「守る」技術

赤外線センサー

赤外線(波長が0.78~1000μm)の光を感知するセンサーです。

赤外線ってなんだろう

赤外線は目に見えない光

目に見えない赤外線は地球上に限らず、宇宙空間のあらゆる物質(絶対零度マイナス273℃より温度が高い物)から放出されています。

温度が高い→ 赤外線を多く(強く)放出します。
温度が低い→ 赤外線を少なく(弱く)放出します。

  • 氷などの冷たい物からも赤外線って放出されているのですか?

  • はい、もちろんです。例えば冷蔵庫で作った氷は、冷凍室の設定温度で保存されるので、マイナス18℃くらいです。氷からも赤外線が放出されています。

  • 冷蔵庫の氷がマイナス18℃だとすると、絶対零度マイナス273℃の世界ってどんなものか想像ができないですね。

  • 絶対零度とは、それ以上温度が下げられない限界の温度です。 地球上でもっとも低い温度として記録されているのは、1983年7月21日に南極(ロシアの基地ボストーク)における マイナス89.2度です。マイナス273℃の世界を実際に体感することができないので、想像するのは難しいです。

赤外線の周波数

音波や電波、光などは「波」の性質を持っています。その波の長さ(一つの波から次の波までの「一波(ひとなみ)」分の長さ)を波長と言います。目に見えない赤外線は、目に見える光(可視光)と比べて、波長が長い光です。

  • 赤外線も波長の長さによって、性質が変わります。呼び方も、目に見える光(可視光)に近い方から「近赤外線」「中赤外線」「遠赤外線」「極遠赤外線」と分けられています。

赤外線カメラとは?

赤外線カメラで撮影した場合

ホットコーヒーを撮影したらどのように見えるでしょうか

モニターで見ると、温度が高いところは白く見えます。低いところは暗く見えます。
*講座の中では、赤外線が強い(温度が高い)と白表示、弱い(温度が低い)と 黒表示するモニターを使っていると仮定しています。

赤外線カメラの冷却型と非冷却型の違い

  • 赤外線カメラには、冷やして使う赤外線センサーと冷やさないで使う赤外線センサーがあるのですか?

  • はい、日常で見かける赤外線センサーは、冷やさないで使うセンサーがほとんどです。例えば、人感センサー付ライトや非接触型体温計などです。

  • 冷やすセンサーと冷やさないセンサーの違いは何ですか?

  • どれくらいの温度差まで測定したいか、どれくらいのスピードで測定したいかで、冷やすセンサーと冷やさないセンサーを使い分けます。
    冷やすセンサーは、赤外線を吸収して、直接電気信号に変えることができます。そのため、とても小さな温度差を見分けたり、高速で動くものを捉えたりすることが得意です。小さな信号をキャッチするのが得意な反面、温かいところではノイズがとても大きくなるという問題があるため、ノイズを小さくする目的でセンサーを冷やす必要があります。

赤外線カメラの構造(冷却型)

カメラの中には、赤外線センサーと、冷やすための冷却部品が入っています。

赤外線カメラの基本原理

赤外線カメラのレンズは、可視光を通さないように作られたレンズ(人の目には鏡のように見えるレンズ)があり、その奥のちょうど正面に正方形の赤外線センサーが入っています。

1画素の断面

画素ごとに赤外線を吸収すると、自由電子が発生します。自由になった電子(マイナス)は、 そのあとn+(プラスの電圧が加えられている方向)に引き寄せられます。

電子が飛び出し沢山の自由電子になります。

赤外線の強さと画素の濃淡の関係

赤外線の画像

センサー部分の原理

赤外線を受けるセンサーの部分は、例えば1024画素×1024画素のように、画素の集合体であることは「基本原理」で説明しました。その画素部分の研究の歴史と、4種類のセンサーを説明します。(この講座で紹介するのは、液体窒素温度マイナス196℃に冷やして使うセンサーです)

研究の歴史と4種類のセンサー

  • いろいろ種類がありますね!

  • はい、順番に説明しましょう。

MCT(エム・シー・ティー)センサー

赤外線を受ける(吸収する)材料に 水銀とカドミウムとテルルをまぜた結晶を使います。材料を英語にすると、
Mercury(水銀)Cadmium(カドミウム)Telluride(テルル)
となり、このセンサーの名前になります(材料名としてこの講座ではHgCdTeと表示します)。

感度がとても良く、0.03℃の温度差まで、モニターに色の差として表示できます。ただ、材料のHgCdTe(水銀カドミウムテルル)は特殊な(もろい)材料なので、安定的に作り続けるのが難しいです。

  • HgCdTeは、特殊な(もろい)材料ということですが、なぜこの材料を使っているのですか?

  • HgCdTeは多くの半導体材料の中でも、波長の長い⾚外線を吸収できるとても珍しい材料です。そのため、⾚外線を吸収して電気信号に変える⾚外線センサーに使⽤しています。一番有名な半導体材料はシリコンですが、シリコンは太陽光を吸収して電気に変えやすい材料なので、ソーラー発電(太陽光発電)に使用されます。

QWIP(クウィップ)センサー

Quantum Well Infrared Photodetectors
量子井戸型赤外線センサーといいます。赤外線を吸収するセンサー部分には、GaAs(ガリウムひ素)とAlGaAs(アルミニウムガリウムひ素)を交互に積層したものを使います。

  • あれ? MCTセンサーは赤外線を吸収する層がHgCdTe の1層だったのに、QWIPセンサーは異なる材料が交互に並んでいますね、それはなぜですか?

  • いい質問ですね! HgCdTeは3種類の原子がひとかたまりになった結晶で、材料そのものが赤外線を吸収することができました。QWIPセンサーで使われているAlGaAs とGaAs は、HgCdTeに比べてとても丈夫で扱いやすい材料ですが、どちらも単独では⾚外線を吸収することができません。

    そこで、電子の集まりやすいGaAs層と、電子の集まりにくいAlGaAs層を交互に積層して、GaAs層を薄くしていきます。

    そうすると、小さな(この場合は「薄い」)領域に電子が閉じ込められることによって、GaAs層の中に電子が存在できる新たなエネルギー準位がいくつか生まれます。そのエネルギー準位が赤外線のエネルギーにちょうど合い、赤外線を吸収できるようになります。

    電子の集まりにくいAlGaAs層は、GaAs層の中のエネルギーの低い電子にとっては壁のように見えます。しかし赤外線の吸収によって活発になった電子はAlGaAs層を通り抜けられます。そこに電圧を加えると、活発になった電子を電気信号として外へ取り出すことができます。

QDIP(キューディップ)センサー

Quantum Dot Infrared Photodetectors
量子ドット型赤外線センサーといいます。AlGaAs(アルミニウムガリウムひ素)の部分はQWIPと同じですが、⾚外線を受ける(吸収する)センサー部分には、InAs(インジウムひ素)を使います

  • 断面図では半円になっているInAs層に電子がいるんですね。でもなぜ、わざわざドットにするのですか?

  • 垂直に入射する⾚外線を吸収させるためです。このことにより、たくさんの光を吸収しやすくなりますし、光を散乱させる光結合器を作る必要もなくなります。

  • でも、小さなドットをたくさん作りこむのは製造過程で難しいのではないですか?

  • はい、難しい技術ですが、ドットを作りこむノウハウを持っているのも富士通の強みです。

  • なるほど~!

T2SL(ティーツーエスエル)センサー

Type Super Lattice
赤外線を吸収するセンサー部分には、InAs(インジウムひ素)とGaSb(ガリウムアンチモン)を交互に積層したものを使います。
特徴は、QWIPやQDIPよりもさらに感度の良いセンサーを作れます。GaSbは新しい材料なので、まずは製造プロセスを開発する必要がありますが、今後、製造プロセスが安定するようになれば、製造コストが安くなる見込みです。

  • 各層を薄くすると、赤外線を吸収したときに、より強い電気信号をだすことができるのはなぜですか?

  • 各層を薄くし、層の数を増やしたので、それぞれの層で赤外線を吸収して活発になった電子を、より多く電気信号として外へ取り出すことができるからです。つまり、少ない赤外線を正確に検知できます。例えば、従来よりも遠方の物体の温度を正確に測ったり、従来よりも小さな温度変化を検知したりできるようになります。

  • QWIPやQDIPでは、電子がいる層と障壁層と書かれていますが、T2SLは正孔がいる層、電子がいる層と書かれています。それはなぜですか?

  • それは、GaSbにとってはInAsが障壁層の役割をし、InAsにとってはGaSbが障壁層の役割を担うからです。

  • おもしろいですね!各層の小さな(この場合は「薄い」)領域に電子または正孔が閉じ込められるため、お互いが障壁層の役割(エネルギー準位の差)になるのですね。

  • はい、その通りです。

  • 富士通製のT2SLのアピールポイントはどこですか?

  • はい、二つあります。一つ目は、InAsとGaSbの結晶成長をキレイに作れるところです。 結晶の質は、感度の良し悪しに影響します。二つ目は、側壁の加工技術です。結晶の端は何もしなければ、ほつれた結晶部分がセンサーの性能に悪い影響をあたえます。その端の部分をキレイに加工することができます。

  • 布も切りっぱなしだと糸がほつれてくるのと一緒ですね。きれいにほつれ止めするように、赤外線センサー用の結晶もキレイに加工するんですね。

ワンポイント

みなさんは学生時代に周期表を覚える為に「スイヘイリーベボクノフネ~」なんて覚え方をしたことがありませんか。地球上に存在する固体・液体・気体の全てはこの周期表の中に書かれている様々な元素の組合せで出来ています。二つ目の図では、半導体製品によく使用されるⅡB族~ⅥA族の元素です。

応用

冷却型赤外線センサーは、特定の波長だけに反応するセンサーを作れます。例えば、メタンや六フッ化硫黄のガス検知に応用できます。また、熱監視によって火山活動の状態監視などへの応用も期待されています。さらには、古くなった橋やトンネルなどでは、コンクリート内部の劣化を検知する用途なども考えられています。

  • 色々なことに応用できるんですね。古くなった橋やトンネルのコンクリート内部の劣化がどうしてわかるのですか? 表面上はキレイに見えている場合は、どうやって劣化部分を見分けてるのですか?

  • 表面を目で見ただけでは、内部の劣化はわからないですよね。しかし、劣化してコンクリート内部に空洞がある部分と正常な部分とでは、表面上に温度差が現れます。その温度差を赤外線センサーで感知します。

  • それはすごい!

小話

赤外線という名前の由来

雨あがりに虹が見えてうれしくなったことありませんか? 日本で見る虹は7色というのが定説ですね(見る人によって色数は変わりますが)。赤外線の発見には、虹が大きくかかわっています。
普段、太陽の光に色が付いているように見えませんが、実は色々な色の光がまざっています。虹は太陽の光が、空に残っている雨粒に反射して、7色に見えている現象です。

1800年ころ、ある研究者が7色の中でどの色が物をあたためることができるのか知りたくなり、実験室で人工的に虹を作って、それぞれの色の温度を測りました。しかし、どの色も物をあたためることができませんでした。 その研究者は、ふとした拍子に赤色の外側に温度計をあてた時、温度計の数値がグーンと上がったことに気がつきました。 この「赤」の先にも目にみえない何かががあるらしい、という発見して名前をつけました。「赤」の外側にあるから「赤外線」と名付けました。

そして、紫の先にも何かあるんじゃないかということで、別の研究者がすぐに「紫外線」を見つけました。 今では、赤外線と紫外線は私達の生活の中で、とても身近に使われている光ですよね。


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