Vol.6IT業務・プロセスの改革(2)

システムライフサイクル最適化に向けて

システムの設計・開発から運用、保守というシステムライフサイクル全体での利用価値の最大化に向けて企業のIT部門はどのように対応すべきなのでしょうか。前回は、設計、開発のフェーズだけでなく、保守、運用の段階にもフォーカスした利用者ニーズの理解と迅速な対応の重要性について議論しました。今回は、さらにこの命題の解決に向けて、運用・保守を含むライフサイクル全体のコントロール、利用期間全体を通した期待効果の最大化について考えていきたいと思います。

一般的なシステム開発計画では、ウォーターフォール型の手続きに従い必要となる保守、運用の体制、予算が策定されます。つまり、各々のフェーズにおける最適が優先され、結果として個別に作り込まれたアドオン開発構造や個別システムに張り付けられたシステム運用の組織構造となりがちです。このため、システムの利用段階における変更要求に対し柔軟な対応が図れず、時間、コストの両面においてオーバーヘッドを負担することになります。

こうした計画内容に起因するロスを削減するために、ビジネスが要求するサービスレベルの閾値予測、そのレベル毎のコストの可変性とリスクなどの諸事項を曖昧にせず、事前に詳細な検討を行うと共に、利用者にも理解できる説明を果たすこと、つまり「サービス視点のプランニング」が求められます。

サービス視点のプランニング

サービス視点のプランニングにおいて重視されるポイントは、(1)利用者が容易に理解できるように、選択可能なサービスパターンを複数用意すること、(2)利用者がサービスパターンの変更を希望するときにローコストで柔軟に対応できる構造を構築すること、の2点でしょう。このサービス提供のメニュー化により、利用者から見た各サービスはモジュール化されますので、従量課金モデルとして動的な利用選択が可能になります。クラウドサービスは、その利用対価として従量制が前提となっていますが、PaaSやIaaSは利用者にとってサービス単位でのコスト認識が困難です。「自部門が利用するサービスは現状いくらで利用しており、仮にそのサービスレベルを変更した場合、コストがどのように変動するのか?」この質問に答えることができるのはIT部門だけであり、また、それはIT部門固有の任務であるといえるでしょう。例えば、ピーク特性が不規則、かつシビアな対応が要求される業務のヘルプデスクでは、そのピーク上限を基準に各リソースを実装する傾向がありますが、仮に業務量の一部変動によるコストインパクトのボラティリティを把握し、適切な課金ができれば、IT部門主導でのコスト最適化を目指すことができるでしょう。こうした利用者視点のマネジメントを実現するためには、導入計画時点における精緻なプランニングとサービス単位での原価計算の精緻化が欠かせません。

クラウドサービスが普及している現在では、例えば基幹系はパッケージベース+スクラッチ、情報系はSaaS適用など、想定する利用期間や経年変化が違う多種多様な技術・特質をもつシステム適用のパターンが拡大することは必至でしょう。クラウドの普及が時間軸を意識したサービス視点でのプランニング・設計手法のあり方を検討する大きな推進力になっています。

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