「伝える」技術

5G(第5世代移動通信システム)

無線データ通信のトラフィック量は1年で2倍弱のペースで増加しています。多数のユーザが密集した場所で同時に通信しても、高速で快適な通信ができる技術を開発しました。

5Gって?

最近ニュースで聞く「5G」って何?

5Gは「ファイブジー」と読みます。「G」はGeneration(世代)の「G」で、5世代目の移動通信システムという意味です。持ち歩ける電話として、最初に製品化されたのは、「1985年 車外兼用型自動車電話(=ショルダーフォン)」でした。その後、製品化されたものを世代ごとに紹介します。

  • 1985年
    1G
    アナログ方式
    携帯電話専用機として携帯電話1号機 「TZ-802型」
  • 1987年
    2G
    デジタル方式 「mova(ムーバ)」
    電子メールの送受信やwebの閲覧ができる機種を発売(PHSも2Gの仲間)
  • 2000年
    3G
    マルチレートデジタル方式 「FOMA(フォーマ)」「W-CDMA」
  • 2010年
    4G
    超高速デジタル方式 スマートフォン「LTE」

5Gと4Gの違い

5Gの世界は、現在の4Gに比べてどんな違いがあるの?

1. 5Gはスマホの通信速度が上がります(4Gスマホよりも10倍速い)。

例えば、動画のダウンロードが速くなります。

2. 遅延が少なくなります(遅延5ms以内)。

例えば、ゲームの操作反応が速くなります。

3. 大勢の人が同時にネットワークへアクセスできます。

例えば、スタジアムにサッカーを見に行った際、電波が混雑してネットワークにつながりにくくなる、ということがなく、常につながる状態になります。

その他

  • 自動運転
  • 遠隔医療
  • 工場制御監視

5Gはいつごろ実現するの? 誰が決めているの?

5Gはいつごろ実現するの?

2020年頃です

だれが決めているの?

各国の標準化団体によって1998年12月に設立された3GPP(スリージーピーピー)というプロジェクトで決めています。
第3世代携帯電話(3G)とそれ以降の4G、5Gの仕様・作成を行う「標準化プロジェクト」です。
(「3GPP」は、Third Generation Partnership Projectの略です)

そもそもスマホはどうやって通話できるの?

スマホから送信した電波は、どこを通って相手まで届いているの?

  • 広い世の中で、どうして相手の場所が特定できるのですか?

  • 私達のスマートフォンや携帯から、常に電波が発信されていて、近くの無線基地局に居場所を知らせているからだよ。

  • え〜!、私のスマートフォンは使わずにポケットの中でも常に電波を発信し続けているということですか?

  • その通りです。目には見えないけれど、空気中には色々な電波が飛び交っているんだよ!

動画の反応が遅くなる時があるけど、なぜ?

同じセル内に大勢の人が同時に動画へアクセスしているためです。静止画であればあまり影響ありませんが、動画は容量が大きいので遅くなることがあります。

  • 大勢の人が同時に動画へアクセスすると、なぜ遅くなるのですか?

  • セルの中はみんなで同じ波長の電波を使います。大勢の人が同時に無線を使った場合、同じ波長を分け合います(時分割多重方式)。動画を見る人が大勢いた場合、自分に割り当てられる順番が遅くなるので、反応が遅くなります。

  • 「同じ波長を分け合う」、という意味がわからないのですが・・・

  • 電波を「波線」で表した時、その波のひとつの山の頂上から隣りの山の頂上までの長さを「波長」と言います。同じ波長の中で分け合うとは、同じ波長の電波を分割して順番に使うことです。

いつでもどこでも反応良く、動画を見るためにスモールセルを使用

通常の無線基地局(マクロセル)を補完するために使う基地局をスモールセルと言います。東京都渋谷区では人が多く、大勢の人が同時にスマホや携帯端末を使うので、すでにスモールセルが利用されています。

  • マクロセルとスモールセルで、電波が混乱しないのですか?

  • はい、混乱しません。使用する波長が違います。スモールセル内では異なる周波数を使用することで、電波が混乱(干渉)しないようにしています。一般にはマクロセルよりも高い周波数を使います。特に5Gではミリ波を使用することも考えられています。

マクロセルとスモールセルのエリアサイズ

明確な定義はありませんが、おおよその区別は以下のようになっています。また、スモールセルをさらにマイクロセル・ピコセル(ナノセル)・フェムトセルと区別する場合もあります。

使用する波長

ミリ波とは、ミリメートル波の略です。波長が1mm~10mmまでの範囲の電波で周波数では30GHz~300GHzの範囲の電波をいいます。

スモールセルの課題

今後、スモールセルが普及していくためには、2つの課題を克服する必要があります。

  • 狭いエリアで複数の人が同時に電波を使うので、隣り同士の電波が干渉しないことが大切です(ビームフォーミング技術)。
  • スモールセルをたくさん取り付けると、それだけで消費電力を使うので、1台のスモールセルの消費電力を抑える必要があります。

スモールセルの課題を克服、その1-電波の干渉を防ぐ

電波の干渉ってなに?

「電波の干渉」という言葉には、大きく2つの意味があります。
1つ目は、狭いエリアで大勢の人が同時に通信するので、電波同士が互いに邪魔し合う結果、通信速度が遅くなったり、通信が急に遮断されたり、という状況が発生することです。
2つ目は、複数の発信源から出た電波が互いに強め合ったり弱め合ったりする結果、特定の方角に強く、別の方角には弱く、放射される現象のことを言います。
最初に、1つ目を説明します。

  • 「干渉」って聞くと、他の人の行動とか生活に口出しすることを想像しますが、電波干渉はどういう意味ですか?

  • はい、それでは家の中の身近な電波干渉を紹介しますね。電子レンジで食品を温めている最中に、近くでスマホを使うと、いきなり通信が切れてしまうことがあります。それは電波が干渉したためです。

  • 電子レンジの15m以内で無線LANを使うと電波干渉が起きやすくなるから、電子レンジから離れた場所で 無線LANを使用するか、周波数を変えると干渉がおきないんだって!

そこで電波同士が干渉しないようにする技術が必要です。その技術が「ビームフォーミング技術」です。

電波の干渉を防ぐビームフォーミング技術ってなに?

電波の干渉(2つ目の方)を利用して、電波を発信する方向を変えたり絞り込んだりする技術です。これをスモールセルのアンテナに適用することによって電波の干渉(1つ目の方)を防ぎます。

  • ビームフォーミングってどういう意味ですか?

  • 英語でbeam formingと書きます。beamは「光の束」のこと、またformは「形づくる」を意味する動詞ですから、光の束のように特定の方向に集中的に発射するという意味です。

  • 懐中電灯で光を絞ることに似ていますね。

  • 通常のアンテナは電波を360度、同じ出力で発信します。ビームフォーミング技術が入ったアンテナは、電波を発信したい角度にコントロールできるので、電波が重ならないようにすることができます。

  • なんだかちょっと難しそうですね...

どうやってビームフォーミングしているの?

スモールセルの中に、複数のアンテナを並べます(アンテナが1つの場合には、360度放射状に電波が発信されます)。今回の「5G」用のアンテナは、複数個並べることで、隣り同士の電波がぶつかって強調されたり、打ち消しあったりすることをコントロールすることで、電波が発信される方向をコントロールしています。

  • 電波を強調?打ち消しあう?イメージがわきません...

  • それでは目で確認できるように水面にできる「波紋」を使って説明します!

「波紋」を使って説明

  • この水槽の手前側の面に沿って、この指し棒を入れて、上下させます。すると水面に波紋ができますね。その波紋を上から見たイメージで紹介します。

  • まずは「差し棒1本」の波紋です。

  • きれいな半円の波紋ですね!

  • 次は「差し棒2本」の波紋です。

  • あれ?!白黒の範囲が狭くなり、他は黒くなっています。

  • はい、波源が2つあると、隣り合った波が強調される方向と打ち消し合う方向が発生します。ここでは、波が強調される方向を白黒表示、逆に波同士が打ち消し合って静かになる方向を黒く表示しています。次は、「差し棒4本」の波紋です。

  • 白黒はっきりしている範囲(強調される部分)が狭くなりました!

  • はい、波源が増えると、白黒はっきりしている波の範囲が、より限定されたものになります。 次は、「差し棒8本」の波紋です。

  • さらに限定されますね。つまり、波源を増やすことで、波紋を絞り込めるんですね。

電波も同じです

  • へぇ〜そうなんだ!アンテナを複数台ならべると波紋と同じ現象がおきるんだね。知らなかったね♪

アンテナの数によって電波の範囲が絞られるのはわかったけど、方向はどうやってコントロールしているの?

  • 電波の波の位置を変えることによって、情報を表現するやり方を「位相を変える」と言います。つまり、ビームフォーミング技術は、「位相を変える」技術です。

スモールセルの課題を克服、その2-電力を抑える

スモールセルをたくさんの人に使ってもらうために、消費電力を低くする技術を開発しました

低電力化するための3つのポイントを紹介します。

1. ビームフォーミングして低電力化

  • 通常のアンテナの場合、セルの範囲内に電波が届くように、電力を高くする必要があります。開発したビームフォーミングアンテナでは、低い電力のままでも電波が届きます。

  • そういうことなんですね!

2. アンプ(増幅器)を4個から2個にして低消費電力化

  • 富士通オリジナル技術ポイント!
    開発した位相を反転させるスイッチを入れて、電力ロスを最小化しました。また、従来はフェーズシフタ1チップあたり、アンプ(増幅器)が4つ必要でしたが、2つに減らすことに成功しました!

  • つまり、どのくらい電力を下げることができたのですか?

  • フェーズシフタ部分の消費電力が、従来比で半分の3Wにすることができました。

  • スモールセル用アンテナ1つあたりの消費電力は、どれくらいですか?

  • 10W程度に抑えることができました!

  • え・・・、10Wって低いの?高いの?

  • 身近なところでは、普段使っているスマホやタブレットの充電が約10Wですよ!

  • す、すごい・・・、急に見近なものに思えてきた!

3. 材料にシリコンだけを使う(CMOS)ことで低電力化

従来はバイポーラトランジスタ(Bi-CMOS)で、シリコンゲルマという材料を使用していました。シリコンゲルマとは、半導体材料の一種でシリコン(Si)にゲルマニウム(Ge)を添加したものです。シリコン単体の半導体に比べて導電性が高いので、動作が速くノイズも生じにくいのが特徴です。

開発品はCMOSで、シリコン単体を使用しています。シリコンゲルマよりも消費電力を抑えることができ、値段も安く大量生産が可能です。シリコン単体でスモールセル用のアンテナを作ることができたら、5Gの普及速度が上がると思われます。

小話(実験室)

実験室

普段実験している部屋を見せてもらいました。そこは青い物体がたくさんあって、びっくりしました。
その物体は「電波吸収体」だという説明を受けて、電波の実験には欠かせないものだということがわかりました。
実験室は普段の私達(筆者たち)の生活とかけ離れている特別な世界に見えました。

  • 怖がらなくて大丈夫ですよ!青い三角の物体をさわってみて下さい!実は柔らかいですよ♪

  • ほんとだ~!びっくりした!スポンジのように柔らかいですね!

  • 電波吸収体」といいます。私達の周りにはたくさんの電波が飛び交っているのを勉強しましたね。開発中の無線機から出る電波が外部に漏れないように、また、外部の電波が中に入って こないようにした「電波暗室」という特別な部屋で実験を行っています。電波暗室の中で電波が反射しないように電波吸収体を設置しています。

  • 実験室っておもしろそうだね!探検に行って見たいな!


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