技術者インタビュー

「歩行特徴デジタル化技術」でヘルスケア領域のDX化をさらに加速

 

長年にわたって医療・保健・福祉などのヘルスケア領域向けに様々な最先端技術の研究開発に取り組んできた富士通研究所は今、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代における新たなアプローチとして「歩行特徴デジタル化技術」など、医療に貢献するための新たなデータ利活用の研究開発を進めています。欧州の研究機関、および富士通の現地法人とともにグローバルに最先端の新技術について共同開発を行う、富士通研究所 デジタル革新コア・ユニット サービスマッチングプロジェクトの技術者4名に話を聞きました。

2020年5月20日 掲載

MEMBERS

  • 猪又 明大

    猪又 明大

    Inomata, Akihiro

    富士通研究所
    デジタル革新コア・ユニット
    サービスマッチングプロジェクト
    シニアマネージャー

  • 駒場 祐介

    駒場 祐介

    Komaba,Yusuke

    富士通研究所
    デジタル革新コア・ユニット
    サービスマッチングプロジェクト
    マネージャー

  • 堀田 真路

    堀田 真路

    Hotta,Shinji

    富士通研究所
    デジタル革新コア・ユニット
    サービスマッチングプロジェクト

  • 笹本 勇輝

    笹本 勇輝

    Sasamoto,Yuki

    富士通研究所
    デジタル革新コア・ユニット
    サービスマッチングプロジェクト

「ヒトのデジタルデータ」で医療に貢献していく

近年、欧州や日本をはじめとする先進国を中心に、社会の高齢化や医療従事者の人手不足が深刻な課題になっています。日本では、特に地方部において人手不足が加速し、過疎地の病院では十分な医師を常勤させることができず、都心部との医療格差問題が顕在化しています。また、病院ではなく自宅でケアを受けたいという需要も日々高まっています。

こうした状況を背景に、現在では、政府や様々な医療機関、自治体などが連携し、医療従事者が遠隔地から高精細な映像などを共有しながら行う遠隔診療や遠隔画像診断の医療現場での活用が進められています。

このようなICT技術による医療への貢献にますます期待が高まる中で、富士通研究所では、患者の身体の状態をデジタルに把握して医療従事者によるケアを支援できる技術開発に着手しました。いわば、「IoTやAI技術を活用したヒトのデジタル化技術」の研究開発です。

様々な患者の状況把握のために「歩行データ」に着目

最初に、富士通研究所が欧州の研究機関と共同で実施したスマートハウスの研究プロジェクトの中で医療従事者によるケアを支援する研究をスタートさせました。このプロジェクトは家屋内の各所や居住者の体に取り付けた様々なセンサーを介し、人の運動機能異常を早期発見する技術の開発を目的としたものでした。当時、現地に赴任していたデジタル革新コア・ユニット サービスマッチングプロジェクト マネージャー 駒場祐介は次のように説明します。

「スマートハウス内に設置したセンサーや居住者が身に着けたウェアラブルデバイスから日常生活における大量のデータを収集し、そのデータから『歩行』『起床』『ドアの開閉』といった動作イベントとバランスを崩す傾向(運動機能不全)などを組み合わせて抽出して、医療従事者がこれまで気付かなかった隠れた異常を発見する取り組みを行いました」(駒場)

ヒトのデジタル化を実現するためには何が最も有効なデータかを模索する中で、行きついたのが患者の歩行データだったと同プロジェクトをリードしたシニアマネージャーの猪又明大は話します。

「人が歩くときの特徴やパターンは、運動機能や神経・呼吸器・循環器系などの病気を反映して様々に異なり、さらにいえば、同じ病気や怪我でも、その進行/回復の度合いによって変化すると言われています。また、歩行観察は言語に依存せず、理学療法士による歩行の観察業務は世界的に共通性が高い点にも着目しました」(猪又)

そこでスマートハウスの研究プロジェクトを通じて開発したデータ収集蓄積技術に個人のデータ管理技術による健康情報基盤を加えて始まったのが、歩行特徴のデジタル化技術を活用した医療のデジタル化実現のための研究プロジェクトです。プロジェクトでは大学や医療機関と協力し、患者をモニタリングして状態把握を支援する技術の研究開発・実験が進められました。

「入院中や退院後に療養する患者にセンサーを身につけてもらって取得したセンシングデータを分析・処理することで、デジタル化された歩行中のデータを理学療法士などの医療従事者に見てもらいます」(猪又)

症状によって異なるパターンの歩行データをできる限り収集し、例えば、脳震盪を起こした経過観察中の患者の歩行や立位のデータから、脳震盪の影響を定量化するのです。それを踏まえて開発されたのが、患者の両足首に装着したジャイロセンサーの信号から、多様な歩き方に対して歩行特徴を定量化できるアルゴリズムです。

「個人ごとの歩き方の違いの影響を受けないよう、歩行の動作法則モデルを開発し、高精度に歩行特徴を算出するようにしたことがポイントです。これを応用すれば、これまで理学療法士が主観的に判断するしかなかった患者の回復状況を、どこにいても簡便に定量的な数値の変化としてとらえられるようになり、より一層患者への個々の対応に注力できるのではないかと期待されています」(猪又)

歩行特徴デジタル化技術の概要の図歩行特徴デジタル化技術の概要

患者の両足首(踝の上側)にデバイスを装着。歩行の動作法則に基づくモデルを活用し、センサーの信号から、多様な歩き方に対して歩行特徴の高精度な定量化を行う。

「現場を知る」――開かれた富士通研究所技術者の役割

富士通研究所ではこの研究プロジェクトをスタートさせるにあたり、プロジェクトの共同研究を行う現地に技術者を派遣し、日本・欧州の各拠点がグローバルに連携・協力しながら研究開発に取り組みました。共同研究に協力した医療機関や富士通の事業部門との調整役をこなしながら現地で研究開発の指揮をとったのは、プロジェクトをリードする猪又です。また、猪又をサポートする形で入社4年目の笹本勇輝も現地に赴任しました。

「私が主に担当したのは、現地の医療従事者に対して富士通研究所が開発した新しい技術を現場の事例に沿って説明し、理解していただき、また、その際の議論を反映して技術の改善などに取り組む役割です」(笹本)

患者のモニタリングにより得られたセンサーの信号波形から歩行特徴を定量化するためのアルゴリズムの開発は、国内の富士通研究所で堀田真路が担当しました。

「歩行を定量化するアルゴリズムは、様々な患者のデータに基づいて一から作り上げました。アルゴリズムの開発に取り組んでいた当時、私自身が重度の捻挫で松葉杖で生活をしたことがあり、自分自身の歩行データも活用しながらアルゴリズムの完成度を高めました。偶然でしたが、脚が自由に動かない不自由さを味わったことで、患者さんの役に立ちたい思いが一層強くなりました」(堀田)

さらにセンサーデバイスが収集したデータのクラウドへの転送といった通信関係から、データ収集・分析を行うクラウド上のシステムまで、システム基盤の開発は、前身となるスマートハウスの研究プロジェクトでも活躍した駒場が担当しました。

「富士通研究所では、技術者として要素技術開発に没頭できる環境がある一方で、その社会実装を推進する機会も数多くあります。顧客や事業部門、関係する様々な専門家と密接に連携・協力し、時には現場にも赴きながら技術を社会課題や顧客の課題へのソリューションとして提供することが期待されています。また日本国内だけでなく海外に赴任したりグローバルに連携したりするプロジェクトも少なくありません。本プロジェクトの場合、社歴の浅い若手もメンバーとして参加し活躍しており、いわばスタートアップのような切り拓いて生み出す面白さがあるといえます」(猪又)

ヘルスケア領域への貢献をグローバルに目指す

今後は、日本や欧州の医療現場のデジタル化による業務効率改善を目指して様々な技術の開発を加速させていく予定です。また、今回の歩行特徴デジタル化技術など、確立した技術を日本国内をはじめ、全世界へ広めていく活動も視野に入れています。

「将来的には、デジタル化された患者の歩行特徴の変化などを、電子カルテシステムや介護システムと連動させ、AIで分析し説明可能な形で情報提供するといったように、データ利活用の幅を広げていきたいと考えています。ヘルスケア領域の技術開発は国ごとの法制度やルールもあって難しい部分がありますが、世界のヘルスケア領域のデジタル化に貢献するという自負のもと、今後も最先端技術の研究開発に取り組んでいきたいと考えています」(猪又)

集合写真

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