安心・安全なデータ流通の仕組みで企業や人々が新たな価値を共創できる世界へ

各企業・組織には、多種多様なデータが蓄積されています。それらのデータを相互に利活用していくには、安心・安全な「データ流通ネットワーク」を構築する必要があります。このネットワークの実現を目指して富士通研究所が開発に取り組んだのが、分散されたデータの流通制御技術である「VPX(Virtual Private digital eXchange)テクノロジー」です。富士通研究所はどのような社会を見据え、この技術がどのように貢献していけるのか。サービス指向ネットワーク研究センターに所属する3名の研究員に話を聞きました。

2019年4月5日 掲載

技術者インタビュー

MEMBERS

  • 今井 悟史

    Imai, Satoshi

    サービス指向ネットワーク研究センター 情報指向ネットワークPJ 主任研究員

  • 堀井 基史

    Horii, Motoshi

    サービス指向ネットワーク研究センター 情報指向ネットワークPJ

  • 関屋 元義

    Sekiya, Motoyoshi

    サービス指向ネットワーク研究センター長

情報指向ネットワークの思想を発展

IoTやAIの急速な普及・進展により、収集・蓄積した大量のデータを分析して新しいビジネスに利活用しようという取り組みが加速しています。それを実現するには単独の企業・組織のデータだけでは限界があるため、複数の企業・組織が保有する多種多様なデータを持ち寄って相互に利活用していくことが望まれています。富士通研究所では、こうした世界を具現化するための取り組みを進めており、富士通研究所 サービス指向ネットワーク研究センター 情報指向ネットワークプロジェクト 主任研究員の今井悟史は次のように話します。

「富士通には、デジタル技術とビジネスのノウハウを融合し、企業・組織の壁を超えて新たな価値を共創することを目指す『Digital Co-creation』というビジョン があります。各企業・組織には様々なアセット(データ)が散在していますが、自社が、自身の保有するデータを自身でコントロールしながら、流通する先を決めることができるネットワークの実現に向けた研究開発を進めてきました」

現在では、クラウドの利用によるデータの共有や一部の公共的な情報などをオープンデータとして公開するなど、データの共有や活用を促進する仕組みも存在します。しかし、企業・団体が組織の枠組みを超えてデータを相互に利活用するためには、それぞれのデータを一旦外部の第三者に預けなければならないなど、現在は中央集権的な仕組みに依存するケースが大半です。よりシームレスでより密接なデータ流通と利活用のためには、この仕組みでは限界があるほか、セキュリティ対策やプライバシー保護の面で懸念があり、二の足を踏む企業・組織が多い、という課題がありました。

そこで課題解決の1つのカギとなるのが「情報指向ネットワーク」の思想です。情報指向ネットワークであれば、コンテンツプロバイダーなどに代表される中央集権的な仕組みを用いず、データの利用者と提供者を直接結びつける仕組みが可能となります。

「私たちのプロジェクト名にあるように、もともとはIPネットワークに代わる情報指向ネットワーク(ICN=Information-Centric Network)やコンテンツ指向ネットワーク(CCN=Content-Centric Network)を研究していました。ICN/CCNは情報やコンテンツの流通をネットワークでコントロールするというアーキテクチャーですが、既存のプロトコルを置き換えるという考え方に基づいているためになかなか普及しませんでした。そこで私たちはプロトコルを置き換えるのではなく、既存のプロトコルの上にオーバーレイさせる仕組みができないかと考えました」(今井)

データ・ドリブンなDigital Co-creationの仕組み

ブロックチェーンを応用したVPXテクノロジー

データそのものや、そこから生まれる様々な情報や価値の流通を既存のIPネットワークの枠組みの中で安全に実現する――。このビジョンに向かって、富士通研究所 サービス指向ネットワーク研究センター 情報指向ネットワークプロジェクトが着目したのが、分散されたデータの流通制御技術である「VPX(Virtual Private digital eXchange)テクノロジー」をベースにしたデータ流通ネットワークです。

その取り組みは当初、IoTデータを流通・利活用するための分散システムの実現に向けた研究開発から始まったといいます。そうした分散システムを実現するための手段として、富士通研究所はブロックチェーンに注目し、これを応用する形で技術開発を進めていきました。

「私たちは、仮想通貨の分散台帳として用いられていたブロックチェーンの他分野での活用の可能性に気づき、データの流通・利活用に応用した仕組みづくりにいち早く着手しました」 (今井)

こうして誕生したのがVPXテクノロジーです。富士通研究所 サービス指向ネットワーク研究センター 情報指向ネットワークプロジェクトの堀井基史は次のように説明します。

「VPXテクノロジーは、データの改ざんが実質的に不可能なブロックチェーンの分散台帳機能を独自に拡張し、分散環境におけるデータごとのネットワーク制御に応用した技術です。これまでのデータ流通は、各企業・組織のデータを外部のクラウド事業者に預ける中央集権的な仕組みでしたが、VPXテクノロジーでは各企業・組織が所有するデータを手元に置いて自社で管理したまま、信頼するパートナーへ必要な時に必要なデータのみを直接流通させることができます。このVPXテクノロジーが適用できるのは、何もデータ流通だけに限りません。ビジネスプロセスなども含むあらゆるアセットを流通・利活用する仕組みとして使えます」

富士通研究所は、2017年6月に開催されたInterop Tokyo 2017でVPXテクノロジーを発表。それが審査員特別賞を受賞したことから一気に事業化が進み、2018年5月に「FUJITSU Intelligent Data Service Virtuora DX データ流通・利活用サービス」(Virtuora DX)として製品化するに至っています。

VPXテクノロジーの概要図

データ流通・利活用サービスとして製品化

VPXテクノロジーをベースに製品化されたVirtuora DXは、企業・組織が保有するデータの概要情報をポータルサイト上で共有・見える化することで、複数の企業・組織での共創を実現するデータ流通・利活用サービスとしてリリースされました。データを利活用したい企業・組織は、特定のテーマごとにグループ化されたコンソーシアムへ参加するか、もしくは自社が利活用したいデータのコンソーシアムを立ち上げて参加者を募ります。

「データ自体は提供者の環境に置いたまま、データに紐づけられたIDと属性情報をブロックチェーンの分散台帳上に登録します。利用者は属性情報から必要なデータを検索し、該当するデータの提供者へ利用申請を行います。提供者が利用者の申請を承認すると、データが利用者に送付されます」(堀井)

さらに富士通研究所が取り組んだのが、データ流通の信頼性を向上させる新しい技術の研究開発です。

「利活用可能なデータの中には、いくつものデータから生成・加工されているものもあります。データを利活用する企業は、こうしたデータが信頼できるのかどうか来歴情報をたどる必要があります。また、GDPR(EU一般データ保護規則)など個人情報保護の厳格化により、データの透明性を確保する必要があります。そこで私たちが開発したのが、データの生成・加工履歴や個人情報に対する本人同意といった来歴情報を、安全に管理・共有する技術です。それが『Chain Data Lineage(チェーン・データ・リネージュ)』です」(堀井)

Chain Data Lineageは、Virtuora DXの拡張機能として実装し、実用化を目指した実証実験が計画されています。

データ流通の来歴を管理しトラストな社会を実現するChain Data Lineage

社会貢献につながる研究開発を継続

VPXテクノロジーをベースにしたVirtuora DX、その拡張機能であるChain Data Lineageといった技術を次々と送り出してきた富士通研究所ですが、流通されたデータのAIによる利活用も想定しているといいます。

「AIの学習モデル構築にはデータが不可欠です。そのためAIに学習させるデータそのものの出所をきちんとトレースし、信頼に値することを担保できなければなりません。さらにAIがデータを処理すると、新しいデータがどんどん生成されてそれが連鎖的に広がっていきます、目的に応じて信頼できるデータのみを流通させる。ここにフィットするのが、まさに情報指向ネットワークをベースにしたVPXテクノロジーであり、Chain Data Lineageです」と富士通研究所 サービス指向ネットワーク研究センター長 関屋元義は話します。

さらなるデータ流通・利活用を促進する技術開発に継続して取り組んでいる富士通研究所では、ICTを通じた社会貢献こそが最終的な目的です。

「インターネットが登場して30年が経過し、いまやあらゆる情報を簡単に入手できる時代になりました。しかし最近は、不確かなデータも数多く存在し、何を信じてよいかわからないという負の側面も見え始めています。そうした背景も含め、富士通グループが掲げるデジタル時代に沿ったあらたな信頼性「Trust 」という顧客提供価値を大切にしています。データをただ流通させるだけでなく、その来歴や根拠を明確にした信頼できるデータとして利活用できるようにするのが、私たち富士通研究所のテクノロジーです。ここをしっかりと踏まえたうえで研究開発に邁進することが私たちの目指すところであり、社会貢献につながると信じています」(関屋)

業種を超えたデータ活用で新たな街づくりを目指す東京・丸の内エリアでの実証実験
(三菱地所株式会社、富士通株式会社、ソフトバンク株式会社、東京大学 大澤研究室 主催、2018年5月~2018年12月実施)

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