーズを可視化し、対象層ごとにきめ細かなマーケティングを行うデジタルツールが一般化してきた。効果を上げるためには、社内にある顧客データを統合し、属性や行動情報を一元化しておくことが前提条件となる。しかし、いざ実行しようとすると、既存システムとのつなぎこみや目的に沿ったカスタマイズなど多面的な取り組みが欠かせず、マーケティング担当者にとっては大きな課題だ。富士通が実際に関わったデータ統合の現場から、デジタルマーケティングを成功させるデータ統合のポイントを明らかにする。

都内のオフィスで働く30代の女性Aさんは、通勤電車の中でスマートフォンを取り出し、ニュースサイトをチェックするのが日課だ。ある日サイトを見ていると、片隅に、カジュアル衣料ブランドのセール広告があるのが目に入った。30%OFF、と大胆な割引を打ち出している。「このブランド、昨夜のテレビコマーシャルでもセールをアピールしていたっけ。小学校に通い始めた娘の新しい服を買うチャンスかもしれない……」。

Aさんはすぐに、そのブランドのサイトにアクセスし、品定めを始めた。割引ポイントがたまるというので簡単な会員登録も済ませたが、購入する服を選んでいるうちに電車はオフィスの最寄駅に到着。結局、注文はしないまま、服を買うことはすっかり忘れてしまった。

数日たった金曜日のお昼時、このブランドからメールが突然届いた。近所のショッピングモールにあるそのブランドの店舗でも割引セールを実施しており、しかも、一部の商品は50%OFFとある。

そして週末、娘を連れてショッピングモールに買い物に出かけたAさん。到着するやいなや、スマートフォンにブランドから改めてメッセージが届く。「サイト会員の皆様には本日、2着購入で20%のポイントバックがあります」。それを見たAさんは、「娘の服と……それに私の分も買っちゃおう」とウキウキした気分で店舗に向かった――。

このストーリーは、今後のデジタルマーケティングが目指すべき姿を示したものである。テレビコマーシャル、ニュースサイトの広告、ブランドからの配信メール、店舗での割り増しポイントバック……これらは偶然に重なったものではなく、すべてはこのブランドが消費者の興味を維持し、購買へと導いていくマーケティングシナリオとして用意したものだ。

相手が受け取りやすいタイミングで興味を持ちそうな情報を提供する取り組みが、「より詳しく商品を知る」「購入への動機を高める」といったアクションの動機となる。消費者とのタッチポイントがオンラインとオフラインにまたがっていることも意識しつつ、大きな視点でマーケティングシナリオを考えていくことが重要な点だ。

マーケティングツールが威力を発揮しない理由

多岐にわたる消費者とのタッチポイントを管理し、一連のマーケティングを実施していくには、専用のデジタルツールを活用することがもはや常識となっている。しかし、現実はそう簡単ではない。代表的なデジタルマーケティングツールであるDMP(Data Management Platform)(※1)を構築したりMA(Marketing Automation)(※2)を導入したりしても「効果が出ない」という問題に直面する企業は少なくない。この問題について、多くの企業のデジタルマーケティングに関わってきた富士通社会基盤システム事業本部 事業戦略統括部の菊地大祐マネージャーは、「前提となる顧客データの一元化ができないことが最大の原因だ」と指摘する。

今、企業はユーザーに対して数多くのタッチポイントを持っている。営業や店舗運営といった活動に加え、キャンペーンやイベント、テレビCM、新聞広告、雑誌広告、ダイレクトメールといったプロモーション活動、そしてインターネット広告やメール広告、Webサイト、スマートフォンサイトなどデジタルでのマーケティング活動も展開している。

これらのタッチポイントで収集した顧客データは膨大で、しかもユーザーが重複していたり、一部の項目にふらつき(一意になっていない)や欠損があったりする。問題なのはそれらデータが、利用できる状態に統合されていないことだ。データを統合すれば、さまざまなタッチポイントで収集した行動履歴も集まり、冒頭に挙げた例のようにユーザーを“個”として捉えることができるようになる。さらに、顧客ターゲットを細かくセグメントで区切り、それぞれに最適なかたちでアプローチするといった細微なターゲティングも可能だ。マーケティング先進企業では既にこうした取り組みが行われているが、残念ながらまだ手つかずの企業は少なくない。

  • ※1
    自社サイトや他社サイトへのアクセス履歴などを集積・分析し、読者への広告配信を最適化するためのプラットフォーム。近年では広告配信以外に、目的に応じた顧客データの抽出、スコアリングなど多様なマーケティング施策に応用されている。
  • ※2
    顧客を獲得し購買まで導くマーケティング施策を、適時にきめ細かく実施するためのツール。Webサイトへの訪問者分析、有力顧客を見極めるスコアリング、キャンペーンメール配信等の機能を備える。

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データ統合なくしてデジタルマーケティングは成功しない
──事例に見る秘訣とは?

概要

  • マーケティングツールが威力を発揮しない理由
  • 「部門別」データ管理の壁を破れ
  • 「横串にしたデータ」から見込み客が見えてくる
  • マーケティング対象を自由自在に絞り込む
  • 膨大なデータを使いやすい形に加工する

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